ある程度話しただろうか。霧切はその内容のとんでもなさに頭痛を覚えた。彼女はそれを 一人で抱え込んでいたのだろう。黒幕や私たちにも悟られずに。

数日前に入学したわけじゃなく、2年もともに過ごしたクラスメイトを殺させる。なんて話だ。それだけじゃない、彼女はなぜか知っていたのだ。『これから先に提示される動機』について。その真偽については明日わかると彼女は言っていた。そしてその動機で第1の殺人が起こるという。彼女は誰も死なせたくない、そうも言っていた。たしかに予測がつくのならば殺人なんて起こらない方がいいに決まってる。

「ある程度言いたいことは分かったわ、理解や納得には程遠いけど」

流石に仮説を立ててみる。実は内通者?『超高校級の影』の彼女は黒幕へのスパイを行っている?
これが一番有力だろう。カメラも操作できる。一番現実的だ。ならば逆は?彼女は学園生活を面白くするさくら?それとも彼女が本当の黒幕?それなら動機の提示のタイミングや殺人についても仮説として十分成り立つ。彼女の話をどこまで信じるか。そう思案しているの彼女はゆっくりと口を開く。とても言いずらそうだ。

「じゃ、じゃあ今からはまた戻って私の話だね。」

一瞬裏返った声に緊張が伝わった。
そういえばその話もすると言っていた。

「実は私忍者なんだ」

「…は?」

間の抜けた声が思わずでた。

「だから忍者なんだ。忍び」

にんにんといいながら指を立てる。忍者を表現しているつもりなのだろうか。

「前世で里長の妹でそれなりに強い忍者やってました。」

反応し切れない情報にコメかみを押さえる。
え?これは冗談よね?場を和ませようとしている、そんな計らいだと信じたい。

「だから気配だって消せるし移動もある程度の距離なら一瞬だよ」

あとはそうだなーと何かを考え始めた彼女に嫌な予感が背筋に走る。何やら手を結び始めた彼女は唐突にこういった。

「影分身の術!」

「…え?」

煙がモクリと立ち上がり目を凝らせば彼女は2人いた。ね?と声を揃えて言う彼女にとうとう頭を押さえ座り込んだ。

「忍者なんです」

それはたしかに人には言えないわ。そしてとある理由もそれ関連なんだろうなと息を吸い込む。

「わ、かった、わ。そうね、これは流石に他言しないわ。」

というよりも信じてもらえないだろう。私もこんな非現実を信じたくない。影分身とやらに触れさせてもらい、よかったと笑う彼女が嘘をついているとは思えなかった。まああんな芸当された嫌でも納得を余儀させられる。

「霧切さんが寛大でほんとよかった。普通こんな話信じないよね。」

のんびりそういってぼふんと分身を消した彼女の頬を思わず左右に抓りあげる。

「そう、そんな特異なみょうじさんはこれからどう行動するつもりなのかしら」

「あのれふね、それも話しまふよ」

いひゃいいひゃいといいながら抵抗を見せない彼女に呆れ、話をするのならと手を離す。

「私の目的なんてただ一つだよ。」

「さっき言っていたやつね」

「うーん、具体的な方法を上げると夜中に外を見張るくらいかなぁ」

「黒幕にバレないように?」

「うん。私あんまり頭いい方じゃないからさ、霧切さんに協力してもらいたかったんだ。」

「私が黒幕に内通している可能性は考えてないのね」

「え?霧切さんが?ないない」

「みょうじさんのその根拠のない自信どこからくるのかしら」

ちらりと揺さぶって見てもへラリと表情を変えない。みょうじをじっと見つめていれば焦ったようにあわあわと口にだした。

「霧切さん、あの、あとひとついいかな。」
「まだあるの?」
「こ、これは個人的なコトなんだけど、私、とんでもなく人と関わるのが苦手っていうか、目を合わせられないっていうか落ち着かなくなるんだよね。」

そう言って目線をフラフラと動かすみょうじに霧切は不思議そうに問う。

「さっきまでなんともなかったじゃない」

「あ、あのときは緊張してたんだけど霧切さんが話しやすいのもあって私の舌と考えている頭が円滑に働きました。はい。」

「そう…」

なんだかとてもどうでもいい情報だったと思ったのだがこの際言わないでおこう。彼女がどこまで人との関わりが苦手かは後々の関わりで知って行くだろう。私と関わりやすいのなら今のところなんの問題はない。

「じゃあこちらからもひとつ聞かせて。なぜ私なの?」

「うーん、話すなら苗木くんか霧切さんかなー、って」

「そういえば苗木くんとあなた食堂や倉庫で一緒にいるの見かけたわね、仲良いの?」

「え?うーん?」

「違うの?」

候補にも入っていたのに。と首を傾げる。彼女は何か迷ったいた。

「なんか意図はわからないけど苗木くん私を攻略しにかかってるんだよね…」

「え?攻略?」

「なんだろう、例えるならこれは、恋愛ゲームで私を含め複数の攻略対象がいるとする。苗木くんはそのうちの私や舞園さんを落とそうとしているー、みたいな?」

「…ゲーム、好きなの?」

「大好き」

即答する彼女の言いたいことは理解しがたいがまあ、なんとなく伝わる。つまり苗木はみょうじをそういう目で見ているのだろう。ゲームについて語り出しそうだったので別の話題とすり替える。

「だから、私を選んだの?」

「ううん、ほとんど始めから霧切さんにしようって決めてたんだ。」

「なぜ?」

「あの時私に話を振ったのは霧切さんだから。」

あの時とはいつだろうか。沈黙していたらみょうじは話を進める。

「別に私はあの時あの情報を伝えるつもりはなかったんだ。」

「まって、あの情報って?」

「え?ああ、カメラの話」

「放送されているってやつね」

うん。と頷いた彼女は伝えるつもりがなかったと言った。ならばなぜあの時あの話をしたのか。

「私があなたに意見を聞いたからね」

「ん。みんな情報出し終えた後だし、タイミングよかったからね。もともと私は自分からは話しかけたりするようなヤツじゃないからさ、そういうタイミングを読んで私の意見を場に出させてくれるような人、霧切さんみたいな頭がいい人なんてドンピシャだったね。」

「そう、私が頭がいい、なんてそれは」

「わかるよ、だって超高校級の探偵さんでしょ?いくつもの事件を解決してる。」

「探偵、って…」

「大丈夫、女の子は秘密があった方が綺麗になれるよ。まあ秘密だらけな私が言うセリフじゃないんだけど。」

カラリと笑った彼女に目を瞬く。

「まさか、まだ秘密があるの?」

その問いに彼女はただ笑うだけだった。