タオルで来るんだ包丁はしっかりと手に持ち桑田に断りを入れて部屋を出る。
部屋を出てしばらく歩けばもちろんいるのは舞園さんだ。辺りを気にしてプレートを外そうとしている。やっぱり部屋の
入れ替えでしたか。

「お、おはよう、舞園さん朝早いんだね。」
「ーーーっ!お、はようございます」

みょうじさん、と顔色悪く口を開く彼女に再びおはよう。と言えば、「みょうじさんも朝早いんですね」と小さな声でそう呟いた。もちろん早朝である今、この静かな空間で聞こえないはずがない声である。

「今日はたまたまだよ、昨日あんなの見ちゃったせいで眠りが浅くて」
「わ、わたしもなんです」

舞園もすかさず同意を唱える。震える手は何かを確実に恐れていた。

「しばらくこの辺り歩こうと思うんだけど舞園さんも一緒にどう?」

へらりと笑いながら首をかしげてそう言えば予想通り首を横に振られる。その表情は初めて会った時と比べて青白く、暗い表情だった。
「すみません、わたしは部屋に戻ります。」
「そっか、舞園さんすごく顔色悪いし、部屋で休んだ方がいいかもしれないね。じゃあまた食堂でね」

手を振り部屋の扉が閉まるまで見届け、隣の部屋を訪ねる。部屋の住人は起きていたのか直ぐに現れた。

「何か用かしら…?」

扉を片腕で開きチラリとなまえを一瞥し、小さく問う。昨日のあれがなければ嫌われてるかと思ってしまう変化にあのね、と口を開く。

「ちょっといいかな」

「…ええ、構わないわ」

なまえは廊下で立ち話をするよう促す。

「えーと、これ、預かっててもらいたいんだけど」

霧切は心得たように頷きそれを受け取る。

「まだ中身みちゃダメってことで」

「そう、わかったわ。」

「あと、霧切さん、隣覚えてる?」

苗木くんよ。と答えた彼女にふへ、っと気の抜ける笑い声を漏らす。

死角の位置で指を差す。


なまえの指した方を振り返ってみやればそこにあるのは女の子のイラスト、つまり舞園さやかのイラストだった。

「用事はこれだけ?」

霧切は戸惑うそぶりを一切出さず振り向き直った。こくこくと二、三度頷いたなまえは霧切に朝早くごめんねと一言告げて部屋にもどった。


そこに大層ご立腹の桑田怜恩がベッドで拗ねていた。おいお前は私の彼女か。となまえは頭の中で珍しく冷静に突っ込みをいれる。

「怒るかふて腐れるかどちらかにしたらいいのに。」

自分でも声に出すとは思わなかったが静かな部屋によく響いた。あ、と思った瞬間飛んできた枕。枕は一向に悪くないので叩き落とさず捕まえる。どうして枕投げられうけとめるだけで、ここまで手に痺れが来るのかがひどく疑問だが。

「おまえおっせーよ!」
「ああ、ごめん」
「軽ッッ!」
「大層申し訳なく思います」
「思ってねぇだろ!心こもってねぇよ!ぜってえ!」

バレたか。悪びれなくそう思うのは彼に遠慮がなくなったからだろうな、なんてどこかで思う。

「まぁ、実際は、あと20分くらい帰ってくる予定なかったんだけどなまえさんって優しいから早めに戻ってきてあげたんだけどなー」
「っはあ!?バァカおまえ俺がどれだけ…!クソ!アホー!」

だからおまえは私のなんなんだと内心呆れながら目を細める。まあ心細いんだろうなぁと、思いつつ適当に彼の相手をしておく。

どうやら私が出ている間に朝のモノクマ放送は終わったらしい。誰ともスレ違わなくてよかったなと思いながら腕を組む。

ならそろそろ行こうか。と桑田を促し部屋から出る。最後に全部を伝えるんだから、最初はどんなこと言われても我慢だよ、と付け加えて。

食堂に向かいながら口数が少なくなる彼は罪悪感からか、恨みからか。

背中を二度叩き前を向かせる。ここで引いたらキミは負けるよ。と小さく口にする。

開いていた扉を潜れば予想通り、大量の視線を浴びた。何食わぬ顔で入ってきたように思われたのだろうか。朝日奈から鋭い声が上がった。

「なまえちゃん!桑田から離れて!」

「そうだべ!アイツは舞園っちを襲ったんだべ!殺人鬼だべ!」

予想通り過ぎて私は内心苦笑した。さっすが舞園さん。信頼が厚いね。桑田は拳を握りしめ俯いて耐えていた。

「舞園さん、桑田くんに襲われたって本当?」

朝日奈に向き合うように問い苗木の後ろにいた舞園さんを見やる。青ざめて可哀想なくらい震えている。たしかにこれでは知っていなくてはまず桑田を疑う方が無理という話しだ。
「そうなんだよ!舞園ちゃん朝から怯えててさ!」
「どうしてまたそんなことに…?」

