クシナのお腹がおおきくなってきた頃、それなりに術を覚えてきた。そして姉という自覚ということにして、ある程度の言葉のやりとりができるということにした。まあ相変わらず人前にはでたくないのだが。

「にーさん!自来也さまが…」
「オイオイ、ワシは何もしとらんぞ?」
「どうしたのなまえこんなところまで来て」
「私に女湯の偵察して来いって…!」
「自来也さま!?」
「おい、それは内密にって!!」

流石にこんなつまらない犯罪に加担する気は毛頭なかったので告げ口させていただきました。なまえは素知らぬ顔で仕事中の火影である兄にまとわりつく。

「なまえ、先生にくっついたら邪魔になるデショ」
「……」

肩に置かれた手をペシリと落とす。パタパタと兄の後ろに隠れれば低い声でコイツ…と呟いたのが聞こえた。

「なまえ?自来也さまにはキツく言っておくから、先に挨拶。」
「う、あ、こん、にちは…お仕事中、ごめなさい」
「……」

あまり好かれていないことを理解しているのかなまえは一度チラリと見た後キョロキョロと視線を彷徨わせ、小さめな声でそういった。カカシがミナトを見ればデレデレとしていた。ああ、シスコンだな。

「はい、こんにちは。なまえ、先生の邪魔になっちゃうからコッチおいで」
「え、」
「そんな絶望に満ちた顔しなくてもいいデショ早くおいで」

今のカカシからは冷たい雰囲気しかないため近寄りたくない。社交的な兄と違って私は内気なのだから、得手不得手なるものがあるのだとわかってくれ。越えられない壁なんだよ。

「なまえ変なこと考えてたらダメだよ。」

先生の妹ということで出来るだけ譲歩してもらえてると思いたい。いや、されてる。この時のカカシは紙の中でもとても冷めた印象があったのだから。それを引っ込めているということはこのカカシ上忍は言われているほどまだ冷静沈着、大胆不敵な策略家ではないのかもしれない。オビトさんを失ってから意気消沈していたがミナトの就任で少なからず気は紛れているのかな。とひとりごちる。

「ん、なまえ、修行終わったらクシナについててあげてよ!」
「うい!」
「先生にばっかりなまえ懐くんだから」

うけたまわった!とばかりに敬礼するなまえは呆れ顔なカカシに抱えられ自来也に手渡される。「女湯の取材なんて個人でやってくださいよ」と釘を刺すのも忘れずに。

「はあ、なまえ、師匠なんだが信用ないんか?」
「早くやってクシナさんのとこ戻るの!
暗くなる前に終わらせる」


わーわー言い合いながら出て行くふたりにミナトは微笑ましそうに、カカシはため息をついて見送った。

「なまえをアカデミーに入学させるのは来年ですか?」
「ん!でもぶっちゃけ入学させなくてもいいかな、って思ってもいるんだよね。どうしようかカカシ。」
「は?入学させないって正気ですか?」
「うーん、戦争も終わったし、なまえには自由に生きてもらいたいんだよねぇ」
「まあ、先生に似ず内気ですもんね。でも俺はなまえに忍の才能先生と同様にあると思いますよ。」

腕を組みながら言うカカシにミナトはそうなんだよねぇ。とのんびり同意する。

「なまえってば、幼い頃から修行してるけど一度も嫌だなんて言わないし、オレのせいで狙われても逆に謝るくらい純粋なんだよね」
「そりゃまた…」
「だから、有る程度の実力つけたら自由に生きてもらいたいんだよ、なんにも縛られずに」


目を細めて微笑むミナトにカカシは頷く。
本人の意思に任せるべきだと。一緒に告げて。

「ん!それにね!赤ん坊産まれるの一番楽しみにしてるのなまえなんだ!」

はしゃぐ火影にこれはもう業務進まねぇなと悟ったカカシは切りのいいところまで話をさせようと先を促す。

「先生も楽しみにしてるじゃないですか」
「そうだけど、ほら、なまえって親の顔知らないだろ?クシナから聞いたんだけど自分に弟が出来るって聞いてから毎日朝早くに起きて熱心に一人でも修行し始めたんだ。1日のノルマを朝だけで終わらせるくらいに」
「それはまた…」
「絶対弟を蛇の魔の手から守るんだって、一生懸命修行してるよ」

緩んだ表情から一変、鋭くなる彼に繰り返して言葉を連ねる。

「蛇…?」
「多分なまえをさらった奴だ。」
「待ってください。だけど先生それって、」
「ああ、恐らく。」
まさに絶句。思考が働くまでおよそ10秒たったろうか。なまえは大蛇丸様から逃げてきた?そして同時になまえ自身自分が火影の妹だから狙われたのだと理解しているということになる。だから"蛇の魔の手から守る"なんて言葉を口にしたのだろうか。

「それで、入学させるか、させないかで迷ってるんですね」

「ん、里外に出る方が危険なのは確かだけど、強くなるには実戦経験を積む必要があるのも確かだ。」

「だからここしばらく自来也様に行動をともにしてもらってるんですね」

なるほど、と頷いた俺にまあそういうこと。とため息をつく先生に先ほどの人騒ぎを思い出して引きつった笑みを浮かべてしまった。

弟子の妹に女湯の偵察行かせるとか…ミナトに後でこっ酷く叱られるであろう自来也に同情はできなかった。自業自得である。