部屋に戻ったなまえは腕を組んで扉に背をつけもたれていた。

<<能力…>>
<<マスター?>>
<<なんか違和感があるっていうか…>>


新しく考えた能力は、いや、作った能力は、隠宅(リトリート)だ。意味はそのまま。隠れ家である。異空間を作り出して私の部屋を作り出そうと思う。私の念は想像だ。これについては問題ない。発動条件を考えたが、まあこれはルークを起動してることを大前提にしていいだろう。

「んー、と」

ぐるぐるぐる、と頭を回転させながらカーディガンから覗くルークを撫でる。

また制約も簡単に考えてあった。
詳しく練り直すのはまたルークと相談するにして、ひとつふたつと制約をあげていく。

1.このリトリートには発動者が出現させた扉からしか出入りができない
2.発動者の意識が存在しない場合扉は開くことはない
3.扉の出現時間は2分間
発動している場合はその他の念能力は使用不可となる

まあ、そんなに厳しい制約じゃなくても大丈夫だろうとなまえは頷く。

シャワールームに一度つなげてみようとルークを発動させて壁に手を付ける。

現れたドアを躊躇せず押し開ければ広がる光景に目を見開く。


「え…?」

こたつに、ソファーにベッド、ゲームに雑誌、冷蔵庫にコンロなど、目の前に広がった光景は予想打にしないほど充実しており、快適そうだ。

しかも、どれもこれもどこか見覚えのある物ばかり。

あたりをよく見回せば、さらに奥へと続く部屋があった。困惑する頭を置いていきがチャリとドアノブを押す。鍵はしまっていなかった。


その室内はベッドとデスク、そしてもうひとつ扉が存在していた。
近寄ってみれば白い封筒が黒いデスクに映えていることに気がつく。

「なにこれ」

その手紙を手に取り裏返してみる。
差出人を確認するための行為だったがそこに記名された名前に息を飲んだ。

[記憶を失った私へ]
[みょうじなまえ]

ハンター文字で書かれていたそれをよく見ると念文字が描かれており、扉を閉じてから2分経っているだろうと念を送りこむ。たしかにこれほど安全な封の閉じ方はない。ハラリと封が剥がれる。

「……あー、なーるほど」

中に書いてある手紙を読み、疲れきった溜息がもれる。

いやまさかその内容が、私があんなにも探していたものだったことに溜息しかなかった。

「これは嬉しいなぁ」

ふへへと笑ったなまえは心置き無く転移魔法を発動させる。
若干自分が犯罪者なんじゃないだろうかという考えがよぎったが頭を振ることでそれを流す。

とりあえず記憶を無くす前いろいろ考えた結果、どういうことかは甚だ謎であるが、記憶を無くしたって私なんだから無くす前に考えたことを察知しておんなじ能力を発動するだろう。と私=私の不可思議な方程式が無くす前の私にはあったようだ。


<<ルーク、これ知ってたでしょ>>
<<イエスマスター>>

即答する愛機に思わず拗ねたように口を尖らす。

<<教えてくれてもよかったんじゃない?>>
<<マスターなら気がつくと判断しました>>
<<………なんだろうその無駄な信頼感……>>

思わずぐったりしてしまうとルークは<<私のマスターですから>>とチカチカと点灯した。どうやら誇っているようだ。



「あ、みょうじ…?」

ちょうど区切りのついたあたり、彼女は目を覚ました。この部屋についてから彼女にかけていた幻覚は綺麗さっぱり解除したのだ。

「ここって…」

目を瞬ききょろきょろと辺りを見渡す彼女になまえはほくそ笑んだ。

「おはよ」
「え、ああ、おはよう…?」
「えっと、覚えてる、かな…」

なまえが促せば「は?」と素っ頓狂な声をあげ首を傾げる。しばし逡巡したのち自身の胸を抑える。そして両手を目前まで持ってきてマジマジと見やった。

「いったいなんの、はなししてるんだ?」
「本当に覚えてない?むくろちゃん?」
「だから、なんの…え…」

わけがわからないといった表情から一変、彼女は目を見開いた。

「ここには大好きな妹さんはいないから、心置き無く過ごしていいよ」
「何言って…みょうじ?」
「戦刃むくろ。超高校級の軍人。
江ノ島循子、超高校級のギャル、分析力。双子で、姉妹。



そして、ふたりで超高校級の "絶望"なんだよね」

独り言の様に話すなまえにむくろは完全な敵意を見せた。このあからさまな彼女は傭兵フェンリルに単身で臨んだと記憶していたが、なまえは目を細めるに留まった。

「ねぇ、むくろちゃん。あなたがここに来る前のことどこまで覚えてるの?」

「――――。」

敵意を向けたまま何も答えない彼女になまえは口元に手を当てこの言葉の二重の意味を改めて考える。まあ言わずもがな、希望ケ峰学園の2年間の記憶と………



「むくろちゃん、妹さんに殺されちゃったんだよ覚えてる?」
「………みょうじ……アンタ――」
「むくろちゃんが演じていた江ノ島さんはね、現実世界じゃもう存在していないの」

ねえ、どうしてか覚えてる?
そう問うたなまえにむくろは突如顔を絶望に歪ませた。

これが、2つ目。

なまえはへらりと笑った。

「私には理解できないんだけど、さ、絶望ってそんなに素敵なものなの?
 絶望を体験中の身としては全くもって魅力を感じないんだけど」

江ノ島さんと違い、彼女は無口なのだろう。敵意を感じさせながらも感情の入っていない目をこちらに向け先ほどのむき出しにした表情を無表情へと変化させていた。

「手に入れた幸せを、失って、それでも、もしかしたらなんて何度も期待して、挑戦して、幾度も絶望して、それでもやっぱり忘れられなくて………もしかしたら、幸せだった日々はすべて幻だったんじゃないか、って思っても、それを否定する‘存在’があって………ねえむくろちゃん、私はこの絶望に何の魅力も感じないんだけど。」

知ってる。知ってるよ。むくろちゃんが盲目的に家族を愛してること。私だって負けないくらい好きだもの。

あからさまに饒舌に話す私に彼女は内心戸惑っているのだろう。自分の病み加減にはたはた絶望しつつ、

「思い出した?」

といつもの笑みを見せる。

「循ちゃんに裏切られたことは覚えてるよ」

「思い出してもらえてなによりだけど、そんなに敵意を向けないで欲しいな。これでも命の恩人だよ」

命の恩人というとむくろちゃんから「どうやって…」と口が動いた。

「超高校級の"影"」

私の告げた呼称に、さらに、魔導士ですから。と内心胸を張ったなまえは江ノ島の格好をするむくろの様子をじっくりと観察する。十二分に可愛いと思える容姿をしており卑下することはないと思う。残念なお姉ちゃんと呼ばれる不器用な彼女は不器用なくらいに妹を愛してるってこと

「以前にもいたでしょう?超高校級の諜報員が」
「………!?一体どこまで…!」

目をこれでもかと開いた彼女になまえはへらりと笑った。名前は忘れてしまっているが、これは消されるよりも前、入学以前の記憶だ。



幻術を完全に効力がなくなったむくろはなまえが肩を竦めて苦笑いを見せたタイミングで間合いを詰めた。