あの日を境になまえの周りに出現するようになった高町なのはさん。なまえは彼女の姿を見かけると無性に居心地が悪く感じてしまっていた。

私を探しに来たのか、私を見つけると、いつも話しかけようとするんだよね。もしかして見られてた?と首を捻る。

とりあえず教室の前から姿を現すと私はもう一方の出口から出る、廊下で見かけるとトイレに向かったり道を変えたり、バスで見かけると音楽プレーヤーでその場をしのいだりとあの手この手で彼女を避けた。その都度念話で何度も呼びかけられた。反応しないようにするの結構大変なのに。

そろそろ諦めてくれないかな。

そんなこと思いながら休日街を歩いてる最中に大きな声で呼び止められた。

「ああー!みょうじなまえさん!」

現在イヤホンもしておらず、しかも、他人の振りをするにしても思わず足を止めてしまっているため後の祭りである。

「えっと、」
「あ、あの!私っ高町なのはっていいます!」
「はあ…」

なまえの対人会話レベルの低さはもしかしたらスライムにも負けているかもしれない。年下の女の子からのキラキラとした表情を一瞬だけ見て取れてしまいなまえは悪寒が走った。

(わたしと正反対…!)

もちろん性格が、である。
逃げ腰ななまえに気がついたからか、何を思ったのか、彼女は申し訳なさそうに、「ついてきてほしいところがあるんです」と言った。

念話で反応しなかったせいか言葉で伝えてくる彼女にどう返答しようかあぐねていると、「あっ、今日じゃなくてもいいんですけど、できるだけ早いうちにっ、つて言われてて」慌てて手を振るなのはに、これは後ろに誰かいるなぁ、なんて予想をつける。

「えっと、高町、なのはさん」
「…!はいっ!」

彼女は顔を綻ばせ大きく頷いて返事をする。
それを不思議に思うそろそろ諦めて欲しかったなまえは投げやりにOKのサインを出した。

「わぁっいつなら大丈夫ですか?」

「ん…と、できれば今日の方がありがたい」

案になまえは明日の午前や日の高い時間に指定されて長時間居座らせられるのを拒否するためだった。今からなら日も沈んできた頃合い。できるだけ早く切り上げる口実が出来るという算段だった。まあそれが意味のない考えだったことは本人は知らぬところ。






なのはについて行くこと徒歩20分。鳴海公園に到着する。なのはは何処かに連絡を取っているようでこちらに聞こえない声で何かを話していた。

「はい、お願いします」

締めくくりそう言い終わった後、なのははなまえの方を見てえへへ、と笑った。

「今転移して迎えに来てもらえるみたい」

無計画でごめんなさい、と済まなそうに眉を下げる。なまえとしては転移して迎えに来るってなんだ。と突っ込みたい衝動に駆られたが、この子も魔導師だった。と寸で思い直した。気の抜けた声で了解をしめす。

「あー、うん」

「あ、来たみたいです」

数分もしないうちに現れた青白く光る魔法陣を指差しその中へと入る。
見計らったように転移したなまえたち。なまえは転移した場所をじっくりと見渡した。魔法陣が消えどことなく暗い道を、ここはどういうところなのか説明するなのはの後を追うように続いてく。


すると1人の人影が姿を現した。

「はぁい!いらっしゃいなのはちゃん!その子がみょうじなまえちゃん?」

なまえよりも15cmほど高い身長でにこやかに笑顔を振りまくその人物になまえはまた一方引いた。

たかいなぁ、テンション。

苦笑したなまえの様子なんて気にも止めずなのはとその女性は会話を続ける。

「こんにちは、エイミィさん!はい、こちらがみょうじなまえさん、私の先輩です。なまえさん、こちらエイミィさんです。ここの執務官補佐をしてる方です」

紹介されたなまえは視線を合わすことを戸惑いへらりと笑って「こんにちは、みょうじなまえです」と頭を下げる。

「うっひゃー、これまたクール系のかわいこちゃんだねぇ」
「ですよねですよね!なまえさん何度か話しかけようと遠目で見てたんですけど戸惑ちゃって!」
「え、や、え?」
「あー、うんうん、わからないでもない。こう、高嶺の花みたいな感じだよね。思わず躊躇しちゃうわぁこれは」

