そんな会話になまえはある点が気になった。へえ、セレスさんも食堂にいたんだ。首を傾げながらセレスに視線を向ける。するとセレスは私の視線に気づき隣に立ってこっそりと声を潜めた。ふふ、と綺麗に微笑まれる。

「そんなに私が食堂にいた理由が気になります?」

「え?や、うーん、実は…結構気になります」

「あなたの話をしていたんですのみょうじさん」

私の話題だと。思わず固まってセレスを見る。口元に手を当て上品に笑う彼女はしばらく間をおいてから「安心してください。」と表情を和らげた。

思わず固まっていたがそんな彼女に強張った筋肉が弛緩した。

「悪口や罵っていたわけではありませんわむしろ…」
「…そっか」
「ええ。」

なまえはへらりと笑えばセレスは満足そうに頷いた。やっばり似た者同士だ。と笑い合う。

そんな私たちを尻目に事件の真相の終わりが見え始めていた。


「なるほどね... これで包丁は舞園さんが持ち出した事が確定したわね」


「と言う事はつまりーーー…え?うそ、桑田の証言が正しかったってこと?」


「ちょっと待ってよ...!」


今まで口を閉ざしていた苗木が、ここにきて反論する。

「舞園さんが包丁を持ち出したからと言って、桑田クンを襲ったと決めつける事はないんじゃないかな... !護身用にしようと思ったのかもしれないし、第一、部屋の交換だって彼女が怯えていたからこそ行ったんだよ? そんな彼女が殺人なんて...」

「…そうですわね。たしかに苗木クンの言葉は一理あると思いますわ...舞園さんが包丁を、桑田くんが模擬刀を最初に持っていたからと言って、桑田くんに殺意がなかったとは言い切れませんわよ。 本当は模擬刀で先に襲い掛かったのかもしれませんもの」

セレスの言葉に葉隠が「そう!模擬刀の先制攻撃だべ!」などと言っていたが、今この場面では必要のない事だ。セレスや苗木の反論は確かにその可能性も捨てられないが、それについては証拠は現場に残されていた。


「先に攻撃したのは包丁の方だったはずだ。
模擬刀の鞘に刃物で斬りつけたような傷があったからな」

十神が葉隠の言葉を無視し断言する。

そう、ただでさえ重量のある模擬刀を鞘ごと使用したのは、鞘から刀身を抜く暇がなかったからだ。突然攻撃をしかけられたという結論で正しいはずだ。

「あ、あのぉ…」

そこで不二咲さんが小さく片手を上げた。
なまえはそこでようやく不二咲がここに来る前何か言いたそうにしていたことを思い出した。

なまえが問うまえに霧切が不二咲を促した。

「何かしら」

「あの、ボクもねぇ…捜索してる時、メモ帳を見つけて、それで鉛筆でこすって見たんだ」

「筆圧で何か残っていたの?」

「う、うんーー。あの、これなんだけど…」

鉛筆でこすられたそれは、桑田が所持していたメモと一字一句違わずにそこに存在した。

「桑田が持っていたメモと同じないようだな」

十神がフン、と鼻で笑う。そして「呼び出されたという根拠も揃ったな」と続けた。


なまえは舞園に近づき斜め前に立ち片手を差し出した。


「あの…?」

怯えた表情でなまえを見る舞園だが恐る恐るそのての意味を問うため切り出した。

「... 右手、見せてもらってもいい?」


舞園は肩を強張らせた。なまえの手にゆっくりと右手を重ねた。その手は見るからに痛々しく、赤や青が混ざり紫を含めた3色へと変色していた。その手を見つめなまえは呟くように声を発した

「折れてるね」
「え......」
「舞園さんさっきからずっと右手庇って不思議だったんだよ。…桑田くんが模擬刀を使って応戦して、包丁を奪う事に成功したって聞いたから、そうなんじゃないかなって」

痛々しく変色した部位を避け彼女の腕をそっと持ち上げる。

「痛かったね」

眉に皺を寄せ、眉を下げて、もう隠さなくていいんだよ、そう告げれば舞園はポタポタと涙を流した。

「痛い、です。」
「うん。」
「すごく、痛くて、私…どうしたらいいのかわからなくて、でも、言うわけにはいかなくて、ずっと、」

食堂に来た時から舞園は顔色が悪かった。多分襲われた演技ではなく、痛みから本当に顔色が悪かったのだろう。彼女の右手首は異様な程に腫れあがっていた。なまえは、「うん、手当するよ」そう彼女の頭を撫でた瞬間、舞園は今まで張り巡らしていた緊張が一気に解けたのかなまえにしがみついて声をあげて泣いた。

なまえが舞園を抱え背を撫でて居ると十神は眼鏡を触りながら「結論は出たな。舞園は桑田を呼び出し包丁で襲った。だが桑田は模造刀で応戦し、舞園の包丁を奪い返り討ちに。その後部屋を出た桑田はみょうじと出会い疑心暗鬼の末、和解した。と言ったところか。」つまらないな。と十神が苦々しく吐き出す。

「ねえ、桑田くん。ここでの、偽りは無しにしよう?」

「みょうじ…?」

「この閉鎖空間の中、みんな何を信じたらいいのかわからなくなっている。加害者・被害者に差はあれど自分の気持ちを吐露するべきだよ。お互いに。」

全員が沈黙した食堂のなか、淀みなく紡がれた言葉はよく響いた。なまえの腕の中にいる舞園はビクリと肩を揺らしカタカタと震えた。桑田は言葉に詰まったのか、顔をしかめて唇を噛んだ。

「俺は…たしかに舞園からの呼び出しに舞い上がって舞園の部屋に行った。プレートも書かれてあった様に確認して…。扉がしまった途端舞園は俺に包丁で襲ってきて…模造刀で応戦してなんとか包丁を舞園から取り上げてよ…」


「ここまでは、さっき聞いた話と一緒だね。」

「ああ、けど、俺は、そこから舞園に包丁を向けたんだ」


目線を足元に落としキック目を閉じ掌を握りしめ搾り出すように放った桑田の言葉は食堂に衝撃が走った。

「それ…どういうこと…?」

「ふん、お前らは現場を見てないからわからないだろうが扉には刃物で傷がつけられた跡が無数に残っていたんだよ、大方舞園がシャワールームに逃げ込んで追いかけたんだろう」

「え?でも、シャワールームって男子部屋なら鍵は…」

「それは…ただ、ボクの部屋のシャワールームの扉は立て付けが悪かったみたいで…」

「それを知っていたのは舞園さんと苗木くんだけだったのよね?」

「うん…」

「いくら包丁で斬りつけてもドアノブが壊せなかった俺は、一旦部屋に戻って自分の部屋から工具セットを…」


取りに戻った。桑田は掠れた声で自分の犯行を認めた。そして大和田が踏み止まった理由を尋ねた。

「じゃあオメェ、なんで舞園は生きてるんだ?」

コロス気だったんだろう?と言外に言われた桑田は大和田を視界に入れたあとなまえをジッと見つめた。


「みょうじが、俺を止めてくれたんだ」