突然響いた叫び声に私たちは3人ともピクリと反応する。ゴンは知り合いの叫び声に反応し音を立て足を止めた。それに習うように私もキルアも同様に停止した。

「レオリオ!」

キルアの忠告もむなしく、レオリオの悲鳴が聞こえたらしいゴンは後ろへと走り去ってしまった。キルアはチッと舌打ちを一つこぼすと前を向く。

なまえは悩んだ。今ここで彼らを助けに行くべきかどうか。つまるところ、私は彼らを助けるために来たわけじゃない。今のところ私の目的は最後までハンターライセンスが欲しいだけだ。まあ、ファンな分、気になるという邪な考えを抜きにしたらだけれど。

無事とわかっている彼らにわざわざついていかなくてもいいかな。それよりもこのふてくされ坊主について行こう。そうと決まったらなまえは眉間にシワを寄せたキルアについていった。


「なに、お前は行かないわけ?」
「….ん、ゴンなら大丈夫だと」
「こんな霧の中で大丈夫だなんて言えるお前らの気がしれないわ」
「ま、まあ、とりあえず合格してゴンを待とうよ」

むうーと顔をしかめたキルアをチラリと横目でみながらかわいいなぁ、なんて思ったらいけないのか、すみません、思わずにはいられないのが乙女ですよね!なまえは誰に言うでもなく一人で言い訳を唱えて緩まった頬を手で押さえた。

ふたりで走ってしばらくして、キルアはなまえに声をかけた。

「なまえってずっとフード被ってるけど暑くないの?」
「うえ?」

声が裏返った私にキルアは何、ビビってんのとケラケラ笑った。恥ずかしい思いをしたと悔やむ胸の内を晒すわけにはいかずなんとなくフードを抑えた。

「別に取らねえって」

なまえの行動に呆れたように苦笑いしたキルアは小動物のようななまえをゴンと似たようにとしの近い友人として気に入っていた。けれどゴンとは違い彼女は年下で、守らないといけない存在なのだと頭の隅で理解していた。理解していたが、それを実行に移すだけキルアは自分に素直じゃなかった。

キルアはなまえに怯えられていると感じていた、現に多少あたりがきつかったかもしれないと思う。なまえの怯え方にキルアは若干の苛立ちを見せたのも確かだ。人の性格なんてまさに十色だ。目深く被るフードの下を見たいと思う気持ちもたしかにある。

室内であった集合場所でも外さなかったフードを屋外である今、外してくれるはずないだろう。それだけ頑なならば逆にどんな顔をしているのか気になってしまうというのが少年ごころだった。

キルアは隙を見てフードを取る気満々であった。そんなこと微塵も考えていない、むしろフードを長時間被り存在すら記憶に残っていなかったなまえは押さえたフードをちらりと見上げふへ、と表情を緩めた。

キルアとなまえはそろって受験者たちが集まる広場までたどり着く。

クルリと辺りを見渡したなまえは扉に書かれている午後0時をおとなしく待つことにした。2次試験は豚の丸焼きとお寿司こと"スシ"いくら私が日本出身だからっといっても、5年、10年磨き上げた職人技がないと握ることが出来ないそれにはお手上げだった。



時間になりさっくりと豚に踵落とししてクリアしたなまえは厨房を一通り見てため息をつく。どうしようかなぁ。挑まないのは失礼なので決定事項だが受けるからには受かりたい。だが、先ほど述べたようにド素人と私にはお手上げだった。一人で川にむかい魚を確保した。一匹をまるまる下ろすのなんて滅多にしたことないがまあ切り分けたらいいだろうという精神でそれなりの大きさに調節する。

全員が会場を後にしたのを見届けて寿司屋に行ったことを思い出しながら出来上がったモドキをメンチに提出すれば「あら、なーに?ジャポンの人?」しくったなぁ、と顔に手を当てるメンチはなかなかにわかりやすかった。

「え、と、まあ…」

まあ、似たところではあるよね。自らが納得
させるように頷いた。メンチは鼻でそれを笑い「んじゃー、採点は辛めにいくわね」と維持の悪そうに口の端しを釣り上げ内心遠慮しますとほおを引き釣らせた。え?もしかしなくても味で勝負ってことですか。彼女は気にした様子もなく醤油にモドキをつけ口に含んだ。