なまえが戸惑いの声をあげてもなんのその。なのはとエイミィと呼ばれた女性は盛り上がり話のネタとなった本人は数分間放置となった。

「なまえさんの話を聞いて回ったんですけど、あんまり詳しく知ってる人もいないし、学校でしか会えないから街で会えてすっごく幸運でした!」

すみません、そこまで気のおける友人がいないだけです。

「なんか彼女勉強も運動も出来そうな感じだよね」

ごめんなさい、その実態はただのゲーマーなオタクですよ。

「先生受けもよさそー」

目も合わせ見ない生徒なんて好かれることないっすよ…。


なのはとエイミィの怒涛の語り合いで疲労に溢れたなまえは、ひとりツッコミをしながら居心地悪く暇を持て余していた。なまえはもはや諦めて話が終わるのを待つことにしていた。コツリコツリと足音が響く。そして声変わり前の少年の地の這うような声が聞こえた。

「エーイーミィー?遅いからなにしてるかと様子を見に来たらキミはまったく……」

「………あっ…ははは、クロノくん」
「あ、こんにちはクロノくん」

ひゃー!っと冷や汗を流しながらアワアワ慌てて動揺するエイミィに、普通に笑顔で挨拶するなのは。ここまで対比する2人も珍しいなと視線を持ち上げる。と、ガッツリ目があってしまった。ギクリ、と内心強張る。

ぞくぞくと走る背筋になまえは眩暈を起こしかける。鳥肌がたつほどに苦手な対人関係。悪い事をしていないにも関わらず誰に対してもそれが苦手ななまえは始めて逸らせない、逸らすことが許されない相手と出会った。

たらりと背筋に冷や汗が伝う感覚が走る。

「キミがみょうじなまえさんか、話は聞いているよ。僕はここ、次元航空艦アースラ所属、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。よろしく頼む」

どことなく青みのかかった黒い瞳に漆黒の髪。吸い込まれるようにクロノの言葉を聞いていたなまえは、知らず知らず差し出された手を握り口を開いていた。

「よろしくお願いします」

「さっそくなんだが、艦長のところに向かう、なのはも着いてきてくれ」

なまえの言葉に顔を緩めるが、一変して切り替えるクロノになまえは内心感服した。数秒で離された握手した掌を握りしめる。深呼吸し息を整える。さすがに艦長となるとお偉いさんなはず。なまえは未だに呼ばれた意味を理解していなかったが出来る限り失礼の無い様に当たろうと気を持ち直した。


「失礼します、艦長」

一言断りを告げ開いたドアをくぐる。
そこには綺麗な緑の髪をした女性が正座してお茶をたてていた。赤い敷物に盆栽、見るからに和を強調した一角になまえはあんぐりと口を開いた。

えええ。

いろいろツッコミが追いつかず、ただ戸惑いだけになったなまえをなのはだけが同意を示すように苦笑していた。

それになまえは私の価値観間違ってないよね、と察した。


「あら、そんなところに立っていないで座って座って?」

楽しそうに笑う女性。なのはがなまえの手を引きリンディの前に連れて行く。チラリとクロノを見れば渋い顔をして頷いていた。なるほど、これが通常運転なのか。

「どうぞ」

差し出された煎茶にお砂糖はいくつ?と何の疑いも持たずそう問われ、それに首を振って思いとどまってもらう。あらそう?と残念そうにする美人に心を痛めかけるが、差し出されたのは角砂糖だ。流石にあれを受け取る勇気はない。差し出されたお茶を作法通りに飲みチラリと目の前の人物を見やれば彼女は角砂糖を6つ入れていた。二度見した。スプーンで混ぜてほっこりとした顔で飲んでいた。思わず凝視した。