階段を下り次の扉を開きなまえは真っ暗な部屋に目を瞬かせた。円を行えばすむ話であるため然程動揺もなく周囲を見渡していた。ひーふーみーよー…頭の中で数えていれば移動系の念なのか、なぜか真後ろから素早く拳が伸びてきた。

右に飛んで避ければ、舌打ちが響いた。

「今回は、奇襲…暗殺ですか?」
「……」

1分、それだけ待っても返事がない。なまえは魔法は目立つ、と判断しおとなしく念を発動させた。私の能力【偽りの刃(フェイクナイフ)】は使用者が切りたいと思ったものだけを切ることができる素敵無敵な刃物なのだ。だがしかし、その姿形は選べず、小刀のときもあれば、はさみの時もあり、大鎌な時もあれば日本刀や、大剣の時もある。切れ味に違いはないのでなまえはこの能力を作り満足していた。

そう、今回は大鎌。

室内でデカイなと一瞬眉をしかめたが素振りをためし、ギリギリ天上に届かない距離でフードの下からにんまりと笑った。

「具現化系か」

低い声が聞こえた。
真っ暗な室内で、敵は念能力者。やらなければこちらがやられる。小さな身体で大きな鎌を振り回すなまえの口はしは釣りあがっていた。


風を切る音と打撃音と唸り声が室内に響く。

その場に転がっているのは四肢の骨や肋骨が折れ僅かに辛うじて息をしている囚人たちだった。

なまえの【偽りの刃】は切りたいものだけを切ることが出来る。体を支える筋や骨も然りである。命に別状はないだろうが完治には時間がかかるだろう彼らは痛みに気絶していた。

「あー、流石にオーラ半分減らされてると加減が難しい」

カラカラと大鎌を引きずりながらなまえは一人ごちる。

開かれた扉をくぐり階段をおり、「あと何回戦うんだろう」と大きく息をついた。

長い階段を下り、新たに現れた扉の前に立てば自然とそれは開かれる。どうやら今回は暗闇みたいな小細工はなさそうだった。


多勢に無勢。今回の試験はそれが目的らしいので今回も最低10人はいるだろう。オーラを節約するため、円を行わず大人しく対戦相手を待っていると大柄な男性が近づいてきた。

「よく来たな。」
「おにーさん、ひとりなんです?」
「いや、まだ2、30人はこのフロアに待機している。そこでお嬢さんに勝ち抜き戦か全員とか、選んでもらおうと思ってな」
「…つまり、サシでの試合か、まとめてかかってこいやー!ってことですよね??うーん…」
「君がここまで無傷でやってきたことで、君の実力のほどが伺えるからね」

「ぁっと…私、ここでこんなにも普通の会話したの初めてかもしれません…。」

思わずそう呟いたなまえに囚人は豪快に笑った。

「そりゃ、俺らも一応人間だからな、むしろ今までいた奴らが狂気の沙汰だったんだよ」
「おにーさん、もしかして、」
「あ?なんだよ」
「や、なんでもないです。私、出来れば人殺しなんてしたくないんです。」
「そりゃあそんだけ若けりゃ殺すのも戸惑うわな。」


人を殺すということ自体慣れていない。私は逆、人を助けるためにここ数年生きてきたから。苦笑を浮かべて、それで、試合はどうするのか。と尋ねれば
「俺らは生粋の武道家だからな、純粋な手合わせといこう。」

「まいったって言わせればいいんですか?」
「それと気絶、死も含もう」
「それは素敵です。ダウンとかは公平な審判がいないので却下ですよね。」
「ふは、お嬢さんも武道家か?」
「専門ではないですけどこれでも一応は」


緩やかに流れる空気にアナウンスが流れ試合に突入する。

なまえは構えをとる。目の前の人物がツワモノだと理解していた。彼から感じられる底しれない自信はきっと驕りではない。

その構えに一切隙は感じられずなまえは知れず笑みがこぼれる。

初めに対戦相手が消えた。風なんてない建物、しかし言葉として表現するならば、風を切りながら背後からの中段蹴、ついで回し蹴り、振突きこれが極めたものなのか、と言うほどの組手になまえは流を行い対処する。さらりと一連の動作を行う2人にどこからか口笛がきこえた。

「すごい…」

こんなに純粋な組手になまえは静かに紅葉した。これが囚人?こんなにも真っ直ぐな戦いをする人が?

