1名の死者、江ノ島盾子。

体育館や自室を覗いてきた苗木が言うには、死体は消えていて、現場も跡形もなくリフォームされていた。
江ノ島はモノクマが本気だということを示すために、見せしめにおしおきされた。ふたりの殺人未遂、ひとりの死者で、均衡が崩れたように意見の対立が起きてしまった。
もちろん、大多数は脱出方法を模索しながら共同生活をするという、日和見な穏健派だが、十神は「これは椅子の一つしかないゲームだ」と腕を組み挑発し、ゲーム参加を宣言した。

セレスは、「適応できる者こそ生き残る。この学園の生活を楽しむべきですわ」というゲーム放棄派だ。

皆で推論していた黒幕像も大きく修正された。当初は、話題の連続殺人鬼「ジェノサイダー翔」なんかが推測に上っていたが、敵の規模は想像を遥かに超えて大きかった。希望ヶ峰を制圧、大規模な改造を施し主人公達の拉致監禁と膨大な生活必需品を供給、そして警察からの干渉を受けていない。

これはもう、極めて潤沢な資金を持った組織の犯行だとしか思えなかった。


というのが、生徒たちの考えだった。なまえは壁に持たれただただ意見に耳を傾けていた。十神の台詞に苦い顔をしたのは誰にも気づかれることはなかったが。

モノクマは、学級裁判が行われる度に学内の行動範囲が広がるよ!と言いに来た。

「江ノ島さんが亡くなった、それの発端は明らかな貴方の挑発じゃなくって?其れ相応に」
「やだなぁ霧切さん、彼女は校則違反を犯したんだよ?ダーカーラァ、ボクだって仕方なくね!」
「何が仕方なく、なんだろうね、女の子に掴みかかられて避けきれない熊なんでただのぬいぐるみじゃないか。」
「むっきー!ぬいぐるみじゃないっていってるだろー!」
「えぇ!?なんでオレに言うべか!」
「キミがそこにいるからだろ!」

もちろん言ったのはなまえなのだが、絶をしているため、普通の人には気づかれることはない。それはモノクマにも言える。

「あー、でも桑田クンや舞園サンの功績もあるしね、"頑張ったで賞"ってことでちょっとだけ解放してあげるよ!」


「「はあ!?」」

それだけ言って食堂からいなくなったモノクマ言葉通り調べて見ると(立ち去った後の空気はもちろん気まずいというか暗かった)、校舎2Fが解禁されたようだ。

校舎2Fには、体育館2Fにあたる室内プールと、図書室、幾つかの普通教室があった。
室内プール前に行くには、やっぱりというか、男女に別れた更衣室を通る。
更衣室に入るには、電子生徒手帳をカードリーダーに認証しないとドアが開かない。
当然のように女子は女子の、男子は男子の更衣室しか開けられず、認証した本人以外がドアを通ると処罰だと現れたモノクマが言う。

「にしてもガトリングガンとは…嫌に仰々しいね…」

更衣室前には、監視カメラと大ぶりなガトリングガンがある。覗きなんてもちろん不可能だ。


「でも、電子生徒手帳を借りたら開けられちゃうよね?」


という不二咲の一言から、【他人への電子生徒手帳の貸与は禁止】という校則が追加された。

更衣室を、グルリと見回す。
どうやら単なる着替え場でなく、機器の充実したトレーニングルームになっているようだ。さくらちゃんが喜びそうだなぁと頬が緩む。

奥のプールは、流石希望ヶ峰という感じである。広くてきれいで設備が整っている。超高校級のスイマーである朝日奈は、完全にテンションが上がっている。きゃーきゃーと誰かれ構わずプールへと誘うだろう。プロテインも倉庫にあったし、彼女の生活に足りないのは泳ぎのライバルだけだろう。

泳ぐのより水上歩行のが速いよなぁどうなのかなぁと手に顎のせしげしげとなまえは呑気に考えていた。

一緒に着ていた他のメンバー、化粧をしっかりと施しているセレスは「顔がお水で濡れるのは苦手」、隠し事のある不二咲は「水着になりたくないからぁ…」プールには消極的。


図書室も、充実した蔵書だった。
読書好きは結構いるメンバーだが、この図書室は今後十神が根城にするらしいと誰もが顔を見合わせて悟った。苦笑いし捜索を始める。
図書室内には、膨大な蔵書と壊れて動かないノートPCが一台、それと埃の積もった封筒が一つ。
封筒の中には、プリントが一枚。希望ヶ峰学園が、“深刻な問題”の発生によって、やむなく廃校となったことを報せる文書だった。
黒幕は廃校になった希望ヶ峰に入り込んで、こんな事をやっていたというわけだ。

まあ、廃校に追いやるはめとなったその深刻な問題っとやらや絶望的な事件は全く記憶に残っていないのが現実だった。


なまえはため息をついて考える

おかしいなぁ、ほんと対策くらいしてるはずなんだけど、その対策が全然思い浮かばない。空間モニターを立ち上げて見たときも思ったが私はどこに情報を残したんだろうか、不思議でならなかった。記憶を消された間にもしかして、また別の能力を作ったり…したり…した…?

なまえは一人、自分の思考回路に混乱していた。噛み合わない時はとことん噛み合わないのがなまえである。それに今は部屋に彼女がいる。まだ起きていないがこちらに引きこめるならば引き込んでおきたい。
絶望的に死を体験した彼女ならたぶん大丈夫だとなまえは根拠もなくひとり頷いた。