なんだか久々に気分がいい。
ホクホクしながら4人で部屋に戻る。
また夕飯にね。と互いの部屋で別れてダンボールを片付けている最中だ。洗濯を行うためにランドリーに行くと江ノ島がそこにいた。
江ノ島はなまえの存在に気がついていないのかカゴをそばに起き足を組んで雑誌を読んでいた。
無感動に眺める彼女を横目に洗剤をいれ洗濯機を回す。30分か、なら先に食堂に行くか。そのままランドリーをあとにする。
目の前の食事をぼんやりと眺める。
これはまた怒られちゃうな。まあその対象も現在いないし別にいいか
手を合わせいただきますと呟きそれに手を伸ばす。もぐもぐと頬張っていると徐々に賑やかになっていく。一人一人に魔力球を付けて行くのは忘れない。
恒例の報告会を簡単に済ませ終わったのを見計らい部屋に戻る。さてさて、昨日セレスさんから言われた夜時間の外出の禁止、申し訳ないけど早速破らせてもらうつもりだ。ベッドに座り足を組む。11時くらいならまだ起きてるよね。しんと静まり返る個室。今黒幕に見られていると考えるととても居心地のいい場所とは言えないがまあ仕方が無い。とりあえず別に今は緊張しなくてもいい時だ。ゆっくりと休めておこう足を投げ出しベッドに寝そべる。
あーあ、まったく。諦めたくないんだけど、いつになったら帰れるんだろう。微かに動く口。音は漏れていない。枕を顔にうずめるように抱きしめ考えに耽る。
もう何年経ってしまったのだろうか。一度も、一度だって記憶をなくすことはなかった。だからこんなにも諦めきれない。奥歯を噛み締めればギリリと音が鳴る。
どこも確かに大切に思った世界で、私が培ってきたモノ、確かに存在した場所だ。
だけど必ず最初の、私が本来居た世界。そこが一番大切でかけがえないものだった。大好きな世界で大好きな人と共にいて、大切なものに囲まれる。唯一命をかけてでもいいと思えるのはやはりあの子たちだった。
まあ、そんな危険なことに陥ったことはないのだけれど。ここまで平和な日本に住んで昔の故郷を思い出した私はいつだって人と関わることを避けていた気がする。ああ、そうかだからついた呼び名が"影"だったのか。
落ち着いて考えてみたら普段はまとまらない考えがストンと胸に落ち着いた。
「私は影としてどう動いて行くか。」
「影ってなんなんだろう。そもそもなぜ私はここにいる?」
「わざわざ入学通知を受け取ったのにはわけがあるはず。その大前提に私の存在を誰がいつどこで、どうやって知ったのか。」
ああわからないことだらけだ。
彼らはどうやって私を、、ん?
…彼ら?そうか、そういうことか。私がここに来た理由は察しがついた。絶望か。なるほどおそらく私の家族だけではないだろう。友人たちも全滅とは行かなくても数人アウトだろう。
そこでテレビが光、夜時間のアナウンスが流れた。ああ、いい趣味してると思うよ。あと一時間。ようやくまとまった思考で疲れた頭をゆっくりと休めるように腕を下げ軽く目を閉じる。
久々に点を行うな。片隅で考えて一時間ピッタリと行う。
よし。マクラをおろしこっそり印を組む。
この部屋にかけた幻術ならきっと破られることはないだろう。きっとモノクマの目には私は早々と寝ているだろう。
そして絶を行い霧切の部屋へ歩みを進める。扉をノックし霧切を待つ。気配はある。ぼんやり扉を見ていたら霧切はそっと扉を開いた。気配を消している私の姿はどうやらこれだけ目の前にいても気がついていないようだ。声をかけてやればようやくこちらを向く。驚いたのであろう。目を見開き口を閉ざした霧切にと『話があるんだ、部屋へいれてもらってもいい?お願い』音が拾われないとは限らない。あらかじめ書いておいたメモ用紙を彼女に見せる。
なまえの意図を察したのか手早く引き入れる。部屋に向かう前に廊下にも誰もいないと認識させる軽いな幻術をかけたが念には念を入れてのことだった。霧切の部屋の扉をなまえが閉め真後ろを向いて締める。なまえはその隙に廊下の幻術を解き霧切さんの部屋に三度目の幻術を今度はしっかりとかけた。
振り返り体の力を抜く。どうやら柄にもなくこんなことで緊張したらしい。まあ忍者やめて暫くたつしね。仕方ない。こちらをジッと見つめるだけの霧切になまえは目を瞬く。(いけない、要件がまだだった。)はいるだけで目的を達したかのような疲労感が襲った。
「それで、何かしら話って」
私の意図を察してくれているんだろう。これはとても話がしやすい。本当に聞こえるか聞こえないかくらいの小声で私に問う。
「ああ、もう普通の声量で問題ないよ。」
「そう、それで?」
簡単に頷き続きを促す霧切に若い頃のカカシさんを思い出した。ああ、両方に失礼だね。
「いまから話すことは他言無用にしてもらいたいんだ。」
「内容にもよるわ」
あっさりとそう返す霧切に、顔を綻ばせる。
そうだね、それが正しい。誰かの言葉で自分の意志を曲げないためにも、惑わされないためにも。まあ、話をすれば彼女にわかってもらえるだろう。
「それでいいよ。霧切さん、私は超高校級の影として、この場にいるんだ。」
