うちはが反逆を企てていることは初めから知っていた。ナルトのことでミコトさんにもお世話になっていた。ナルトとサスケは仲がいいんだ。
木の枝の上から飛び降りクルリと一回転し着地する。
全員の暴動は止められないかもしれない。でも頭を止めることができれば、なんとかできる範囲だ。
そして手札は私の手の中にある。
真夜中にうちは本宅にこっそりと忍び込んだなまえはフガクの部屋へと侵入する。
そしてゆっくりと声をかけた。
「こんばんは、フガクさん。」
「………おまえは、なまえ、か」
被っていたフードをぱさりと落としたなまえは暗闇をいいことにじっくりとフガクを観察した。
「夜分遅くにごめんなさい。どうしてもお話したいことがあって」
「……。」
「ちょっと私の家に来てくださいませんか?」
「ここでは出来ぬ話なのか?」
「はい」
幼い頃からの知り合いだとしても、敵地で話をするなんてことできるはずがないでしょう。なまえは即答するように肯定する。
「……九尾の子はいいのか?」
「ナルトはウルスラグナが面倒を見ています」
「ウルスラグナ…?」
「あれ、お会いしたことありませんでしたか?私の口寄せ(使い魔)です。」
一つの頷きとともにそうか。と相槌を打った。
「構わない、それじゃあ向かうか。」
「ありがとうございます」
軽い会釈をしのんびりと歩く道中、近況を報告し合う。
「そうか、上忍になったのか早いものだな…」
そうです。わたくしなまえは、この任務のためだけに駆り出される割合の多い上忍にわざわざ就任したのです。テンポ早くて私も若干戸惑っていますが、フガクさんがそのあとに続けた「ついこの間まではミナトたちの後ろに隠れてしがみついていたのにな」とクツリと喉の奥で笑われてしまったことで内心テンパってしまう。
本音を言ってしまえば、今だって自分を偽りたくて仕方が無い。ナルトとの時間が減ってしまう上忍なんかじゃなく、下忍か中忍で、それ以前に兄さんの後ろでなんの心配もなくゆったりと過ごしたいものだ。
「イタチとはどうだ?」
話がそれてしまうが、フガクさんは私が話を振られない限りは、基本話したがらないのを知っているためか、こうやって話題を提供してくれる。同じコミュ障だと思っていたのに。いや、ごほん、本当は正義感と責任感が強いいい人なんだ。
ただ、ちょっとだけ不器用で、周りに言われて、周りの人のために奮い立たせた心の根の優しい人なんだ。
「えっと、今度、お団子食べに行くんですよ、しっかりお土産持たせて帰らせますね」
へらりといつも通り笑うと、フガクも空気を緩める。
「……アイツ…は、お前といるの年相応になれる、これからも仲良くしてやったくれ」
「……はい、もちろんです」
ほら、こんなにも優しい。
こんなにも愛情に不器用な人を私は知らない。らしくもなくふふ、と笑えばいつもの仏頂面のまま彼は頷く。
ナルトたちがいるため、できるだけ物音を立てずに部屋に入る。ごく一般的にリビングと呼ばれる横文字の単語は存在しないため、生活感のある居間(意味は一緒だけども)まで案内する。
「ちゃんと生活出来てるみたいだな」
「はい。おかげさまで」
「火影様から聞いた時は驚いた。齢5歳にして、赤ん坊を育てるだなんて」
「はは…私も自分ながら昔の自分に吃驚しています。」
本当に私が5歳だったら、そう思うと悪寒が走る。記憶を持ったままこちらに来て本当に助かった。
「赤ん坊を持ち、アカデミーにも通い、とんとん拍子でもう上忍か。これもまた、波風の血か…。」
「改めてそう纏められると本当に凄いですよね」
フガクが目を細めながら口にした内容になまえは他人事のように笑う。
そして最後の言葉は聞こえぬ振りを貫く。
「もちろん私だけの力じゃないんですけどね」
「火影様から聞いたが、他人の介入を全て断ったそうじゃないか。」
「………はい」
「うちからの援助も断っていたな。」
「その件は、本当に嬉しかったんですよ」
お前は(あなたは)娘同然なのだから。と心の底から心配してくれているのが伝わってきた。
それでも私にはやることがたくさんあったから。他人の目があるとできないことだから、火影様に条件をつけて、全部がんばったんだ。
「フガクさんの他にも、火影様からやシカクさんにも沢山言われました。」
兄夫婦の件を除いた素直な気持ちを、私の言葉を沈黙を守り待ってくれている目の前の人物に伝える。
「他の人の視線が、どうしても気になってしまったんですよ。」
どうして、護る人を選んだの?
なぜ、私の息子を、娘を、妻を、夫を…大切な人を見殺しにしたの?
どうして、 もっと早く来てくれなかったの?
なぜ、助けられる力がありながら出し惜しみなんかしたの?
どうして?ねえどうして?
なぜ?ねえなんで?
「私はいつだって、ある観点のみ、天才だってもてはやされました。もちろん驕らないように努力もしてました。でも、私だって人間なんです。できることよりもできないことの方が山のようにあります。勉強が出来たからってなんですか、ちょっと人より運動が出来たからってなんですか。私はそんなもの求めません。諦めたっていいじゃないですか。それが人間だもの。エゴだっていいじゃないですか。そこまでできた人間じゃないんだから」
いつか語ったことのある言葉を今度は吐き捨てるように音に出す。フガクは目を見開いて なまえを見ていた。
「私が大事だと思うものは、その過程です。」
「結果論ばかり振りかざされても人として大切な心根は成長しないんです。」
「現に、ナルトなんかは何度も何度も闇討ちされかけています。結果論として残った、彼が"里を襲った九尾が入っている"から」
「…!!
