現在定食屋なう!


なーんて、最近他人に慣れたと思ったなまえだがそんなことはなかった。本人は満足していたか、注文する際の彼女は「ああああああの、ステ、ステーキ定食をえっと、」「焼き加減は?」「えっと、弱火で、じっ、くり、でお願いしま、す、」「あいよーっ」渇いた喉を震わせて自分に幻滅しながら目に涙を溜めていた。10歳程度の少女が全身を震わせて恐る恐る注文する様は注文を受け取った主人が逆に動揺しておたまを落とした。そうしているうちに少女はバイトの姉ちゃんに奥の部屋へと連れてかれ会場へと向かって行った。


「おいおい、あの嬢ちゃんあれで本当に試験受けんのか?」

「ばぁか、あんたあの子見てわかんなかったのかい?あの子の乱れのない纏、あの年齢であれだけの念を習得してるなら不思議じゃないよ」

「あんな嬢ちゃんがねぇ…世も末だな…」


そんなことを会話されていたとはつゆ知らず、なまえはホッと息を吐いた。一人の空間、たまらなく安心する。明らかなぼっち精神にルークがツッコミを入れる。

<マスター先ほどのは酷すぎると>
「セっ精一杯なんだよあれでも!」
<私にすら声が裏返っていますが>
「辛辣!」

コントのような内容にルークはあからさまなため息をついた。そしてなまえに目の前の食事を勧める。「ああ、そっかいただきます」そういって食べ始めたなまえはもきゅもきゅと口に放り込んで食べていた。

がちゃん、と開いた扉に意識をそちらに向ける。店員と一緒に歩いてきた人物になまえは身を固くした。

「すみません、相席でもよろしいですか?」

よろしくないです。なまえは寸でその言葉を飲み込み店員に引きつった笑みを返す。それを了承ととってしまった店員はありがとうございます、と頭を下げ引いてしまった。え、まじかよ。なまえは口に残った肉を飲み込みながら呆然となる。

「ゴメンネ?」
「い、え」

なんとかその言葉だけ発し視線を定食に戻す。狂った一人の奇術師、別名変態ピエロが目の前に存在している事実をなまえは食事を再開しながら悪寒が走る背筋に叱咤する。

「ねぇ☆」

ぞぞぞ、と背筋に虫が走る感覚になまえは思わず顔を背けた。もきゅもきゅと口を動かしたままだ。

「キミ、いくつ?」

対面する彼をちらりと様子を伺う様に見たなまえは水を一口飲むことでその一言を黙殺した。頬杖をつきにっこりと笑む様はまあ腹の底を探られている気分になったがまさにその通りなのだろう。

「うーん、警戒されてるのかなぁ?」

ご明察。ともう一口肉を頬張る。

<<マスター>>
<<なーに?>>
<<この先に生体反応多数です>>
<<そだね、これから向かう先はもっと人が集まるよ>>
<<何かあれば私もご協力致します>>
<<何にもないことを祈りたいものだよ>>

現在進行形でね、と手を合わせてごちそうさま、と呟いた。

「おっと、食べ終わったかい☆」
「……おにーさん、ご飯食べてる時会話は極力しないのが、マナーだよ」
「へえ、初めて聞いたなぁ、どこ出身?」
「…ジャポンですよ」

へらりといつものように言ったところでエレベーターは止まる。椅子から飛び降りるように席を立ち、開く扉をくぐり会場に歩み進める。

「つれないネェ☆」

熱視線を受けた気がしたなまえは変態怖い。と、ぶるりと震える両腕を抱えだきマーメンからナンバープレートを受け取る。ヒソカが会場に姿を表すとその場は喧騒に包まれた。その喧騒に乗じて、大きなコートのフードをなまえは目深く被り視線に耐えるべく俯き気配をゆっくりと絶ち姿を消す。


とりあえず、無事試験会場にたどり着けたことを素直に喜ぶべき、だよね。ざっと50人はいる会場に足を踏み入れたときから、実感はしていたが、我が師匠モラウのうっかりにより危うく受けることができなくなるところだった身としては激しく感慨深い。


しばらく回想したりルークと会話したり過ごしていると試験管が現れ第一次試験が始まった。つまり主人公…ゴンたちも到着したということだ。まあ機会があれば話してみようかな、と思っている程度だ。自分から話しかける?無理無理。なんでわざわざ話しかける必要があるのがわからないよ。

ゆるゆると足を動かしていくと好奇な目で見られていることに気がついた。やっぱり目立つかな。自分の小さくなった両手を見てため息をついた。せめてもう少し年齢が上だったらと肩を落とす。スピードをあげ、前の方を目指していけばその場にレオリオとクラピカを見つけた。二人の雰囲気は重苦しく、希望動機、を打ち明けていた。

