容赦なく腹部に叩き込まれた拳にみょうじは前のめりになる。現れた首筋に手刀を落とす。地面に着く前に片手で襟首を掴み勢い良く持ち上げ壁に叩きつけ反対の手でギリギリと首を絞める。

「ぐっ…」

眉をしかめ掴んだ腕に弱弱しく手を置くみょうじ。

どうしてこうなったんだろう。
家族のために、循子ちゃんのためだけに生きてきた。循子ちゃんになら裏切られてもいいと思ってた。でも、みょうじさんはただ静かに笑いかけてくれて、循子ちゃん一色の私の世界の唯一の"青"だった。

循子ちゃんで染められた私が惹かれた"青"

「ごめんなさい、なまえちゃん」

青白く息苦しそうにする彼女に思わず小さく謝罪する。どんなにこの手を血に染めても循子ちゃんとなまえちゃんだけは手にかけたくなかった。どうして、どうして、彼女は知ってしまったんだろう。

彼女なら"超高校級の影"として姿を現さず、2年間同様、誰にも興味を示さないと思ったのに。そしてこの学園生活を乗り越えてくれるんだと思ってたのに。

もう彼女のあの、仕方ないなぁ、といった笑いは見れなくなる。循子ちゃんの不器用で残念なお姉ちゃんとして度々落ち込んでいた私。私と同じ様にみんなと1歩2歩離れたところでこの学園を見ていたなまえちゃん。

ふんわりと大丈夫だよ、と笑ってくれて何も話さず隣にいてくれる静かななまえちゃん。





「泣かないで、むくろちゃん」

眉をしかめたままよしよしと頭を撫でるなまえちゃんに思わずハッと意識を引き戻す。

どうして、どうして、なんで死なないの!?


むくろは泣きながらなんで死なないの。となまえに糾弾する。ぎりり、さらに強く握られ圧迫された気道。

「だめだよ、むくろちゃんの手が壊れちゃう」

頭を撫でていた腕を下ろし今度は喉元にある手を指一本ずつ丁寧に外していく。むくろの視線がスカートに向く。残念、拳銃の類は全て処分してあるよ。小さく彼女の耳元で囁けば詰めていた距離は広がる。

うーん、やっぱり超高校級なだけあって中忍みたいな身のこなしだなぁ。 今の私にそこまでの筋力はない。体を鍛えるのは忍の世界で兄さんに鍛えられたからだしなぁ。


「なまえちゃん、なんで、」

「?」

パクパクと口を開閉していたが言葉にならずに空中へと消えた。なまえは首を傾げつつもむくろの言葉を待った。

「…………どこで、知ったの」

思考が纏まったのか彼女の言葉は先ほどよりも鋭かった。言い終わった後唇を噛み締める。ああ、傷になっちゃうよと手を出そうとしたが「先に!質問に答えて!」と方を震わせて叫んだ。

「この学園に来る前からあなたたちの存在を知っていたから、かな」


知っていた。私はたしかに知っていたけど、この世界をずっと否定していた。
幾万通りの世界があって、胎児からやり直しとなった私は早々にこの世界の抜け方を考えはじめ、結果、巻き込まれることを受容した。そして手紙を読むまで忘れていたが、出来るだけ関わる人数を最小限にして、その数人を見殺しにして、自分の心を守ってきたのだ。
関わり合いに関してはただただ存在を薄くしたり、影分身をしたりすればいい、簡単なことだった。

けれど、家族や兄弟、数人の同級生なんかはやはり関わってしまって、愛着もできてしまった。

この学園の生徒になったときから、覚悟をしていたようだった。手紙に記されたそれは突如罪悪感としてなまえを襲う。

「むくろちゃん、これ以上手を汚したらダメだよ。むくろちゃんの心が、泣いてるよ」

「な、にいって・・・」

「痛いって、苦しいって。だってむくろちゃんは人の気持ちがわかるいい子だから」


ぽんぽん、と背中をさするように叩いてみれば大げさに震える身体

「むくろちゃん、戦いは趣味でもいいんだ、けど人殺しは虚しいだけだよ。元々はこんなにも…こんなにも争いのない世界なのに。むくろちゃんがものたりないなら、私やさくらちゃんが相手になるよ。真剣勝負、ね?」

「貴方の手はたくさんの人を傷つけたけど、反対にたくさんの人を救えるんだよ…
ねえ、むくろちゃん、まだ世界を壊滅させたい?」

それがあなたの夢?

「救う…?」

言外にそう言えば「意味がないの」と小さく彼女はつぶやく。そのつぶやきに、ああ彼女は妹を本当に愛しているんだ。と笑みをこぼす。

「あ、のさ…、このままあなたたちの計画を進めていくと……取り返しのつかないことになるよ」
「もう、遅いの」
「うん。そうかもしれないね」
「……っ…」
「でもそれだけ罪悪感たっぷりな顔されたら救ってあげたくなっちゃうんだよね」

泣きはらして唇を噛み締めていた彼女はなまえを見上げる。

「むくろちゃんの手で江ノ島ちゃんを助けてあげようね」


差し出した手に彼女の涙が落ちる。