生後の…いつからだろうか。

気がついたら自我があって…ああ、生まれた瞬間から記憶を持っていたわけではなくて、本当に、徐々に形成されていくであろう自我が、ある時スルリと入ってきた感覚だった。熱が一気に上がるかと、この体を心配していたが…そこがあるべき場なのだというかのようになんともなかった。

「なまえー?起きてる?」

覗き込む彼はお兄ちゃんだよ。と私を抱きかかえ優しく撫でた。どうやらだいぶ年の離れた兄のようだ。
視線だけでこの体の両親の存在を探してみるが今はいないのか兄の話に耳を傾ける事にした。

「なまえにはまだわからないかもしれないけど、一歳のお誕生日だよ、おめでとう。大好きだよ。」

子供用の椅子に座らせてもらいケーキと思われるものに蝋燭一本刺さり、火が灯っていた。なるほど…どうやら私は本日付けでひとつ年を迎えたようだ。

兄の愛情溢れる祝福に、(子供であるが)子供らしく「あーと!」と笑いかけた。

びっくり、どっきり。そんな表情を顔いっぱいに表した兄は私を抱きかかえ力一杯抱きしめる。もしかしたら一歳で喋るのは不味かったか。
そういえば私の可愛い子供達が始めていった言葉は"ユーノ"で私達夫婦はユーノに奇襲をかけにいったなぁなんて一人で笑う。



兄の膝の上でケーキをうまうました後、兄は仕事があるんだと言い私を誰かに預けた。

なんだ、ずいぶん若くみえたのに働いていたのか。日本では高校、大学生くらいに見えた金髪の兄は二三会話をし赤毛の女の人に私を預けてそのままいなくなった。

赤毛の女の人は、いつも通りなのか仕方ないといった様子兄を見送り、私を優しく抱きかかえた。お姉さんいい人。私は顔をズラし女の人の顔を覚えるためにまじまじと見た。きゃらきゃら笑ながら内心慌てふためく。

この人知ってる!

クシナさんだよ!映画見ました!そんな一瞬の感動は瞬く間に鎮火した。兄と彼女はつまりあれか。ということは兄はミナトさんですね。どうして気がつかなかったんだ私。もしかして私はお邪魔虫なんだろうか。今が"いつか"はわからないけれどきっと残り短い期間。その期間以外にももっと兄と彼女は一緒にいて欲しい。となればする事はひとつしかないよね!らぶらぶになってもらいますよ、おふたかた!

そう決心し、ねっと同意を得るため念話をしようとしたところ腕に何もない事に気がつく。あれ?ラディアルークはどこいったのだろうか。

これは一大事である。

ルークがいないとなると唯一の故郷に帰る確立が著しく低下する。

帰れるかどうかとか、時間軸がどうなっているのか、ここから通信できるかとか色々気になる事は多いが検索や情報はルークがいなければ話にならない。それにルークは私の長年
の唯一無二の相棒だ。
起動は私の許可や彼自身が緊急だと判断した場合のみ適用される。悪用される心配はないが、腕についてないと落ち着かない。

仕方ない、で済ませられない事柄であるが、今の私ではどうにもできない。この体は私自身の体ではないのか、生前持っていたものをそのまま持っているというのは無理なのは落ち着いて考えればわかるはずなのだが、なまえにそんな余裕はなく、気がついたとしても、現状が変わるものでもない。

クシナさんが私を抱えている限り魔力をつかって飛ぶ事もできないし念能力でできる事も限られている。


…………ん?…念?魔力?ああ、そか。そうだ、私にはそのふたつがあるんだった。魔法陣展開するのはクシナさんの目が離れてからじゃなきゃできない。あれ?サーチの魔法が組めない困った。困ったぞ。
誘導弾を"隠"で隠してサーチのかわりにつかって操作する?いや、サーチは自動追跡だけれど誘導弾は長時間だと魔力の消耗が激しい。しかもこの体はまだ成長しきっていないときた。無理に行って生命に危険が及んだら元も子もない。

やはり目を盗んで魔法陣を展開するしか道はないみたいだ。隠で魔法陣が隠れれば1番いいんだけど…ごろんごろんと転がりながら悩む悩む。あ、まずい。知恵熱出てくる。

ああもう、ルークいたら一発で解決なのにー!ああ、私ルークに依存してるな。ルークがいたら、ルークがいたら、とかそればっかりだ。いなかったらいなかったで心底不安になる。八方塞がりで唸っていたら気がついたら寝てしまっていた。次に気がついたときは兄の腕の中だった。もちろん布団の中である。

どうやら兄はお疲れの様子だ。そりゃあ子育てに忍者のお仕事を両立なんて一人じゃ無理に決まってる。私もそうだった。
仕事と両立が難しくてヘルパーさんには育児的な頼みたくなくて自分の手で育てたくて、クロノにだいぶわがまま言ったものだ。快くむしろそうしろみたいな返しをされて惚れ直したくらいだ。

ああ、うん、それはおいておいて、私が少し動いた程度では目を覚まさない兄を心配し再び今度は静かに兄の服に捕まって眠る事にした。あ、兄さんよ、赤ん坊は頭柔らかいからコロンコロンと向きを変えてくれると助かるんだが。まあ、いまはそれはいいか。ルークのこともまた起きたときに考えよう。

あどけない顔を見せる兄を見ながらうとうとと眠りにつく。