DETECTIV BOYS
何故こんな事になったのだろう。体に穴が開きそうだ。自分をこんなにも恨む日がくるとは思わなかった。
「……何コレ。バッチ?」
とある強盗犯が所持していた拳銃の入手ルートを特定し、上機嫌だった私。爪先に何かが当たり、屈んで確認するとホームズの絵が描かれたバッチだった。誰かの落し物だろうが、周りには誰も居ない。交番に届けようと思っていたのだが、風見さんから至急戻れと呼び出された。届けるのは後でも良いかと後回しにしたのが大間違いだった。
「戻りましたー」
「入手ルートは特定できたのか」
「裏ルートから入手していたようです。組織とは関係ありませんでした」
「こっちもそうだ。裏ルート、それもアメリカから」
「向こうは銃社会ですもんね」
「降谷さんには俺から伝えておく」
「お願いします」
風見さんへ報告し、直ぐに警視庁へ移動し捜査会議に参加していた私はバッチを拾ったという事をすっかり忘れてしまっていた。
午後四時。
報告書を作成していた時だった。突然、子供の声が聞こえてきたのだ。其れも、ポケットから。遂に頭が可笑しくなったのかと思ったが違った。拾った事を忘れていたホームズのバッチから聞こえていたのだ。よく見るとDETECTIV BOYSと書かれている。
「聞こえますか?」
「…も、もしもし?」
「そのバッチ、僕落としちゃって」
「え?あ、ああ!コレね。ごめんね、拾った事すっかり忘れてて、今届けに行くから場所教えてもらえる?」
「僕達下にいるの」
「下?」
「警視庁だよ」
「えっ?!」
外に出ますと伝え急いで下に降りると、可愛らしい子供達が五人居た。本当に居たよ。え、怖い。このバッチ発信機でも付いてんの?息を整えながら近寄ると私の考えている事を察知したのか、眼鏡を掛けた子が眼鏡で追跡出来るということを教えてくれた。
「へえ、便利ね」
「博士が作ってくれたんだよ!」
「博士?」
「阿笠博士です!博士は凄いんですよ〜!」
「そ、そうなの」
「姉ちゃん、拾ってくれてありがとな!」
「いえいえ」
「ねえ、お姉さんって刑事さんなの?」
どう誤魔化そうかと考えていると、後ろから誰かの名前を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると手を振りながら近付いてくる警視庁刑事部捜査第一課の高木刑事だった。
「こんな所でどうしたんだい?って、蒼井さん!?」
「高木刑事、お姉さんと知り合い?」
「え?あ、ああ。彼女は、僕と同期なんだ。あれ、確か今は…」
「高木くんこそこの子達と知り合いなの?」
「事件の時によく出くわして」
よく事件に出くわす小学生って、可哀想に。誰か呪われてるんじゃないのかと思いながら子供達を見ていたら、大人っぽい女の子に顔を背けられる。不自然な態度が気になり声を掛けようとすると、眼鏡の子の後ろに隠れてしまった。
「もう遅いし、お姉さんが送ってってあげる」
「本当ですか!?有り難う御座います!」
「私は遠慮しとくわ」
「じゃあ、気を付けてね!って、言う訳ないでしょ。物騒な世の中なんだからね!」
「……だとよ」
「高木くんは早く戻らなくていいの?」
「やっば!じゃあね、みんな!」
慌てて戻って行く高木を見送り、近くに停めてあった愛車に子ども達を乗せる。面倒だからと近くに停めといて良かった。車を取りに行っていたら、あの子絶対逃げてた気がする。彼らは帝丹小学校に通っている少年探偵団で、数々の事件を解決しているらしい。これだけ喋ってしまうと、探偵には不向きだよねと思いながら一人また一人と家に送り届ける。
「次は、えーっと、灰原さんの家かな?」
「お姉さん、灰原の家今日誰も居ないんだ。だから、僕ん家で一緒にご飯を食べる約束してて…」
「そうだったの。じゃあ、コナンくんのお家教えてくれる?」
「うん!毛利探偵事務所までお願いします!」
「……ん?毛利探偵事務所?」
「うん!」
ハンドルを握る手から汗が吹き出してくる。背中なんて冷や汗が止まらない。不審に思われないように、平常心を微かに保ちながら運転していた。元気な三人組が降りてからは車内には沈黙が続いていた。その沈黙が、更に恐怖心が募っていく。ああ、遂に着いてしまった。毛利探偵事務所に。神様、どうかお願いです。降谷さんが店から出て来ませんように。
「高木刑事に宜しくね!蒼井お姉さん」
「伝えておくね」
「お姉さん、有り難う」
「いえいえ」
灰原さんが階段を上がろうとするのと同時に店の入り口が開く。私の願いは叶わないようだ。にっこりしているが、目の奥が笑っていない上司が出て来て江戸川コナンくんと話している。
「こんばんは、蒼井さん」
「こ、こんばんは!」
「安室さん知り合いなの?」
「お隣さんなんだ」
「安室さんはどうして此処に?」
「ああ、僕は其処の喫茶ポアロで働いてるんです」
「そうだったんですね」
「蒼井さんはどうしてコナンくんと?」
視線が痛い。穴が開きそうな位の鋭い視線で私を見ている降谷さんの恐怖からか、言葉が出てこない。私の代わりにコナンくんが事の発端を説明してくれたのだが、威圧感が半端無い。ああ、戻れるなら昼間に戻って近くの交番に届けたい。
午後八時半。
降谷さんからキツいお説教があったのは言うまでもないが、あの時、どうしてコナンくんは私が警察官だと話さなかったのだろう。まあ、其れが不幸中の幸いなのだけれど。