なまえは森の中を散策していた。
ただぼんやりと歩いているだけ…、ではもちろんない。ここ数日なまえは目的を持って歩いていた。けれどそれまでの道のりにさほど意味はなく、彷徨うしか当てはなかった。
「今日もだめだったなぁ」
なまえは肩を落とした。サーチにも反応がないため引き戻るためなまえは別の道から帰宅することに決めた。
<<うーん、やっぱりいないのかなぁ>>
<<野生動物なら沢山いますけどね>>
<<それじゃあ意味ないんだよ>>
なまえとルークはある目的を持って動いていた。これからの生活に必要不可欠となる使い魔の素体となる動物を探していた。
<<そう簡単に見つかる筈はないとは思ってたけど…>>
<<自ら手掛ける案は早々と却下ですからね>>
<<愛護団体に怒られたくないしね>>
なまえの言葉にルークはこの世界にあります?と突っ込む。
ふらふらと当てもなく帰路についていたなまえは大きな泉を見つけた。
「ふおー、こりゃまた神聖そうなところだね」
キョロキョロと見回すと小さな祠があった。なるほど、ここの守り神みたいなものかな。なまえは軽く手を合わせ泉に手を伸ばす。
「うあ、冷たいね」
そろそろ冷えてきているからねと一人で笑うなまえの耳に小さな音が聞こえる。素早く円を広げたなまえは濡れた手をそのままに駆け出す。
1km以内だと思う、なまえがそう言うと今度は先ほどよりも小さな鳴き声が聞こえた。小さな、というよりも、弱々しくか細い声だった。近くまでいくとそこの状態は酷く岩肌が崩れたのか瓦礫があちらこちらに無造作に積み上がっていた。
「こんなところが…」
一陣の旋風が砂埃を起こす。袖で口元と鼻を覆ったなまえは声の方へと歩き出した。
向かった先は、微かに血の匂いが充満していた。微かに、と充満なんて言葉がとっさに出て来るほど鼻がいいわけではないなまえは自分の過った考えに違和感を感じた。
「この下、だね」
微かに聞こえる声になまえは素早く的確に撃ち抜いた。非殺傷モード魔力ダメージのみの攻撃魔法と手早く展開した防御陣は現れた影を優しく包み込んだ。
「もう大丈夫だよ」
自身の身体が浮いたことに驚いたのか、摩訶不思議な能力に身を案じたのかジタバタと暴れるなまえは穏やかに笑いかけた。
グルル、と威嚇するように鳴いていた彼はしだいにきゅーん、鼻で息をするように鳴き出した。改めて彼を観察すれば左足と胴体に裂傷を負っているのがわかった。なまえは傷口に手を当てた。
「この怪我…それにこんなに憔悴して…君はいつからここにいたの?」
なまえが尋ねれば頭を下げ地面に伏せってしまう。それが体力の限界だと察したなまえは、自身の目的を彼にお願い出来ないか尋ねることにした。
「ねえ、キミ私の使い魔にならない?」
魔導師が作成し、使役する魔法生命体。動物が死亡する直前または直後に、人造魂魄を憑依させる事で造り出す。魔力を分け与え続けることで使い魔を使役することができる。ただ、肉体の命を繋ぐことはできるが、生前とは人格も異なる別個の存在を生み出しているに過ぎない。彼らも、元となった動物と今の自分を別々の存在とみなしている。
けれど使い魔の呪法で生まれた命も、少しなら生前の記憶が残る可能性はある。使い魔というのは補助魔法に秀でていることが多い。
なまえは傷口の手当てをしながらゆっくりと伝えた。
「君がここで野生に帰りたいっていうなら私は止めないよ」
けど、私は君に手伝ってもらえるとすごく嬉しい。へラリと笑いかけたなまえは小さな手で彼の喉元を撫でる。
きゅーん、と擦り寄った彼になまえは笑顔を浮かべた。
ただいまー。
なまえは自宅のドアを開けた。そこへ迎え入れたのは自身の影分身、とナルトである。ちょうど食事を取るところだったのか哺乳瓶を手に持ちナルトは笑っていた。
そんなナルトに顔が緩みなまえはぎゅーと抱きかかえた。その勢いに大声で泣き出したナルトに後ろから心底呆れ返った声が聞こえた。
「なまえ、赤子を驚かしたらダメだよ」
「わー、ナルトー、お姉ちゃんだよ!おどかしてごめんねー」
わーわー言いながらバタバタとナルトをあやすなまえに後ろから手を伸ばされナルトを奪われた。
「ナルト、元気だね」
とんとん、とテンポ良く背中を叩きしだいに泣き止んだナルトになまえは膨れる。
「ウル…」
「なんだい、なまえ」
「ん、」
そう言って手を伸ばすなまえはまさに5歳児で、不貞腐れた顔を隠しもしなかった。ウルと呼ばれた青年は笑って膝をつきナルトをなまえに手渡す。
「ありがとう、ウルスラグナ」
へらりと笑んだなまえにウルも笑い返す。ウルスラグナ、元が狼である彼に主人が与えた勝利の名だ。なまえは早速その長い名前を省略し呼んでいる。
「ウルー、これから覚えることとお仕事が沢山だよ!頑張ろうね」
なまえはうきうきとナルトとモニター片手にウルへと笑いかけた。
使い魔ゲットだぜ。なーんて。
→
零