なまえが自宅にいないある日、とある奇襲を受けた。その日ウルスラグナことウルはわずかな匂いを察知し構えをとった。

なまえから教わった魔法という観念は全く未知のもので、けれど不思議と理解できてこの身に流れるチャクラとはまた別のものなのだと早々に悟った。

主人がなまえだから、ということもあるだろう。彼女がどんな存在なのか、使い魔となってからそのことは知識として理解していた。後日聞いて見てもなまえは「ウルがはじめてだから、よくわかんないや」と困ったように笑った。その後こう続けた。「私の魔力に作用してるんじゃないかな」と、「それか契約内容で組み込んだからかも」とのんびりとした口調でそういった。

用意された魔法資料にひたすら目を通し、過酷とも言える訓練を受け、我が家の癒しであるナルトの世話が毎日の生活だ。今は練習として家全体の保護結界のみだが、なまえの許可が降りれば兄夫婦の結界をメインに携わることとなる。主人のために日々努力する毎日だった。

そんな主人は忍術を練習するのに日々費やしている様子だ。今もアカデミーで授業を受けているであろう。


そんな昼下がりの日に間者は現れた。

「チッ誰かいやがったか」

「おい、やるぞ」

「なぁ兄ちゃん、餓鬼はどこだ?」

窓から割るように入ってきた彼らは下卑た笑みを見せたその目は憎悪に満ち溢れていた。ウルスラグナは腕を組み静かに問う。

「ここをどこだと心得ている?」

「はぁ?里を壊滅に追いやった元凶の隠れ蓑だろ?」

「化け狐を出しな!」

「おい、こっちに気配があんぞ」

1人の男が廊下につながる扉へ歩みを進めた瞬間ウルスラグナの殺気が膨らんだ。低く低く唸るような声を出した彼に男たちは喉で笑い僅かに視線をよこした

「おまえら、ここはなまえさまのご自宅だぞ」
「ああ、あの嬢ちゃんな」
「居たら居たで犯してやろうと思ったがいないならいないでそれでいい、早いとこテメェをやっちまえばいいだけだ。」

クック、と笑う侵入者に完全な殺意が芽生えたウルスラグナ。鋭い目を細め指先に力を込める。


「貴様ら、主人を愚弄するか」


そこからの行動は早かった。彼らのうち1人の喉を鋭く伸びた爪で掻き切り、ウルスラグナの指先から血がしたたり落ちる。

その突然の行動に残り2名は目を見張った。

「てめえ!!」

雷遁、炎遁と室内に影響がある攻撃をみた瞬間ウルスラグナは強制転移魔法を展開した。
火影岩に降り立った2人と1人の遺体、1匹の使い魔は再び合間見えた。

「!チッおいふざけたことしてくれてんじゃねぇか」
「主人の家をこれ以上汚されたくないんでね」
「里の人間殺しだなんて重罪だぜ?」

劣勢を感じ取った一人が挑発し口端を釣り上げた。それが効けば、良かったのだ。だがその挑発はさらりと流された。

「それがどうした?」

「主人の宝に手を出すのだろう。ならば死をもって償うべきだろ?」

怯みもせず憮然とした立ち振る舞いで、それが至極当然だと、主張するウルスラグナに残った二人は悪寒が走った。その一瞬の隙をウルスラグナは見逃すはずもなく、バインドが発動し2人は為す術なく捉えられた。

「ヒッ」

「そうだ、な、この里には死の森と呼ばれる場所があったな。」

「ぐ、あ、」
「外れねぇ…!」

「その状態から無事逃げ助かったなら、俺からの報復は無しにしておいてやる。まあお前らじゃ無理だと思うが」

ウルスラグナは愉快そうに「じゃあな」と笑って彼らを見送った。一陣の風が吹きウルスラグナの髪がなびく。そして振り返ったときには困った様に笑っていた。

「なまえ、いつからそこに?」

「なーいしょ」

へらりと笑った主人に、ウルスラグナは両手を上げ降参した。

「俺もまだまだですね」
「うんうん、精進しなよ」
「頑張ります」
「でも転移魔法にバインド、なかなかうまくいってたね」
「………そんなところから…」

眉頭を抑え眉間にシワを寄せ重い息をついたウルスラグナをなまえはヘラリと笑うことで流した。

「でもね、ウル。たとえナルトに手を出そうと相手がしてきてもね、死での償いや森への放置はダメだよ。復讐は復讐を呼ぶからね」

「しかしなまえ」

「聞いてウル。」
「…はい」

「ここは忍びの世界で簡単に生死が飛び交っている…でもね、だからと言って簡単に人の死を背負っちゃダメなんだ。どんな理由があっても、それがどれだけ悪い人でも、殺しちゃダメだよ。
…私は全ての人を守ることはできないし、そこまでお人好しじゃない。でもできるだけたくさんの命を救うために、人を助けるために私たち管理局は存在するんだ。
もしかしたら力が及ばなくて大事なものを守りきれないかもしれない、そのための取捨選択をしないでもいいように私も、もちろんウルも強くなるから」


なまえの言葉にウルスラグナは萎びれた花のように落ち込んだ。大切なモノを守るだけじゃダメなのか?それがどんなに凶悪な悪人に狙われていても?100人あるうちのたった1人、いや2人と天秤にかけてしまうことはダメなのだろうか。ウルスラグナはなまえの言葉に顔をしかめて悩んだ。

そんな彼の姿になまえは教導官として笑った。それはいつもの笑みとは違い自信に溢れた凛としていた。

「私たちは殺すことが仕事じゃないの。もちろん、力不足で死なせちゃうこともある。
容疑者を逮捕すること、拘束すること、罪を償わせること。それが大切。抵抗するなら空の敵は撃墜させる。陸の敵は撃砕する。抵抗しないのなら身柄を保護すること。いい?復讐は復讐を呼ぶよ、犠牲を増やしてしまうだけだ」

なまえの言葉を聞いてウルスラグナは小さく掠れた声ではい、と心許ない返事をした。
そんな彼になまえは「納得できてなさそうだね。」と肩を揺らして笑った。ウルスラグナは眉間にシワを寄せて頷いた。

「納得なんてできるはずがないです

俺はなまえの使い魔ですから、あなたの言うことは聞きますよ、けれど俺はナルトやあなただけが大切だ。偽善なんてしたくないです」

「偽善かあ…」

まあウルからしたら偽善だよなぁ。顰めた顔を隠さない彼になまえは苦笑いしながら頷く。

「ウルは野生の狼だったし、野生の掟みたいのが根付いてるんだろうね。たしかに私の考えが偽善だと思う人はこの世界にもたくさんいると思うよ。もしかしたら私がやられちゃうかもしれないよね。私より強い人なら探せばいくらでもいるはずだし」

「なら…!」

「でも、私は私の道を曲げるつもりはないんだ、悪いけど」

普段は流されちゃうけどね。と苦笑いを浮かべたなまえにウルスラグナは握りしめていた手をほどき、大きく息を吐いた。

「なまえが言うのなら仕方ありません。善処しますよ。」

なまえはうんうん。と嬉しそうに頷きパチンと、手を叩く。どこか晴れ晴れとしたいい笑顔だった。ウルスラグナはその表情を察し首に手を当て呆れた。

「それじゃあ回収に行きますかね!」

「…はいはい…」