「あっねぇ!なまえっ!なまえも飛行船探検しない?」

「おー、丁度いいやなまえもいくか?」

冒頭から元気いっぱいな少年ふたりになまえは口ごもる。

「うえっ、え、あの、行っていいの?」
「だれも駄目なんでいってねーって」
「うん、行こうよ」

なまえのもごもごとした音に二人は気にすることなく頷く。どうやら聞き取れたようだ。ふたりは何言ってるの?あたりまえじゃんと首を傾げていた。

「えええ、と、なら、いく」
「ほら、さっさといこーぜー」
「おー!」

元気いっぱい駆け出して行く彼らを追いかければ数十メートル先で振り向いて待っていた。何あの子達かわいい。

「なに笑ってんのー?」
「なんでもない」
「そう?」

ふたりの後ろをゆったりとした足取りでついて行き、


「おー」
「うわすげー」
「宝石みたいだねー」

窓の外に広がる夜景。煌々と輝いている街の灯りを懐かしい、なんて郷愁を誘われてしまうのはしばらくここの生活に少なからず慣れてしまったからか。いつでも空の上から見ることのできた景色に感慨深くなっていればゴンは窓から視線をそらさず口を開いた

「キルアとなまえの父さんと母さんは?」
「んー?生きてるよー、多分」
「あー…うちも生きてる、はず」
「何している人なの?」
「殺人鬼」
「両方とも?」
「はは…」

なまえはゴンの純粋さを目の当たりし苦笑を浮かべる。キルアも一瞬きょとりとした顔をして次第に大きな声で笑い出した。

「あはははっ。おもしろいなお前」
「純粋すぎるっていうかまぁ…うん…」
「いやなまえも十分おもしろいと思うけどね」
「?」
「や、なまえはおもしろいつか笑えるんだよなー」
「へ…?」

首を傾げてさっぱりわからないという顔のゴン。なまえは笑えると言われ顔をしかめた。

「マジ面でそんなこと聞き返してきたのお前がはじめてだぜ」
「え?だって本当なんでしょ」

相変わらず頭に疑問符を浮かべて、けれどはっきりと言い切る。キルアは笑いを引っ込め、

「なんでわかる?」
「なんとなく」
「疑う理由ないしね…」

「おかしいなァ。どこまで本気かわかんないこってのがチャームポイントだったのに」
「ふーん…」
「まあ、ゴンくんってたしかにそんな感じだよね」

そして軽い口調で家族のことを話すキルア。とてもいい顔をしていた。内容をいくら知っているとはいえ、流石にその中身は笑えない、し、認めることができない。私、ここに来てから正義感が強くなったのかなー…元の世界じゃ考えられないほど善悪に対して敏感になってる。ルークを着けている左腕をさすりながらぼんやりしていると二人の顔がこちらに向いていた。

「え、ごめ、何?」
「だから、なまえの家族は?」
「ゴン、こいつ話聞いていなかったみたいだぜ」
「ごめん、えっと、結構普通なんじゃないかな。」
「へ〜」
「もうちょいなんかねーの?」

なんとなく楽しそうに話を聞いていてくれるゴンと「ふつう」と言った時点で明らかに不満を持ち顔をしかめるキルア。

そんなこと言ったって地球にいる両親自身なんの能力も持たない一般人だ。しかしここで無いと言っても面白味がない残念な話題となってしまう。家族、というのなら少しだけもう一つの一家を紹介しよう。

「あのね、義妹(いもうと)はね、魔法使いなんだよ」
「どんな人?」

ついでに私も。とは言わない。秘密だよ、と口元に指を当ててみれば、ゴンは瞳を輝かせ、キルアは胡散臭げに私を見た。何言ってんのこいつ、と言った感じに顔をしかめる。興味なさそうだったのにちゃんと話聞いていてくれていたようだった。始めから興味津々に食いついていた一人っ子のゴンはとても楽しそうである。

「2つ年が離れてるんだけど、すっごく可愛くて、美人で、恥ずかしがり屋だけど正義感と使命感が人一倍強くて、すっごく優しい子なの。でね、すごく強いの」
「へー、なまえその子大好きなんだね」
「うーん、ちょっとオレはそういうの想像つかないや」

「ん、大好き」

でもこれ以上ないくらい適切な表現だと思う。フェイトは私の後輩であり、魔導師の先輩で、頼りになって私よりもしっかりした私の大切な妹だ。

私の話を我慢強く聞いてくれて、恋愛なんかの相談なんかもしたりして、私のために泣いてくれて、互いに笑いあった。彼女や、同僚である友人たちを思い出し目を細める。そんな彼女たちを考えると必然的に自分の家庭を思い出さないはずがなく、ぽっかりと穴があく。

フェイト、クロノくん、

「会いたいなあ」

小さく零れ落ちてしまったその言葉は超人的な聴覚をもつ彼ら少年二人にもしっかりと届いていたらしく不可解な顔をされる。

「なまえってさ、わがままとか言いそうにないよな」

「あ、わかる!」

いきなりの話の転換に話題の張本人が着いていけていなかった。

「話し下手なくせしてどこか達観してるっていうか、言いたいこと言えない気の弱いやつかと思えば自然と会話に混じってるし。」
「えっ…」
「なまえみたいなやつも初めてだ」
「オレも年の近い女の子の友達なまえが初めて、へへ!」
「って、ゴン、話の内容わからなくなるだろ!変な相槌いれんなよな!」
「えー?わかってるよ!なまえは自分のことあんまり話さないけど、周りのことよく見てるってことでしょ?」
「や、なんかあってるようなあってないような…」


テンポがいいのか、いや、それにしては話がズレている二人の会話になまえはたまらず笑をこぼす。

「「あ」」

「えっ」

「わらった!」

そりゃ、笑うよ、人間だもの。
間髪入れずそう返してしまった私は何も悪くないと思う。ぽかん、としていれば「違うよ」とゴンがはにかむ。

「なまえ、ずっと気を張ってたみたいだから」
「そーそー、どうせフードの下で難しい顔してるんだろうなーなんて思ってさ」
「むっ、ずかしい顔って…」

そんなことないんじゃないかな、そうなまえがごちればふたりは声をあげて笑った。