「お前みたいな嬢ちゃんが大の男を殴り倒すなんてなぁー。世も末だなほんと。」

シオンさんがまじまじと私を見下ろした。居心地が悪い。今いる場所、それはシトラ親子が借りている宿の一室だった。ちょうど余ってるらしいので呼びにきてくれたらしい。
値段も一泊15000Jとファイトマネーで事足りるためお言葉に甘えてそのまま同行させてもらう…まではよかったのだが、シトラに掴まり部屋に連れられ、先ほどの戦いについての感想を長々とされた。もちろんシオンからも同様である。この格闘マニアめとは口が裂けても言えないのだが、そのおかげで精神的な疲労がすごい。生徒たちの話を聞くこともあったがなんだろう…自分に関する事だったからベクトルがこう…

「おふたりとも闘いが好きなんですねー」

顔を引きつらせた私は悪くはない…はず。なんだか本当に精神的に疲れた。さりげなく遠回しにお風呂に入って来ますと席を立つ。自室に戻り大きなため息を吐いた。

「つ、つかれた」

日本式じゃないためか、浴槽がないシャワー室であるがすっきりした。そのままベッドにダイブしルークに呼びかける。

「遅くなってごめんルーク、ここがどこだか、さっきの建物内の魔力とは違う力についてわかったよ。」

<<マスター?該当する項目が見当たらなかったのですがそれは本当に?>>

「信じたくはないけれど。」

目を伏せたままさらに続ける。

「ここはハンターの世界だ。」

掻い摘んでルークに説明すればそのまま沈黙を貫かれた。

言いたいことはわかる。

「ここはパラレルワールドだと思うんだ。私が存在するなんてあるはずがない。漫画?原作崩壊?そんな懸念があるなら私はまずここにいないはずだから。」

とりあえずパラレル説を話し、大体の今後の方針は決まった。しばらくお金と情報収集、文字の習得。それが終わればハンター試験に臨もう。第何期かなんてのは関係ない。とりあえず、身分を証明する何かが必要なのだ。

早く帰りたい…、どうなるんだ一体

あれからきっちりかっちり堅実に勝ち進んで、現在120階クラスなう。目の前の現実から目をそらしたい。200階クラスのカストロさんが目の前にいるのは何故ですか。そしてなぜ私は腕を掴まれているのだろうか。

「君と是非戦って見たくてね」

君の試合をたまたま見かけてね。と、にっこりと笑われたけれどもそんなののーせんきゅーである。ヒソカの腕を刈り取っちゃう腕前の人となんて人外認定してるんで、私の世界でもそんな知り合いいなかったよ。漫画やゲームならまだしもリアルなのは流石に無理です無理。

「だから早く200階クラスまで上がってきてね」

周りの女性がきゃー!と騒いだのがわかった。見た目変わらないだろうが私はサーッと青くなる顔を隠せなかった。

(魔法で)と、飛んだり(魔法で)吹っ飛ばしたり(魔法で)拘束したりじゃ、ダメですか…。

始終引きつった顔でカストロの相手をし、手を振り漸く立ち去った彼に安堵する。

「200階っていったら、あれがつかえなきゃ駄目じゃないか。」

つぶやいた声は誰にも拾われることなくカストロファンの悲鳴により掻き消えた。

カストロの登場でようやく念について思い出した私は、さてどうしたものかと個室で頭を悩ます。
師を探すのが一番だが、そのアテや伝手が今のところ存在しない。唯一の正攻法といえるのはハンター試験後の裏試験だが、それまでこの闘技場にいるかどうか、今のところわからない。よくよく思い返したら魔法が使えるのに管理局に念話や転送魔法が届かない世界である。これに関しては全くもっていただけない。子供たちはアルフやリンディさんがなんとかしてくれるにしても、だ、長期化して見捨てられたらどうしようか。困った。私は別に母親を放棄したわけじゃないのに。

とぼとぼと歩いて鏡の前に立ち大きくため息をつく。

「この成りじゃなぁ」

20代後半だった私は次元震の影響からか成長が巻き戻ってしまっていた。

魔力もそれに伴い低下したがそれは経験上、鍛えれば戻るだろう。だからそんなに気にしていない。

否定しようとしたところで
内容がずれてきていることに気がつく


「師匠についてだってば」

<<マスター。
"念"を起こす方法にふたつ種類が>>

「ゆっくり起こすか、無理矢理起こすか、だよね」

<<イエス。マスターゆっくり起こしてみては>>

「うーん、私も命危険に晒したくないんだけど、ハンターになって帰る方法見つけるって目的もあるわけで、、」

<<マスター、焦る気持ちはわかりますが>>

「念を覚えて念能力者を探し出すのが一番可能性があると思うんだ。ルークにも手伝ってもらうことになるんだけど…」

<<オフコース。協力します。>>

相棒の力強い返事にいつの間にか不安だった心に多少の余裕がもてた。

師匠見つけなきゃなぁ、魔力が変わりにならないだろうか。無理だろうなぁリンカーコアが魔力の源だし、念とはまた別物だ。

ただ不意を付くには魔力は念よりも使い勝手がいい。慣れているし。

"硬"と私の魔法やっぱり硬に負けるのかな。気落ちするも対抗できる念でも作れれば問題ないなと、前向きに考える。'できない'はやってから考えよう。私が教導していたときの教えだ。私が実行しなきゃどうする。

<<マスターの記憶の中でアテはないのですか?>>

「んーどこにいるかわからない人たちが多いからなぁ…その中で師匠ってなると…」

闘技場にいる念能力者はダメだ。悪意で念をぶつけられたら死んでしまう。となると、闘技場外。それでいて念能力を説ける者となると数は絞られる。

「ビスケやジン、ウイングさんかな」

<<マスターが最適だと思う方は?>>

「どれも師としては選べないよ。方針云々はまた別だろうけど。まあ、個人的にはビスケかな。年季が違うし。最高の師だと思うよ。」

「でもやっぱりどこにいるかわからないんだよね」

むしろ弟子をとっているかすら…ってビスケならわかるぞ?
GIでゴンたちを師事するじゃないか!まて、落ち着け?まだカストロが生きていることを私はさっき確認している。ということはだ、まだハンター試験は終わっていない。GIにいってもビスケには会えない。いや、まて。その前に会うじゃないかビスケの弟子のウイングに。それもまだ間に合う。
この間ヤツを見た。つまりまだ試験は始まっていない。そして今度彼は200階クラスでヤツと戦う。

バッと上着を羽織り天空闘技場を後にした。
大丈夫一日くらい試合しなくたってまだ100階以上である。それよりも申し込みハガキが先である。締め切りがいつかわからないから、そちらを最優先する。


ああ、飛行できないのがもどかしい。なんで人目を気にしないといけないんだ。今までは管理局や前線で好き勝手やっていた身としてはいろいろ考えなきゃいけないことが多くてパンクしそうだ。私は目の前の敵を倒すこと。フェイトは目の前の敵までも救おうとすること。本当によくできた妹である。まあ、境遇からいってわからないわけじゃないが。それを手助けした私やクロノくんもあの時は随分若かった。見た目年齢は今くらいであるが。

思わず虚しくなり苦笑する。余所事を考えて勢いよく走っていたためか、目の前に気がついたときには急に止まれずにどん、と人にぶつかる。軽い体は未だ違和感があり尻もちをつく。

「ご、ごめんなさい!」
「いんや、こっちもすまないな嬢ちゃん」

慌てて謝罪をし、ぶつかった相手を見上げた瞬間思わず絶句した。

モラウさーん!!