本日140階に上がった私はのんびりとモラウさんが来るのを待っていた。昨日のうちにハガキを出しておきたかったのだが仕方が無い。もし弟子剥奪されたら元も子もないし。

カフェショップで適当に飲み物を買いぼんやりと立っていた。


「嬢ちゃん」

待ち始めてから2時間ほどであろうか。彼はゆったりとした歩調でなまえの側まで来た。
「待ったか?」

「問題ないです。お仕事お疲れ様です」

ペコリ頭を下げると彼は笑った。

「いや、遅れたのは仕事じゃねぇんだ」

「?」
「ちょっとツテを当たってたんだ」
「はあ…」

適当に相槌を打つが意味はわかっていない。
首を傾げて彼を見上げればほらよ、と何かを取り出した。

テープ?手に乗せられたそれを見つめていたら俺もまだ見てない。部屋に案内しろと急かされた。鍵を開けて、

「ど、どーぞお入りください」

「家主が先に入れよ普通」

お互いの沈黙の後しぶしぶドアノブに手を掛ける。

モラウを通しビデオをセットする。
流し始めてそれが自分の試合だということがわかった。この相手は見覚えがある。90階からのビデオだ。

このビデオを撮った人はどんな人物なのか、こんな面白くもない開始早々終了する試合。

「見たことのない型だな。」
「…!」

流れ始めて数分、試合にすると3試合、これが型だとはっきり断言した。

「嬢ちゃんもうだれか師がいるのか?」
「や、あの、これは確かに型ですけど…ストライクアーツってしってます?」
「聞いたことねえな」
「広義的に言うと打撃による徒手格闘技の総称です。反則なんかしなければほぼなんでもありの競技なんです。」
「嬢ちゃんはそこで師をもってたってことか」

「…師匠…は、そう、ですね。」

はーん?と納得いったようなもしくは疑いをまだ、持っているかのような声色にまあそうだろうな。と眉を下げる。

だいたい私が教わっていたわけじゃないのだ。自分の子供たちに混じって一緒にやっていただけなのだから。いや、教わるってよりも教える?のほうがニュアンスとしては近いのかも知らない。まあ、引退する前は陸戦隊の教導官だったんだ。ストライクアーツは囓っている。ノーヴェと共にのんびりとした教室を開講していた程度だ。あの子たちは元気なのだろうか。クロノくんたちに心配かけてしまう。

「い、一応私が有段者なので、師というのは特にいませ、ん。私も一緒になって教えていたというか…」


この世界にきてまだ一週間程度だ。それより前の話をしても信用ならないだろう。ストライクアーツ自体はポピュラーな競技で、管理局でも優秀な人材を探す目的としても、観戦としても楽しんだものだ。

モラウの目がサングラスで見えないということもあり、どこまで話せばいいのか考える余裕がある。

「まあ、確かに格闘のセンスはあるな」

流石有段者だ。
そうビデオを眺めながらモラウが言った。そこに流れているのは本日行った試合だった。

「まあ嬢ちゃんが嘘をついていないことはわかった。だが言えないこともあるみたいだな。理由とやらがあるんだろう?一々んなことまで詮索しない。どの道このまま行くと200階なんてあと数日だ。念の基礎くらい覚えておかなければその先には進めないな」

そうなんです。なぜここまで見透かされているのかは驚くがまあ、バレているなら仕方が無い。

「それに嬢ちゃんにもやる事があるんだろう?念を覚えたら俺の仕事手伝うって事で手を打とうじゃないか」

「え、いいんですか?」

「ああ、久々に面白いやつとあったしな」

こんなにわかりやすい奴はあいつら以来だと喉を鳴らして笑った彼に過ったのはクセの強い彼らだ。彼らと同類なんてちょっと切ない気もするがここは素直に頭を下げる。

「ありがとうございます。なまえ・ハラオウンです。なまえと読んでください」

「ああ、知ってるようだが俺はモラウ=マッカーナーシ。んで、だ。」

視線を私に持ってきた彼は腕を組みいっておくが、と前置きをした。


「俺は格闘のセンスはないからな。教えるのは念に関してのみだ。」

「はい、問題ないです」

「よし、なら早速念について説明してやる」

つまり念とは、自らの肉体の精孔という部分からあふれ出る、オーラとよばれる生命エネルギーを、自在に操る能力のことだ。
念を使う者を「念能力者」と呼ぶが、一般人の間では念能力の存在自体が知られていないことも多く、霊能力者・超能力者と呼ばれていることも少なくないと言う。

「まあ嬢ちゃんは知ってたみたいだがな」

モラウの言葉に曖昧に笑うにとどめる。

なぜ知ってるかといえばもちろん媒体紙からなのだが。ジャージに着替えさせられ背中に押しあてられた念。いよいよ、生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

「ちなみにそのままでいたら死ぬぞ自然体でいろよ。心を落ち着かせてオーラを纏うようにしてみろ」