「あれ?ほんとに霧切の部屋の隣なんだね」
「え?あれぇ?」
江ノ島と不二咲はお互いに顔を見合った。
十神に急かされ両の手で鍵を開ける舞園をみながら着ていたカーディガンの袖を伸ばし口元に手を当てる。
「舞園さんと桑田くんは公平保つため室内に入らないでもらえるかしら」
「は、はい」
「おう」
霧切の言葉に頷く彼女はがたがたと青ざめて震えていた。
捜索するメンバーは私、不二咲さん、霧切さん、苗木、十神。入り口で待っているサクラちゃんに舞園さん、大和田に桑田。他のメンバーは頭を使うのが苦手だからと、大人数で部屋に入っても逆に、捜査し難いといって自主的に…いや、うん、自主的に(2名ほど有無言わさずに引きづられていった。誰とは言わないが)食堂に戻って行った。
「たしかに争いはここであったみたいだな」
「…そう、みたいだね」
苗木と十神は部屋を見渡してそう零した。
不二咲さんは口元に手を当て「ひどい…」と息を飲んだ。
私と霧切さんはさっそく捜査を開始した。それにならい各々が、思い当たる場所を調べ始めた。まず私が行ったのは、ベッド横にある机の引き出しを開けることだった。苗木の部屋だとわかっている私が言うのもなんだが、苗木もとっとと白状したらいいのに。なんて手を握り口元に当て考えこむ姿勢でそう思った。
すると十神から「おい、見てみろ」と注目を集めるための声がかかった。視線を彼に向ければシャワー室の前でしゃがみ込みドアノブを見てニヤリと笑っていた。
「この部屋は 舞園の部屋だと言うのに、シャワールームに鍵がついていないぞ。 これは一体、どういう事なんだろうな?」
包丁で傷つけられたシャワー室の扉のドアノブをガチャガチャ、と弄ってから振り返った十神はさらにこう続けた。
「みょうじ、おまえさっき引き出しの中見ただろ、何が入っていた?」
「….工具セットだったね」
「決まりだな。少なくともここは女子の部屋ではない」
チラリと見れば困惑した様子の苗木と目が合った。白状したらいいのに、と思った私が言うのもなんだが、何故か私には迷っている風には見えなかった。何か困惑した様子の彼に声をかけようとしたところで霧切さんが入り口の方へ歩き出した。
「持ち手の部分の金箔が剥がれていたわ。 舞園さん、桑田くん。 2人とも、手を見せてくれる?」
霧切さんにそう言われ、2人は腰の高さで手を開いて見せた。桑田の方はところどころキラキラと光の反射があり金箔が残っていた。反対に、舞園さんの掌"は"綺麗だった。これで桑田が模擬刀を手にしていた事も証明された。
「模擬刀を持っていたのが桑田だとすると、だ、包丁を手にしていたのは舞園の方という事になるな」
「ちょっ!ちょっと待ってよ!! だって舞園さんは...」
十神の言葉を遮ったのは案の定、舞園さんを庇っている苗木であった。不二咲さんは何かを言いたそうに私の後ろに立ち私をチラリと見上げていた。何か見つけた?と声をかけようとしたところで霧切さんが腕を組み苗木と十神を冷めた目で見て口を開いた。
「そこからは、私たちだけじゃなくみんなにも話して結論を出すべきだわ。食堂に戻りましょう」
霧切さんは一歩二歩と歩みを進めると髪をなびかせてもう一度振り返った。
「なにしてるの、早く行くわよ」
霧切さんは私を見てそう言った。美っ少女だなぁ。不二咲さんとともにぱたぱたと彼女を追う。他のメンバーは早々と食堂についていたようだ。私たちでラスト。入り口をくぐると早速霧切が口火を切った。
「じゃあ調べてきてわかったことから話すわね」
主に苗木と十神と霧切さんが残ったメンバーにひとつひとつ説明を行った。残った2人は頷き同意する。この点に関して他のみんなも特に疑問は上がらなかった。
話題が舞園の部屋から移る。するとセレスから疑問の声が上がる。
「それなら、その凶器に使われた包丁は現場にありました?」
「いや、凶器は応戦に使われた模造刀しかなかったな。」
「そういえば…」
その疑問の声に霧切に視線を投げかけた。わかっている。と態度で示された私は胸に手を当て安心しホッと息を吐いた。
「その包丁ならここにあるわ」
今まで霧切が腕から下げていたそれ…タオルに包まれビニール袋に入れられた包丁を緩慢な動作で取り出した。
「な!それをどうして霧切クンが!?」
「ドッヒャー!まさか、霧切響子殿…」
石丸と山田が大袈裟なリアクションをとり驚く。他のみんなも2人ほどではないがやはりそれなりに驚いていた。
そんな彼らに霧切はピシャリと言い切った。
「違うわ。これはみょうじさんから預かったの。第三者が持っていた方がいいと言ってね」
その言葉に視線が集まる。
それなりに覚悟していたが、訝しげにみられると乾いた笑いが音になって漏れた。
「みょうじちゃん…?どうしてみょうじちゃんが霧切ちゃんに…」
どうして関係のないみょうじなまえが包丁なんか?
