次元震に目が眩んだと思ったらここはどこだろうか。一体どこまで飛ばされたのだろうか。ちょっとまってくれよ、思わず起動したままであったデバイスのラディアルークに確認を取る。

「ルーク、どうなってる?クロノか義母さんに連絡つく?」

<<…いえ…つきません。恐らくですが…次元断層の狭間にある世界ではないかと>>

「は!?ちょっ、ルーク!もしかして戻れないとか言わないよね!」

<<戻れる戻れないかは今のところ判断しかねます>>

ルークの言葉に動揺を隠しきれない。というよりも隠そうともしなかった。<<マスター>>ルークの呼びかけにハッと正気に戻る。

<<私も共にいます。諦めないで>>

確かに、私一人だとできることも考えることもままならない。私たちは二つ揃って一人だ。

とにかく、現状把握だ。
周囲を見回し建物を探す。人影もないか様子を探る。
星を超えても繋がる通信は何故か繋がらない、なら私の魔法は…?
人影がなく閑散としていることを確認しついでに結界を小さく張ることもできた。右手の人差し指を立て魔力を込めれば小さな魔法弾が出ることを確認。ということはここでも魔法は十分に使用可能ということだ。とりあえずは生存確立が上がった。

よし、なら今夜の宿を取らなくては。聞き込みから始めるかと探索魔法を準備する。
「こういうのはユーノの方が得意なんだけど」
ため息をついて地面に手を当て、魔法陣を展開する。おっけー、掴んだ!うし、と一人頷いて魔法をそのまま解除する。

大体3kmくらいかと結果に自然と肩が落ちる。魔法を使える世界でも、魔法が存在する世界ではないのかもしれない。現に私の故郷である地球もほとんどの人が魔法の存在を知らない、架空のものであるとしている。

これだけ日が高いうちから飛行魔法なんてできるわけがない。サンサンと照たっている太陽に憎らしげに目を向けため息をつく。魔力残渣に誰か気がつくかもしれないがそれが人間じゃなかったら?まあ危険な橋には重りをつけて乗らないようにしておこう。

とぼとぼと数キロ歩いていれば人影がみえた。

「あの、この辺りに宿泊できる施設ってありますか?」

これ幸い、情報収集だと話しかけたのは肝っ玉の良さそうなオバさんだ。隣には息子だろうか、体格のよさげな若い男性が立っていた。

「宿泊できるとこ?
この辺りにもたくさんあるっちゃあるけど…他んとこらと比べるとかなり割高だよ?」
「え、そうなんですか?」

思わずと言った形で驚く。どうやらこの辺りは観光施設かなにかあるようだ。そういえばここの通過なんだろう…と慌てたところで

「お嬢ちゃんは腕っ節に自信があるかい?」

男性に声をかけられた。
しかし彼はおばさんに咎められる。

「ばっか!こんなか弱そうな女の子に変な提案するんじゃないよ!綺麗な顔に傷でもついたら責任とれるのかい?ミールに言いつけちまうよ」

「え、母さん!ミールに言うってどういう…」
腕っ節…は、まあ可もなく不可もなく。純粋な力比べは叶わないだろうたぶん。しかし気になる話題である。もし、実力があれば宿を提供してもらえるなら願ったり叶ったりだ。

「あの、その話詳しく教えてください!」
「え?」
「なーにいってんだい、あんたみたいな華奢な女の子が行ったってなんにもできないで終わるだけさ」

オバさんに鋭く止めるように言われるがそれでも構わず頭を下げた。

「俺達が今から観戦に行くところ天空競技場さ。あそこなら実力だけで宿も金も手にはいる。一攫千金を狙える場でもある。」

「ほんとですか!」

「ま、あんたみたいな娘には娘無理な話だろうがなー…」

「構いません!あの、その建物って…」

焦る気持ちを隠さずに問いかければというと男の人は顔をしかめ女性は快活に笑った。

「ははっ気に入ったよ!嬢ちゃん、あんたがもし100階クラス以降に上がったら応援してあげるよ!」

「母さん…」

男性が大きなため息をはいてダメだこれは…と頭を振る。そして道先をまっすぐに指差し、「あの馬鹿でかい建物がわかるか?」とその先に見える一本の高い高い空へ伸びる建造物を示す。

「はい」

「あれが天空競技場さ」

思わず振り返る。若干渋っていた彼がにっと笑う。

「俺も嬢ちゃんが上がってきた際には応援するよ。俺らがファン1号だな」

「ふ、あんたは二号だけどね!」

そんな会話が続いて長蛇の列が見えかかった頃シトラさん(母親の名前である)は指差して言った。「あれが参加者受付の列さ。さ、並んでおいで」と笑った。

「たぶん順調にいっても今日は宿がないと思う。困ったら俺らを訪ねておいで」

シオンさん(こちらは息子の名前である)は心配してますと顔に書いてあるのがわかるくらい眉を下げてなまえを見た。

「何から何まで本当にありがとうございます、とりあえず今日はここで頑張ってみますね」

お辞儀をして彼らの後ろ姿を見送った。