ならばどうして大人を頼らなかった」
漸く口を開いたかと思えばなまえはそんなことかと肩を落とす。
「頼って、どうするんですか?」
保護?保護された結果が"あれ(原作)"なのに?寝かしつけたナルトの顔と原作の幼い彼が頭にちらつき憤る。
兄さんの里だから、里を守りたいと思った。兄さんとクシナさんの子供だから、私の甥っ子で私が絶対に守りたいと誓った子だから、被害をできるだけ少なく留めた。確かに一般の方で亡くなった方には力不足で申し訳なくおもう。
けれど、忍びならば、忠誠を誓った里ならばたとえその命尽き果てても、任を全うするはずでしょう?なんで、恨まれないといけないんだ。そんな覚悟ができていないなら忍者になるなよ。
なまえは毒を吐く。
「だって、フガクさん、あのときいなかったじゃないですか。里が壊滅するかもしれないって状況下で、うちはの…木ノ葉警務部隊の方一人も見てないんですもん。」
「……!!」
「木ノ葉警務部隊の隊長を務めていたフガクさんはもちろん、他の人も。私小さい頃からうちはのお家にお邪魔していたのでそれくらい記憶しています。」
「なにを…」
「もしかしたら、私が見ていないだけかな、とも思いましたが、違いますよね。フガクさんたちは本当にあの場に来ていなかった。」
円を張って幾度か確認していたんだから、それは間違いない。
「こう思いたくないですが、里が壊滅してもよかったんですよね、うちはは。」
もともと木ノ葉警務部隊は二代目火影・千手扉間がうちは一族に危うさを感じていたため里の中枢から隔離したうえ監視しやすくするために設立した組織であり、その不遇な扱いに業を煮やしたうちは一族はフガクを中心にクーデターを計画したはずである。
木ノ葉の御意見番どももそうだけど、古参の意見も大事だが、あくまで意見を述べる程度である。押し付けられては里の機能はただ保守されてるだけだ。
そのおかげで元の世界でどれだけ私たちが苦労したか…突如襲った偏頭痛を和らげるため米かみをぐりぐりして息を吐く。
いけない、話がすっかりそれてしまった。
意識をフガクに戻すと、なまえは睨まれていた。
「何をいっているのか理解しているのか」
若干地を這うフガクの声になまえは一つ頷く。
「10歳のお子様に理解できてないんじゃないかって?」
「たかだか10歳の子供だろう」
ズズゥとお茶をすすり息をつく。
なまえはおかしいなぁ。と首を捻りながらフガクをみる。
「えっと、私、厚かましいと思うんですけど、フガクさんとは腹を割って話せる相手だと思ってました」
なんていっても本当に腹を割って話せる相手なんて今のところウルしかいないんだけどね。そんなことはおくびにも出さずなまえは続けた。
「年齢関係なく、ね」
「おごりもいいところだな」
むつりと言うフガクになまえはえええ?と軽く笑う。フガクは怪訝そうに顔をしかめた。
「ダメでしたか?」
「いや、流石波風なまえだな」
「フガクさん、波風だったら不可能じゃないなんて持論でもあるんですか?」
思わずつっこまずにはいられない言葉に口を挟めば肩を竦められた。
「そう、だな。確かに俺はなまえを本当に子供だと扱っていたのは4代目が死んでしばらくたってからだったな。」
「それからは甘えてなんでいられませんですし」
「甘えなかったんだろ?」
「違います、甘えられる人がいなかったんです」
重たい沈黙の後、フガクは苦々しくため息を吐いた。
「……そんな幼少期から、うちはを信用していなかったんだな。4代目から何か吹き込まれたか?」
「はい、信用も信頼もあのときはしていませんでした。」
あのときは相手も全力ではなかったにしろ自分自身とこの両腕に抱えられる人物だけで手一杯で周りを受け入れるなんてできなかった。人伝に私がその場にいたことを知っていたのだろう。フガクは驚くことなく「あの騒ぎだったからな」と自嘲した。
「里の偉い人たちが信用できなくて、信頼できるのもクシナさんと兄さんだけでした。」
「5つの時で盛大な人間不信だな…」
「なんとでもいってください。ちなみに今だってこんなに話ときながら頭のなか真っ白ですよ。全部素直な気持ちです。」
「十分対話してるがな」
「事実こんな私だけ一方的に話す会話考えたくもないしやりたくもないです。下手したらナルトに泣きつきたいくらいです。」
なまえの最後のセリフに真剣さが伝わったのか呆気にとられたフガクは目を見張だて口をうっすらと開いた。
「そんなところは、子供なのだな…」
まあ、そんなみっともない真似しないですけど。なまえは苦笑いして場をしのぐ。
「さっさとこの与太話も横に置いて、本題に戻りましょうか。」
なまえがそう仕切り直せばフガクは表情を消した。世間話や身の上話をしてるときのフガクさんは本当にいい人なんだけどな。小さく息をつけば催促と思ったのかなまえを見下ろしていた彼は腕を組んだ。
「ここにはウルスラグナが結界が張っているので話の漏洩漏出の心配はないですよ」
なまえがとどめとばかりに告げればフガクは机に手を組み鼻頭につけ肘をついて俯きがちに「優秀な口寄せだな」と低く唸った。
「…"里が壊滅してもよかったのか"だったな」
ようやく明かされる真相になまえは耳を傾けた。念話で<<ルーク、記録>>と促すのも忘れずに。
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零