別に動機なんてなんでもいいじゃないか。なまえはその場を通り過ぎながら思った。けして口には出さなかったが、なまえの本心だった。私は教導をしているとき1番重要視していたのは、モチベーションと、意思だけだ。動機と同じと言われるかもしれない。だけど、その動機がいつ自分の中から消え去るのかわからない。モチベーションを維持できるだけの強い意思が大切だ。私はそれをずっと見てきた。

意思か強ければ強いほど私は教導する子にキツく当たる。その分目に見える結果と、充実した実践を与え、生徒に私が最良だと思う道を示し続けた。

確かに、きっかけは大切だけど。いいじゃないか、動機なんて。要は、それを実現するうえでの意思の強さだよ。目指す上で知っておくべきこととそうじゃないこと、公私をきちんとわけること。

ふ、と意識を彼らに向けた。レオリオは半ばやけになって階段を上っていた。その頑張る姿に私は思わず顔を緩めた。
いいね、そういう子大好きだ。教官の血が騒ぐのを感じ、にたにたと顔が緩み切った。元から素質ある子ではないのかもしれない。でもああいう子はいいね、自分に打ち勝つ事ができる人なんて早々いない。いきなりこんな小さな娘がそんな事言い出したらドン引かれること間違いなしのためここはぐっと我慢する。ゆらりと被ったフードが揺れる。


「あれ?キミも受験生?」
「オレらよりも年下じゃね?」

真横から聞こえた声になまえは目を瞬いた。え?いつの間に?なまえはキョロリと目線だけで辺りを把握した。一心不乱に走りすぎて先頭に来てしまったらしい。目の前の少年たちをチラリと見てから視線を前に戻す。

「おーい、シカトかよ」
「ねえねえ!俺ゴンっキミは?」

シカトしたわけではないんだけど、なー
小さく小さく、彼らに答えるべく声を紡ぐ。

「なまえ、10歳、かな」
「10歳!?俺はもうすぐ12!」
「オレはキルア、ゴンと同い年。つーかおまえ、一人で来たのか?」

年上振るキルアの問いになまえは頷く。その態度はすでに逃げ腰で視線を何度か彷徨わせサトツ背中に落ち着いた。

彼らの目は真っ直ぐすぎて私には辛い。何が辛いって目をじっと見てくるところだ。背筋がゾゾゾと悪寒が走り、冷や汗がでて心臓がバクバクいって私には耐えられない。一気に掻き乱れたペースに私は視線をさりげなくズラすことで対処しようと試みるも彼らによって阻まれる。

「なまえはさ!どうしてハンターになろうと思ったの?」

また動機か。なまえは内心苦笑いを漏らした。まあ11歳の子供に辛く当たっても仕方が無いだろうとなまえは素直に答える。

「必要だから」
「え?なにが?」
「ハンターのライセンス?特権が?」

首を傾げる彼らに端的な答えを返す。

「はい」

ハンターになればライセンスがもらえる。そのライセンスには身元の保証からお金の担保、立ち入り禁止区域の立ち入り許可まで私が必要としている要件が出揃っている。もちろん一番はホテルに泊まったりする時に必要な身元の保証、証明だけれど。もしかしたら、帰るために必要になってくる可能性が否定できない。だから取得するのだ。

なまえの答えに2人は「へぇー」と口を揃えた。そして各々の動機を話出した。
ゴンは父親を探すため。キルアは難関だと聞いたから挑戦しに、なまえは相槌をつきながら聞き手に徹した。

そんなときキルアからじっと見つめられる視線をフード越しに感じた。

「えっと………」

な、なんですか、ね。と問えばキルアは「お前さぁ、」と口を開く。

「オレらと会話すんの嫌なんじゃね?」

「えっ!?そうなの!?」

「さっきからオレらと一度も視線合わないしさー、フード取らないし、会話してても上の空だし内容が深まらないっつーか」

べ、別に嫌なわけじゃないよ。と気まずい雰囲気となったなまえは時間をかけてそういう。「えっと、ただ、人と会話することが苦手なだけで、っど、どう広げるとかも、あんまりわからないし…」話してると口下手な自分に泣きたくなるし…なまえはとりあえずごめん、ほんとごめん。と謝る。するとキルアがポン、と手を叩いた。そしてなるほど!と笑った。

「つまりは、あれだ、コミュ障なんだな!」
「コミュ障?」
「おー、豚クンが言ってたんだけどさーなまえみたいなやつをコミュ障って言うらしいんだ」

わいわいと話すふたりになまえは渇いた口をパクパクと開閉し呆然とした。確かに自覚していたつもりであったが、ここまで大っぴろげて言われたことはかつての友人たちにしかなかった。

それを、なまえは場違いだと思いながらも懐かしくなった。

「な、何笑ってんだよ」

キルアが訝しんで私を見る。なんでもないと首を振れば目を細め「ふーん」と疑いの眼差しで見られる。

「お!明かりだ!」

ゴンの声に二人で反応を示す。

「おー、」
「森…?」

いや、ジャングルじゃね?なまえは目を細め光を調節しながら歩くことをやめたサトツを見上げた。しばらくはここで待つことになりそうだ。