150階、160階順調に上がることができた。
警戒されているのかなまえから距離をとって仕掛けようという相手が増えて来たが、そんなことは無問題である。もちろん、カッコ良く言ってみたかっただけですけど。

なまえは確かに一撃で決めにかかるが、根本はそうではない。それならそれで戦い方を変更する。そもそもストライクアーツはミッドチルダで最も競技人口の多い格闘技て、広義では「打撃による徒手格闘技術」の総称である。

つまりストライクアーツは一撃に限った話ではないのだ。流派によって師によってさらに個人に合わせその形を変える。
私はノーヴェたちと共にうちの子やヴィヴィオ、コロナやリオたちを鍛えてきた。
まがりなりにもコーチが負けるわけにゃいかないよね。

そう考えると特務6課の所属断っといて正解だったな、なんて苦笑い。あの子たちに申し訳ないけど、どれだけこの世界にいるかわからないが長期間抜けるような奴の所属なんてダメだよ。なまえは一歩目に力をいれ間合いを詰める。手で届かないなら?それなら脚を使えばいいじゃない。

体を捻り跳躍したまま回し蹴りを対戦相手の脇腹に入れる。ストライクアーツ、シューティングアーツの際、なまえの気迫は一度切り替えると普段からは想像もつかないほどの気迫で相手を襲う。ペロリと唇を舐め吹っ飛ぶ相手を一瞥し、スッと表情を緩めありがとうございましたと一礼。

これで稼げるんだからある意味すごいよねこの施設も…いったい何で儲けてるんだろう。

ぷらぷらと歩いているといつの間にかそこは自室だった。あらら、しまった。考え過ぎて無意識に戻っていたな。戻ってきたのなら仕方ない。頭を振って意識を切り替える。今から師匠に呆れられないよう、念の修行をしますか。

魔力制御は解除していないためかリンカーコアに負荷をかけるといつもよりも気怠さが増す。ぐっ、と呑み込み座禅を組むように座り目を閉じて精神統一を図る。




人知れずしばらくそうしているとノックの音が聞こえた。
パチリと目を開き、ドアノブの鍵を開く。師匠が現れそのまま修行は再開となった。


修行は順調にすすみ、めでたく200階に行けることになった。ただ少し勿体無いと思ったのがファイトマネー。お金はいくらあっても困らないもんね。師匠が言うから仕方なく、仕方なく諦めたけど。

「おっまえ、本当にガキかよ」

念を一通り教わった後に言われた言葉だ。とりあえずいつもどおりへらりと笑い返した。
苦笑いがとまらない。
修行を始めたばかりだが魔力と変わらず、鍛えれば鍛えるだけ伸びる様で私は自分の身体の構造に内心あきれ返る。

まさかこんなことに(自分の知っている世界に来てしまうことに)なるとは思わなかったが、なってしまった今となってはこの世界でこの体質がどれだけありがたいことか。

「あとは、自分に見合った能力を考えてみな。行き詰まったらヒントだけ与えてやるからここに連絡しろ」

そういってモラウから渡された紙に書かれた番号を手渡されたなまえはおもむろに手を上げ空中でスライドさせた。

「師匠、連絡先なら持ってますよー」

「ンァ?おいおいなんだその光ってるもんは」

「まあ、通信用の媒体です。」
「パソコン…か?」
「結界さえ張っていなければ通信も出来ますよ。近ければ近いほど通信はしやすいですけど」
「念とは違うのか、たしかに凝をしなくても見えてるな。…おい、これちょっと隠で隠してみろ」

モラウが空間モニターを差しながら提案する。なまえはこれを?と尋ね返せば、いいからはやく。と急かされる。

「りょ、りょーかい…」

頷いたもののなまえは感覚で身についている魔力と覚えたての念をどうやれば重なるか全く分からなく黙り込む。

念で覆いなおしてみる?え?それは違うか。応用に応用を重ねたそれはなまえを悩ます。ぐるぐると急に言われて頭がテンパっているのがわかる。

「できねぇのか?」
「うええっとうーん…」

出来る出来ない、というよりも、理論が展開できない。というのが正しいかもしれない。これは念ではないのだ。魔力イコール念の式が立つのなら簡単な話なのだが、そうではない。

腕を組み考え込むなまえにモラウはため息を吐いた。修行しているうちにこういうことが何度かあった。こいつは実践になると頭で考えるよりも先に手や足がでるが、常日頃の動作は意味のないことでもグタグタと考え込む質が顕著に目立っていた。

「どーして俺の教え子たちはこうアクが強いのかねえ」ぼやくように言ってなまえを見やれば彼女は纏まらない考えにオーバーヒートを起こし目をぐるぐると回していた。

「もっと単純に考えろよ、つまりそれもお前の一部だろうが。」
「ぅー?うーん、でもこれは…」
「いいか、それはお前の中に存在する力なんだろう?」
「は、はい。まあそうなります」
「念能力じゃないから制約も誓約ないと」
「そ、そうですね、一応ただの通信媒体ですから」
「なら簡単だろう?」
「えええっ?」

い、言っている意味がサッパリだ。なまえは頭を抱えた。これは師から弟子への問題提起なのだろうか。ならば腕の見せ所だ!と言ってみたいのだが、グッと飲み込む。

魔力を魔力の膜で覆うことはAAランクほどになれば可能だ。念で魔力を覆うことも理論上は可能だ。ならそれの応用だと思えばいい。もしかしたら他の魔法も隠で隠せるのかもしれないのだから。これはたしかに頑張ってみる価値はありそうだ。

「まあ、精進しておきます」
「おう、ならオレはいくな。嬢ちゃんとの修行案外楽しかったぜ」
「お世話になりました。」
「お前のことだからしばらく200階クラス挑戦してみるんだろ?なら勝つ気で挑んでこいよ」
「いえっさー!」

声を鋭くさせるモラウに元気に返事をすれば、喉で笑われ、じゃあな、と踵を返し部屋を後にした。




さーて、特訓特訓。やることやらないとこの世界では死と隣り合わせだからね。暗殺者やら殺し屋とか犯罪者ごろごろしてるからね。私が作った能力は人を殺すための力じゃないし、魔法と念が相互作用することについても実験をいくつか行ってわかっている。この身体の距離感もだいぶわかってきた。大体ヴィヴィオと同じってところだろう。体力もそれなりにあるしこれなら、ハンター試験も…あれ?師匠、ハンター試験の話題あれから一度も…あれ?


モラウさーーーん?!