(A's最終話/お付き合い後)



「なまえちゃん!」

こつり、と本局を歩いていると後ろから関西訛りの声が聞こえた。聞き覚えのある声に振り返る。

「はやて、リイン」

初等部からの後輩に知らず知らず笑みが浮かぶ。

「お久しぶりですー!」

リインが両手を上げハイタッチを求める。それに片手を上げ応えればはやてが笑った。

「今日は一人なん?」
「いまからご飯行きませんかー?」

ふたりの誘いにおー、と頷きなに食べるー?と話題を食事に向ける。

「んー、私はサンドウィッチかなぁ」
「私はパスタ食べたい」

お昼を思い浮かべながらうかれて午後の教導を一旦忘れる。本局の通路は人が多い。特に食堂の前は顕著だ。なまえは数秒煩わしそうに顔をしかめる。

「こーら、そんな顔したらあかんよなまえちゃん!」

けらけらと笑うはやてに意識を戻す。
いや、だって今日は混み過ぎじゃない?と肩を竦めた。

なんとか昼食を受け取り席に着くとはやては両肘をついて乗り出した。

「それで!なまえちゃん、クロノくんとはどうなん!?」

ゲホッゴホッゴホ
水を口に含んだところを見計らって言うもんだから確信犯じゃないのかこの子。恨めしげにはやてを見やれば罰が悪そうにあちゃー。と顔をしかめていた。ワザとじゃないんだよな、ワザとじゃ…なまえは気管支に入ってしまった水をゲホゴホと噎せ生理的涙を浮かべながら質問にどう答えようか頭を働かせる。

そして無難に返事をすることに決めた。

「どうって、普段と変わらないけど」
「つまり、らぶらぶってことです?」
「リイン…ラブラブかはさて置き、仲は悪くないと思う…たぶん…」
「ふあああ、恋する乙女は可愛いなぁ、なあ、リイン?」
「はいです!」

「で、で?具体的にどうなん?なんか進展あった??」
「な、なんか今日は随分踏み込んでくるね…?」
「だってクロノくんはアースラやし、なまえちゃんと会う機会少ななってるって思うと気が気じゃないんよ〜」

なんではやてがそこまで気に病むかな…。なまえは苦笑を浮かべ、女子ってなんでこうも恋愛脳なんだろうと頭の隅で考える。話のネタはそれ以外にも沢山あるだろうし、古い仲なのだから、ってまあ身内ネタだから面白いのかもしれないな。と何処か冷静な頭で納得する。

「それにクロノくんって真面目が服着て歩いてるようなもんやし」
「なまえさんと正反対ですもんねぇ」
「そーんな二人の恋バナ気になるに決まっとるやん?」
「おいこら」

流石に正反対は失礼だ。自覚がないわけじゃないけども。
ムッとして二人を睨むと冗談冗談ーでもほんまのことやろ?としたり顔で言うはやてになまえは言葉に詰まる。

「それは冗談とは言わないよ」
「そか?でもなまえちゃん達のお付き合いって全然想像出来ないっていうか、二人ともあっさりとしとるから実際どうなんかなぁって」
「………あっさり…」
「ありゃ?」
「なまえさん固まっちゃったですー」

なまえにとって3つ年上のクロノ。しかしはやてにとっても、なまえは2つ上の同じ学校の先輩なのだ。まあ敬語を使っていないが。実は学園では高嶺の花扱いされているためなまえに恋愛話を振るのは学園の人にとって興味津々なのだ。

「あ……のさ、はやて。」
「ん?なんやなまえちゃん。」
「その、さ…、クロノくんもアッサリしてるとか、思ってるのかな…」
「え?」

なんやこの子可愛い。そんなにも気にしてるなら本人に聞けばいいのに。はやてはニヤニヤと笑い赤くなっているなまえの態度に悶える。チラリとリインを見ることを忘れずに。それにリインはパチリとウインクを送った。

「かーわいいなぁなまえちゃん!クロノくんにあげるのもったいないわぁ!」
「な、ちが、クロノくんは私が勿体無いくらいの人だよ!」
「ゲーマーにここまで思われるクロノくんってホンマ何したん」
「……………」
「見えてるで2台とも」

さっと隠すなまえにはやては苦笑した。


日々ニートしたいしたい言っているなまえが実は彼に会える確率が関われる確率が増えるというだけでこの仕事に着くことを選んだなんてまだはやては知らない。



後日談

「あ、クロノくん。久しぶりやな、お疲れ様ですー」
「はやてか。今日はどうしたんだ?」
ほがらかに挨拶するはやてとリインにクロノは首をかしげた。

「リインのメンテにちょっとなー」
「そうか…」
「そうそう、クロノくんに会いたかったんよ」
「ボクに?」

自分に会いたかったというはやてになんの用事だと考えを巡らす。なにかの相談事だろうか。指揮官になるために勉強中のはやてから色々相談されることも多いクロノは特に深く考えず先を促した。

「プレゼントや。リイン、こないだのアレ見せたりー」
「ハイです!」

はやてに指示されたリインは笑顔でクロノの前に先日の様子を一部始終見せた。

「…これは…なまえ…って…」
「あらまあ真っ赤になっちゃって」
「あらあらです〜」

普段のクロノくんやとここでお叱りがくるんやけど、相手がなまえちゃんやからなぁー。怒られることはないやろ。あない可愛い彼女を見せつけられて。

「…ちょっと行くところ出来たからこれで失礼する」

「はーい、ほなまたな。クロノくん」
「失礼しますー」

にっこりといい笑顔で答えるはやてを悔しそうに見つめたあと、登った熱を冷ますように首を振ってから。クロノは本局であることを忘れ走り出した。

「ふたりとも性格わっかりやすすぎやなー」
「そこが素敵なんですよー」



その後

「なまえ!」
「ってあれ?クロノくん…お帰りなさい」

なまえが居たのはもちろん彼女の自宅。鳴海市ではなく、ミッドに居住を移している。クロノと会うのはアースラの任務から約1月振り。
なまえは目を丸くして彼を迎え入れた。

「うん、ただいま。」
「ってあの、えっと、手…」
「目、合わせて」
「えええっと……」

玄関口で?となまえは焦ったように視線をさまよわす。うわわわわ、近い、近い近い…っとなまえは赤面を隠せずなんとか視線を合わす。身長差ゆえにここで、上目遣いになってしまうのはご愛嬌なのか。

「好きだよ、ちゃんと。心配かけてごめん」
「あの、えっと…私も、その、好きです。でもあの、急にどうしたの…?」

いきなりの告白になまえは動揺が隠せない。握られた手に固定された視線に自分の心臓が痛いほどなってるのが伝わってくる。思わず視線をツッと横にズラせば、


「目、逸らさないで」
「うう……クロノくんどうしたのほんとに…」

ダメ。と言いながら指摘する彼に半分泣きそうになりながら告げるとクロノも紅くなり

「ボクだって健全な男だからね、あんなの魅せられた後には好きな子独り占めにしたいんだよ」
「あんなの……?」
「秘密」

秘密ってなに。秘密って。そんな顔も素敵ですよ好きですクロノくん!とこぼれ出そうになった言の葉を口の中で嚥下した。