「嬢ちゃん、やるな。俺の目に狂いはなかったようだ」
「おにーさんも、ぜひ私の班に欲しい位」
「は?」
「こっちの話です」

管理局で私の名のもと監査保護して、是非是非部隊に組み込みたいなんて邪な考えを無理矢理排除。

「それじゃあ、いくぜ」

そういわれ、背中に痛みが走る。この人はスピードが異様に速い。

「っ…」

距離をとりより一層警戒する。
背中に走る痛みは打撃のみのようで鈍い痛みはあるが、気にするほどではない。

うん、さすが。いつも通り魔法陣を展開し構築する。地面を蹴りいつも通り腹部に突きをいれる。もちろん、その攻撃は上手くよけられる。誘導だよ。と、わざと逃げる隙をあたえて避ける側に設置してあったバインドが発動する。バインドはうまく決まりなまえはへらりと笑った。

「ぐぁ、なん、だこれは」
「あなたほどの実力者だと流石に長時間持たないので、<<シフトチェンジ>>」
冷気をまとった拳を動けない彼に叩き込み吹き飛んだ囚人。息を詰め地に伏した彼になまえは目前に拳を落とす。辺り一面が凍り付き、床にめり込んだ拳に怯んだ囚人は息を詰め眉を顰めた

「……お、れのまけだ…」
「はい、私の勝ちです。こんな狭いところじゃなくて、もっと広い場所でお互い戦いたかったですね。」
「気付いてたのか」
「移動系の能力ですよね、この狭さじゃ全然生かせてませんでした」
「一蹴りで5キロは移動できるのが自慢だったんだがな。」

そ、それはすげぇ。思わず引きつるなまえに冗談だ。と真顔で言い直した。えええ、と信じていたなまえは肩を落とすが、

「あっという間に負けちまったが、楽しかった。」と軽快に笑った彼になまえも笑い返した。


なまえは首を傾げながら、「どうして長期囚人なんてやってるんですか?一体どんな犯罪を?」と素朴な疑問を口にした。
「あ?ああ、門下生を皆殺しにな」
「はい、嘘ですよね。」
「…どうしてそう思う?」
「あなたは生真面目すぎるんですよ、こんな小娘相手にもルールを重んじて負けを認められる人物が、」
「そうか…だが、残念だな、たしかに俺は門下生を皆殺しにした。夢心地な記憶しかないがな。」

つまり操られて…?なまえは凝を行い彼の体を見た。今は異常はない。ここの法制度はわからないが、彼の言っていることが正しいのならば、これは冤罪に等しいのではないか?なまえは眉間に皺をよせ顔をしかめる。

「こんなハンター試験に協力してるってことは長期刑期なんですよね」
「は、情状酌量なんぞなかったしな」
「そういう方は他にも?」
「俺とつるんでる、ここにいる奴らはそうだな」
「…その件、私に預からせてください」
「…は!?なにいってんだよ嬢ちゃんそんなこと…」
「私はもうハンター試験を合格しています。今は試験の終了を待ってる段階。仕事柄、そういうの見過ごすわけにはいかないので、一旦預かりとします。他の皆さんも、いいですね」

強い口調で言い切るなまえにここにいるメンバーは皆戸惑いを隠せない様子だった。

「キミはいったい…」
「……内緒ですよ?時空管理局本局一等陸佐、戦技教導隊所属のなまえ・ハラオウンです」
「どっかのお偉いさんってことか… 」
「まあ、現役は退いてましたけどね」

知らないことは百も承知だった。事実もとの世界でも魔導の道に進んで無い限り管理局の存在を知っている人間なんて地球には存在しなかったし。

「さーて、あと何回戦うんだろうなぁ」

なまえは首を回し肩を落とした。