朝日奈以外の面々も疑心暗鬼に私を凝視する。
「それはーーー、」
説明しようとそこまで言ったところで桑田は我慢出来ないとばかりに私の言葉を遮って言った。
「みょうじは!オレを止めようとしてくれたんだ!それなのにオレは、みょうじもオレを殺そうとしてんじゃねーかって怯えちまって、みょうじまで襲っちまって…」
しどろもどろ、そう桑田が説明しているうちに、皆の表情がまたも険しくなる。そこに霧切が話を一旦区切るように纏め上げる。
「とにかく、これで彼女は桑田君と共犯じゃない事はわかったでしょう?」
霧切の言葉に、腐川と山田がなおも食い下がった。
「いんや!世の中にはLOVEハプニングが有るのが常だ!」
「そ、そうよ!え、演技かもしれないじゃない... だって、舞園は苗木にベタベタしてたのよ?みょうじだって何かと苗木と近くにいたし…苗木を争って舞園を…」
「いいえ、それはないわ」
「えっ」
霧切がキリッと断言した。
あっれー?霧切さんが断言するの?いや、昨日も似たような話題確かにしたけど…さ、思わず顔が引きつった。え?ね、ねえ顔がマジだよ…?
「私が見ていた限り彼女につきまとっていたのは苗木くんの方よ。何より舞園さんは彼女を悪くなんて一言も言ってないのよ、共犯という線は極めて低いわ。ねえ、みょうじさん」
「うえ!?えっと、あの私、舞園さん嫌いじゃない、よ?あと、苗木くんを巡ってその、らぶ?ハプニング?も二人に言われてびっくりしたくらいだし…どっちかっていうと、今のところ苗木くんよりも舞園さんの方が好き、だし」
「えっ!?」
「まっさっかの百合展開キタァアアアアッ!」
百合じゃねーよ。思わず漏れた声に山田は「あ、はい、すみませんっした」と最敬礼した。そして山田と同時に驚いた声を上げた苗木に葉隠と大和田と朝日奈は同情めいた視線を苗木に送った。
「ちょ、いまはその話はいいだろ!?とにかく、今はその包丁についてもう少し掘り下げてみようよ!」
苗木の言葉にそれもそうだなと十神は頷いた。話が違う方向にそれてしまった。みんなの意識を包丁の話題に戻す。
「この包丁、さっき確認したんだけど、どうやら厨房から持ち出された物みたい」
「誰が持ち出したのか…つきとめる必要がありそうだな…」
江ノ島がそう言って厨房を指差し、十神はやはり流石というか何を突き止めるべきかにいち早く頭を巡らせた。
「あれ?そういえば…昨日なら私とさくらちゃん、あとはセレスちゃんも食堂にいたよ」
朝日奈が"動機"の提示後から夜時間前まで食堂におり、自分達以外には舞園しか食堂へ来ていない事を話す。証人が3人もいる為、言い逃れは出来ないだろう、と十神は結論付けた。
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零