クロノくんと出会って、たぶん1年ちょっと経つのだろうか。私は自分の現状についていけなくて、目に見えてうろたえていた。

付き合い始めて1ヶ月ほどだろうか。私は未だにクロノくんと付き合っているという事実にどこか現実味が持てず、アースラ艦内で出会った彼を前にし今現在進行形で顔に熱が帯びる。おそらく、たぶん、きっと、クロノくんも顔が普段執務中より顔が柔らかいんじゃないかな…

私が視線をずらすとその横にはエイミィとアルフがいた。

「んふふー!」

「あーらぁ?初々しいお二人さんが出逢ったねぇ。ところでお二人はどこまで進んだんだい?」

誰の差し金ですか。と思わず問いただしたくなった。いや、アルフのことだ、野次馬根性で聞いてきたのかもしれない。聞かれた内容をはぐらかそうと声を絞り出す。

「あ、アルフには関係ないでしょ…」

「関係あるある!アタシらはアンタらのこと応援してんじゃない、むしろ当事者じゃないか!」

「そうそう!これでもずっと応援してきたでしょ!」

んなバカな。思わず突っ込むとアルフとエイミィはケラケラと笑いながらクロノくんの背中を押し私の前に突き出した。

「「えっ…!?」」

おいエイミィ!と押し出した張本人を彼は睨みあげたその顔は後ろ姿で見えなかったが黒髪から覗く彼の耳が赤く染まってるのに気づく。

「クロノくん!」
「え、あ、なんだ?」
「えっ…と…お仕事、まだある?」

勢いで呼んでしまった手前、なにかしら要件を伝えなきゃ、と知恵を振り絞った結果、振り絞ろうがそうじゃなかろうがあまり効果はなさそうだった。

「や、あの、もし時間がある時でいいので、えっとその、」

しどろもどろと言葉を紡ぐ私にエイミィがすかさず片手を口元に当てて言った。

「クロノくん!なまえちゃんの方が年下なんだから!クロノくんがリードしてあげなきゃダメでしょ!」

聞こえてるんですけどー…!?ボフン、と一気に赤くなる顔にたまらずアルフに視線を投げかける。そこにはいい事してる!と親指を立て満面の笑みを浮かべている彼女が映った。

半ば絶望し視線を落とす。

あ、や、でも、クロノくんにリードしてもらえたら、そりゃ、嬉しいけど、悶々と考える内容に胸が締め付けられた。やばい、かもしれない。

そんなことを考えていたら先ほどまでエイミィに絡まれて唸り声を発していたクロノくんが私の手を引っ張って駆け出した。前を見れば、クロノくんの背中が。え、どういうこと?と後ろを振り向くと、にこやかに手を振る二人と目が合い呆然とする。

ひと気がなくなったあたりの艦内で、ようやくクロノくんは足を止める。今まで彼女たちに図られたとぐるぐる巡っていた頭が、繋がった手から心地いい体温が今更ながら伝わってホッと緊張を緩める。

「なまえ」

名前を呼ばれる。この高くも落ち着いた声に私の心臓は高鳴る。緩んだ顔に気がついたのかクロノくんが照れくさそうに手を握りしめて笑った。

「改めると照れるね」
「でも、嬉しい」

クロノくんのはにかみを直視した私はその言葉でその笑顔で、幸せだなと先程の現実味がなかったその感情と今の幸福感を噛み締める。

「わ、たしも、クロノくんと話したり、手繋いだりすると、恥ずかしいけど、すごく嬉しい」

もう片方の手で髪を撫でられへにゃり、と崩し私からぎゅう、と抱き着く。ああ、幸せ。目を閉じてクロノくんの香りが鼻腔をくすぐった。すごく、ドキドキするけどすごく幸せで落ち着く。

「クロノくん、慌て過ぎじゃないですか」
「そ、そりゃ、なまえからこんな事されたら…」
「クロノくんへの愛が暴走しちゃって」

へらりと欲望を隠さず笑えば慌てていたクロノも苦笑して恐る恐る腕を背中に回してくれた。首筋に顔をうずめて頬を弛める。付き合って始めてこうやって抱き合ったわけだけど、緊張と羞恥で耐えきれないかと思ったが案外そんなことはなかった。たしかに心臓はバクバクして顔に熱が篭っている。でも、クロノくんが好き、たまらなく好き、大好き。そんな感情が先走って脳が彼を求めてた。

「なまえは心を許したら誰にでもこんなこと…」
「し、しない!クロノくんだけ!」
「わっ、」

そんなことを考えていたらまさかの彼の台詞に噛み付くように否定の言葉を覆いかぶせる。その勢いに驚いたのか、想像以上の顔の近さに驚いたのか、崩れた体制を慌てて支える。

「クロノくんだけ、だから」

クロノくんがジッと目を見ていることに気がつき、動揺や羞恥そんな感情が一気に襲ってくる。グルリ、と視線を巡らせおずおずとそれでもきちんと彼の目を見て言えば彼は嬉しそうに笑った。

「ボクもなまえだけだ」

その表情と言われた内容に羞恥なのか歓喜からなのか、視界が潤んだ。

「なまえが好きだ、キミに出逢えてよかった」


照れ屋な彼がどうしてここまで言ってくれるたのか後日出会ったアルフとエイミィに告げられた言葉に赤面したのは残念ながらアースラメンバーに見られていた。



(なまえが不安がってるのをクロノにいったらさー)
(え?)
(そしたらクロノくんってば血相変えてねぇ?なまえちゃんを連れて走り出しちゃったってわけなの!)
(えええっ)
(おいこらエイミィ!!)
(ごっめーんクロノくん内緒なんだっけー!)
(あっはは!)
(アルフキミもだ!)
(悪い悪い!)



ーーーー−−−−
過去リクエスト