幾度か咀嚼を繰り返す。

「味は悪くないわね、でも不合格 」

「うお、」

まじか。と声に出さなかったなまえは二つの言葉に驚いた。よくわからないグロい魚って食べれたんだ。とか、味は悪くないのかとか、まずくないのに不合格か、よくわからないなまえは彼女の言葉をまつ。

「シャリは柔らかすぎるし何より魚の下ろし方がなってないわね。ネタが生暖かいわ」

それ、採点基準厳しすぎませんかね…味が悪くないってことイコール美味しいってわけじゃないってことですか。けど採点項目飛んでもないですメンチさん。

「まあ、あなたみたいな子が一丁前に魚を下ろすなんてできないのかもね最近の子は全く…」と頭を掻く。

いや、すみません、だってぶっちゃけた話魚って普通に切り身で売ってるし…むしろこの年齢で魚の下ろし方知ってる方が凄いよ。

納得できない何かを腹に抱えながらなまえは「はあ、」と一言相槌をしその場を後にする。

うーん、困った。多分メンチの機嫌の悪さはヒソカの殺気のせいだとは思うが、今どうこうできるものでもないし、もう一回挑戦するにしてもメンチの美味しいって言葉は聞けそうにない気がする。そしてハンゾーがバラしてしまった。あ、もう無理だな。にしてもお手軽なわけないだろまったく。


クモワシの卵、大人しく受けるかなぁ…肩を落とすたなまえはのそりと重たい足を動かし壁にもたれかかった。

ぽけー、と一悶着を眺めていたら会長が降ってきた。飛行船から。念を使ってるだろうとは思うが強靭すぎる足だ。重力抵抗半端ないはずなのに。

飛行船に乗りこみ人の少ないとこを探し座る。クモワシの卵かぁ、楽しみだなぁ。未知の食べ物だが美味いときいて心踊らないものはない。


なまえは到着後傍目から分かるほどうきうきしていた。

「なんだおまえ、食べたことあるのか?」
「や、ないけど…」
「スッゲー嬉しそうにしてっから食べたことあるのかと思ったぜ」

レオリオがゲラゲラと笑った。

「や、だって、美食ハンターが美味しいって言うほどの卵だよ?すっごく気にならない?」

「そりゃそうだが…そこまで浮き足立つのも悪目立ちしてんぞ?」

「まじかー」

「おう。そういやおまえゴンと一緒にいたよな?俺はレオリオ、こっちはクラピカ。よろしくな」

「あー、はい、えっと、なまえです。よろしくお願いします」

よろしく頼む。しかしゆるい会話だな、なんてクラピカに言われ確かに。と思わず頷く。

ブーツを脱ぎ、トン、と軽く地を蹴り崖下へと綺麗なフォームで降下していくメンチに度肝を抜かれた受験生たちは目を見開く。ネテロによる試験内容の説明に血の気が引いて青い顔をしている者いる中、

「あーよかった。」
「こーゆーのを待ってたんだよね。」

無邪気にあっさりと言ってのける子供に何人もの受験生が度肝を抜かした。その顔は蒼く冷や汗が伝っている。


うんたしかに料理とは違ってわかりやすい。
自分のタイミングで飛び降りていいということなので片手でフードを抑えゴンたちに引き続いて飛び降りる。

見えたクモワシの糸にもう片方の手を引っ掛けて勢いを殺す。想像以上に丈夫な糸に思わず声を上げた。

「おお、すごい」

近くの卵を手に取りコートのポケットに突っ込む。はやる気持ちを抑えて崖を登れば何人かが鍋を囲んでいた。

「あ、なまえ!卵をとれた?」
「ん、とれたとれた」

そっか!と笑うゴンに癒されながらなまえは鍋に卵を入れた。ブハラがタイミングを教えてくれたためこの試験は難なくクリアとなった。


美味しい…あたりに花を散らす様子をキルアに呆れたように見られたが、美味しいものは至高である。文句は受け付けない!