白雪を追い、なまえは近場の大木に身を寄せた。すぐに彼女を浚えるように、起動させたルークを手にまとい、白雪につけていた魔力球に集中した。

『そちらから私の愛妾を申し出てもらう
ただの街娘とはいえ女性に恥をかかせたくないと胸を痛めた私が受け入れ解決だ。』
『ああ!偶然とはいえ嫌とは言わせない材料が手に入って幸運だった』

………思わず絶句。ルークに話しかけられるまでなまえはラジ王子から発せられた言葉の意味を理解するのに、意味を咀嚼嚥下するのに時間がかかった。

<<想像以上のグズっぷりで、開いた口がふさがらないというのは、こういうことですね>>
「まったくだよ…」

穏和なルークの台詞になまえは頭痛くなってきた。とこめかみを抑える。

『ご友人へのお見舞いにおひとついかがかな?白雪どの』

白雪に差し出した真っ赤なリンゴ。なまえの目は座り無言でルークは杖を取り出した。

「カウント、スタート」

10

9

8
白雪がラジの手を弾く。
「あら、失礼ラジ王子。どうぞお好きに、お連れください」

7

笑っていない目で口角を上げ白雪は笑った。
そのとき。

『却下ぁああ!』

6.

5…
『それ以上、その娘の耳が汚れるような戯言を吐かないでもらおうか』

息切れした青年のその台詞にフッと笑みが浮かんだ。

4

3


「ルーク、モードリリース。」

なまえの指示にルークは魔力の収束を停止した。駆け寄る白雪に青年は解けたから結んでくれと手を差し出す。ラジが毒を口にしたのは君か!と青年に話しかけ口のきき方を改めたまえ!君とは身分が違うんでね!と鼻で笑っていた。

『これは失礼、ラジどの。
では面倒だが改めてお初お目にかかる。
私はクラリネス王国第二王子 ゼン』

『第二…王子!?』

白雪の驚いた声になまえは白雪の王子さまは本物の隣国の王子様ってわけかー。少女漫画か…!思わず苦笑した。彼が隣国の王子様ならば、タンバリンの王子様は国際問題を起こしたわけだ。なんせ、自ら口にしたとはいえ毒を盛られていたわけだから。

その後はトントン拍子にゼン王子の優位で話が進み、白雪はラジに薬を要求していた。

その様子を見てなまえは、ゼンに任したらきっと白雪は大丈夫だ。とほおを緩めた。

「さて、これからどうしようかルーク。」

モニタではゼン王子が白雪を口説いている。
俺としては、今おまえといることは運命だと嬉しいんだけど?

王子さまからそんなこと言われたら女の子ならばイチコロだろう。

彼女はきっとクラリネスに行くだろう。愛妾の件が解決してもタンバルンのあの家には戻らないだろう。なまえはどーしよっかなぁ。と再び木にもたれかかった。

白雪から言い出したくせに。なまえはなんとなくムクれながら画面上の白雪をじとりと睨む。

森の奥にでも本気で住み着こうか。そんなことを考えていたなまえは同時に不安に思った。ただの街娘である白雪が隣国の王子とどう付き合っていくのか。白雪は私と違って意志の強い女の子だ。きっと自身の持つ力で困難を突破すると思う。

でも、不思議なことに人間関係が得意でないなまえが、関わりを嫌だと思わない不思議な人間なのだ彼女は。無言が苦にならない。貴重な親友。

「それにーーー…助けてもらった恩を返す機会すら彼に奪われてしまったし。出るタイミング逃しちゃった。」

まったくもう。イケメンはこれだから!ぷんぷん!
stkするか。やれやれ。と頭を振りながら言えば愛機から声がかかる。

<<犯罪ですよ>>
「大丈夫だ問題ない。」
<<問題しかありません>>
「ストーカーじゃないって。護衛ですぅ。」
<<白雪さんなら顔を見せるだけでも喜んでくださるでしょうに…>>
「白雪から、頼られるに値しないと判断された人間がどうして顔なんて出せるの……」
<<彼の方は頼る頼らない以前だと思いますが…>>
「あの子は!私じゃなくて、見ず知らずの人に助けを求めた!白雪から一言でも"なまえ"って呼んでくれたら、直ぐにでも掻っ攫っていったのに!」
<<マスター。それは我儘というやつです>>


愛機に宥められ分かってるよ!とそっぽを向く。ただ、理解はできても納得がいかない。
違う、そうじゃない。白雪が悪いんじゃない。私が、悔しかった。心を開いた彼女に頼られなくて、悔しいのだ。私は白雪に頼っていた。でも彼女の本当に大変な時に私は彼女の役に立てなかった。それがどうしようもなく悔しくて納得がいかなくて、頼ってもらえなかった自分が許せなくて。

「ごめんルークただの傲慢だ。」
<<オーライ。溜め込まれても体に悪いですから。>>
「ん…」
<<それで、今後は…?>>
「私は…やっぱり、彼女の進む道が切り開く道をこの目で見ていたい。白雪には私の探す道を進んでくれって言われたけど……どうせ、次元震に巻き込まれるならさ、大切だと思った人を有限の時間の中で見守りたいじゃない?」

泣き叫んで喚き散らすのはもうおしまい。
なまえはこの世界で初めて先を知らない世界と出会った。その世界はとてもキラキラと輝いていて。白雪の輝く舞台を私もみていたくなって。

「あー…でも、ただ見守ってるだけじゃアレだよね…衣食住整えるには働くかなぁ…」

昔やった情報屋は…足で稼いでもいいけど精査すんのめんどいしなぁ。
それにこの世界の移動手段は馬らしいし…馬買って世話するの大変だしな…生き物飼うにはそれなりに覚悟必要なんだよ。そもそも転移した方が楽だし、馬使うよりも念使って走ったり方が早いし魔法で飛行したほうが早いし……。

「白雪影から見守りながらの生活かなあ。」

また赤髪で目をつけられそうだし…でも確実に大丈夫だと思うのが白雪だなぁ。