あんだけ期待していたわけだが、炭治郎は驚くほどいつも通りだった。俺は拍子抜けしていた。
(え、ハートマークのついたLINEは?お弁当は?好き好きアピールは?振り向かせ大作戦は?)
「善逸、俺の顔に何かついてるか?」
屋上での昼食時間。
ついこの間まで冬に逆もどりしたのかと思うほど寒い日もあったというのに、本日の気温はまさかの24度。長袖のシャツがうっとおしくてたまらなかった。
炭治郎はあっけらかんとした笑顔でそう言うもんだから、俺が逆にこのあさましい思考を見透かされるんじゃないかと焦って缶ジュース片手にケツであとずさる。
「…いや、何もついてないけどさ…」
戦々恐々として言うと、そうか、と炭治郎は素気なく感じるほど潔く伊之助に顔を戻した。
(いやそこは!何かついてるのか?取ってくれないのか?って甘えるところじゃないの!?そう言われたら俺も炭治郎の顔になにかついてる体で近づいたりしたかもしんないじゃん!)
心の中の俺はそうヒステリックに喚いていたけど現実にそう騒げるわけがない。しかも、炭治郎なんかあの日からそっけなくない?にこにこの横顔も優しさもそのまんまだけど、なんとなく、俺に話しかける頻度が少なくなったような気がするのは、俺が炭治郎に期待してるからなのか。
お前、あの気概は一体どこいっちゃったのよ。

ずっとずっと炭治郎のことを考えている。
いつ、炭治郎が俺に好きになって欲しいってアピールしてくれんのかずっとそわそわしてるのに、炭治郎はそんな俺なんて知らんふりであいからず皆んなに優しい。
でも、俺は炭治郎にとってのみんなのうちの一人じゃ嫌なんだ。
なぜか焦っているのは俺の方だった。
だから今日も、炭治郎に俺へのアタックの機会を与えようと一緒に帰る約束をしたんだ。昨日は俺が委員会あったから無理だったけど、一昨日は一緒に帰ったし、その前の日も一緒に帰ったけど炭治郎はいつも通りで、家の方向の分岐点で別れて。今日もそうだったら嫌だなあと既に若干落ち込みながら昇降口で炭治郎を待っていた。
「善逸、待たせて悪いな」
「んー、いいよ、帰ろ」
それでも、炭治郎はやっぱり他愛もない話を俺にする。
兄弟のなかであったお菓子の取り合いのこと、小テストのこと、最近ペットが欲しいこと。俺は全部熱心にうんうん相槌を打って聞いてやった。
いつ、炭治郎が俺への好意を出すかわからないしさ。もしその時がきたら、俺はすぐさま口説き返してやるんだ。その手を繋いで、炭治郎のこと好きになっちゃったって言ってあげて、あわよくばその先へ。
そう息巻いてる俺のことなんて知らずに炭治郎は笑う。かわいい。はやく、付き合えたらいいのに。炭治郎と付き合えたら、あの、生徒指導室での出来事の続きだって。
俺が急に立ち止まったので、数歩先に進んだ炭治郎が不思議そうに振り向く。
「…どうした?」
西に傾いた春の日差しを顔に受ける炭治郎。まぶしくて泣けてくる。
ああ、こんなはずじゃないだろ。逆なんだよ。俺のことであたふたするのはお前の方のはずだったのに、俺ばっかり。
「ぜん、…」
ブレザーの腕を掴み、俺は自分の顔が真っ赤になっているのを自覚しながら炭治郎を間近で見つめた。炭治郎の顔も同じく、さっと染まるのを確かに視界にとらえた。
「…炭治郎、」
「…何…」
「俺に、好きになって貰うんじゃなかったの、どうして何もしてこないの」
本当馬鹿みてえ。結局俺は炭治郎に振り回される側だ。炭治郎には勝てない。早くこんな俺をどうにかしてくれよ。こんな据え膳ってないだろ。
「ぜん、いつ、」
「何もしてこないなら、こっちから手出しちゃうよ」
近道に大通りから外れた狭い道を通っているばかりに周りに人がいないのが悪かった。
俺は炭治郎にキスした。
触れるだけのそれでも俺たちにとっては一大事の大事件だ。
ああ、やっちまった。もう知ーらね。