「ええ、知っているわ。現に私は目の前のあなたを認知することが出来ないわ。正直、いつあなたに刺されようが対応できないと思う」
クスリと笑う霧切に私も同意する。
そうだね、今私が彼女を刺したら完全犯罪が成立する。モノクマも知らない。カメラにも残らない。私は幻術で寝ている姿だけが写っている。そしてまだ私は誰にも自分の能力を見せていない。ただ唯一わかる事実、霧切は誰かを招き入れて殺された。その事実が浮き彫りになるだろう。
「そうだね、たしかに。じゃあ対等といこう。」
「え?」
霧切は首を傾げたのち息を飲む。手袋をした手が口元を覆う。信じられない。そんな表情を見せる。
「あなた、それ…」
絶を解いたが、気配まで経ったわけではない。今度ははっきりと私を視界に入れた彼女。先ほどは声で場所を特定していたようだ。
「うん。霧切さんの考えているとおり私はこれをコントロールできるよ。」
「なっ…」
絶句する霧切に私は微笑む。彼女の頭の中で私は今度こそ誰かを殺めるのではないかと一瞬でもよぎったのだろう。しかし私はこの世界では潔白だ。助けられる命は救うと決めたのだから。
「大丈夫だよ霧切さんが考えているようなことは一切考えてないから。」
「…そう」
何を考えたのか間を置き答えた彼女を見る。まあ別に納得したかどうかは今の段階では問題ない。大切なのはこれからの内容なのだから。
「とまあ、私は超高校級の影としてここに来ているんだけど、私頭の回転あんまり早くないからさ、霧切さんに協力してもらいたいことがあるんだ。」
「協力…?」
今度こそ怪訝そうな顔を見せた霧切になまえはそのまま頷く。
「霧切さんが誰かを殺してまでここから出たいって考えてるならこの話はできないんだ、そこなところどう?どうしても出なきゃダメ?」
「私は…違うわ」
キッパリと言い放ったこの"違う"には人の気持ちを考えることが苦手な私にもわかるほどたくさんの思いが込められているのだろう。彼女は私と違ってまっすぐだから。こういうところ彼女たちにそっくりだ。はは、と思わず笑ってしまう。
「なら、暫くはここからでない方がいいかもよ。」
「なぜ?」
「それを今から説明するよ。そうだな、超高校級の影である私…みょうじなまえがここにいる理由から入るけど大丈夫?」
「それが話の中で重要なら、問題ないわ」
「重要かはわからないけど必要だと思うよ」
ずいぶんとあっさりしている霧切になまえは拍子抜けしてしまった。話が滑らかに進む。どう話を切り出そうか悩んでいた時間が嘘のようだ。
(流石は霧切さん。聞き上手だ)
へらりと笑って霧切に言えば「じゃあお願いするわ」と促される。
どこから話そうか。そうだね。そう言って私は思い出すように目を閉じて口を開く。
私はこの学園に来る前はある事実に打ちのめされてたんだ。まあこのある事実ってのは長くなるから割愛するね。その中で、私は親しい友を数人、それと家族かなそれくらいしか関係を持たなかったんだ。その生活の中であるこの希望ヶ峰学園の存在を知ったわけで。私はとある事情からこの学園について知っていたの。だけどいま、『超高校級の影』そう呼ばれる私が中学生のとき学園側から見つかるはずがない。だからこの学園の学園長とコンタクトを取ったの。
霧切の顔色が変わった。白い顔がさらに青白さを増していた。
「みょうじさん、学園長って…!」
「そう。ここの学園長。霧切さんも知っているはずなんだけどね。彼は、私を見て次年度から入学の許可をくれたよ」
「知ってる?私が?」
「記憶がないのはそれだけ黒幕に消されたからだよ」
「なっ!?」
霧切は慌ててカメラを見る。
「大丈夫。カメラについては問題ないよ。」
霧切にそう伝えれば何故?と鋭く問われる。
「まあ私がちょちょいと細工したから」
言い得て妙である。まあ間違ってないけど。霧切は表情を消し壊したの?と目を細めた。
「壊してないよ。私がこの部屋から出るときには戻しておくから心配しないで。」
意味がわからない。霧切は吐き捨てる。だけれど信じてもらわなければ先に進めないんだよ。
「なら、この話が終わったらその話をしよう。だけどこれは私の切り札の一つでもあるから、その話についてするのなら協力をしてもらわなきゃならない。」
身を削ってまで慈善活動なんてしたくないからね。なーんてどこぞの真っ黒い男のようだ。
「そうね、」
顎に手を当て考える仕草をとる。実際考えているんだろう。
「なら質問させて、その話を聞いた上で、こちらのメリットはあるの?」
「メリット?むしろ私が何のために動いてると思ってるの?」
「それはー…」
「君たちこの世界の希望を死なせないためだよ」
霧切がハッと顔を上げる。
へらり、いつものように笑えば霧切もクスリと笑う。やはり美人は笑っていた方がいいね。
「なら、私が反対する理由がないわねいいわ。それについても話を聞かせて。」
「了解。」
「ええ、なら話を戻しましょう。」
霧切は顔を多少緩め聞く態勢を整えた。
→
零