首を傾げたなまえに舞園が青く変色させた唇を噛み締めた後説明し始めた。

「あの…昨日、夜時間になってしばらく経ってから、桑田君が訪ねて来たんです。 私がドアを開けると、そこには包丁を持った桑田君が立っていて... 私は模擬刀で必死に抵抗しました。 何とかシャワールームに逃げ込んで、」

「事を凌いだ、と。確かに女子の部屋のシャワールームには鍵がかかってるしね」

聞き終えると、幾多の視線が桑田に向かう。

懐疑をはらんだ視線に桑田青ざめた表情でたじろぐ。そこでなまえが場違いなほどにのんびりと口を開く。
「大変だったんだね、でもさ、一方の話だけを信じるもあれだし、 桑田くんにも言い分があるかも」

パタパタと手を振り言いながら、桑田に発言を促す。嘘は盛っちゃだめだよと事前に伝えてある。頑張って弁明してくれたまえ。

「ちっげーよ!!
そいつの言ってる事はデタラメだ! 夜、オレはそいつに"呼び出されて"部屋に行ったんだよ... そしたら殺されそうになって、部屋に置いてあった模擬刀で何とか身を守って包丁を取り上げたんだ! 」

「ふん、それを裏付ける証拠はあるのか?」
「しょ、証拠?」

堰を切ったように言いたいことを言った桑田は十神の言葉に戸惑う。ちらりとなまえへ視線を向けたがへらりとした顔から変化は見られない。仕方なしに彼はポケットを漁る。

「しょ、証拠になるかはわっかんねぇけど、こんなのなら…」

触れた物を恐る恐る引き出し、桑田はポケットから紙切れを取り出す。皆の視線は桑田に集まっていたため誰も気づかなかった。一人の少女が顔を青くするのをなまえは見逃さなかった。
「『2人きりで話したい事があります。 5分後に、私の部屋に来てください。 部屋を間違えないように、ちゃんと部屋のネームプレートを確認してくださいね。』...ですかァァ。 確かに、呼び出されたのは桑田怜恩殿のようですな...」
「下に"舞園"って書いてあるべ...これって舞園っちが呼び出したっつーことになんべ?」
「ですが、桑田くんが自分で書いた物という可能性もありますわよ。」

セレスの言う事は一理ある。
なまえは彼女に同意を示し「ならさ、」と言葉を紡ぎ提案する。

「ほら、他の検証もする為に、現場に行ってみるのが一番だと思うんだけど…
私、朝彼女が部屋から出るところ見かけたし、たしか "舞園さんの部屋は霧切さんの隣"で食堂から結構近いから、すぐ終わるはずだよ」

なまえの言葉に不二咲と江ノ島が反応を示した。

「え?みょうじ〜、舞園の部屋ってたしか苗木の隣じゃなかったっけ?」
「う、うん、ボクもそうだった気が…」
「んー、じゃあそれも確認しようか」
「いえ、私もたまたま朝プレート見たとき確かに彼女のだったわ」

霧切の言葉にふたりはおっかしいなぁ。と首をかしげる。すると十神が鋭い目つきで睨みあげた。

「ならばとっとと調べに行けばいいだろう」

「ですが、そのぅ、彼らをただ放置…とーいうわけにもいかないのでは」

「そう…だな、なら俺は頭じゃ役に立たねぇから桑田を預かるわ」
「なら、舞園さんは…大神さんお願いしていいかしら」
「構わぬ。」

大和田と大神に預けるとこととなった二人は気まずい空気を醸し出すがなまえの言いつけた"絶対に切れるな"を忠実に守っていた。唯一後ろ髪を引かれるようにその場を離れる苗木の様子に彼を選ばなくて正解だったな、と軽く息を吐いた。