ここで出会うとは思ってもみなかった人物に手を差し出され引き起こされる。
「怪我はなかったか?」そういってポンポンと砂を払ってくれる彼に思わず詰め寄る。

「あの!」
「ンァ?」
「弟子にしてください!」
「…ハ?」

心底戸惑っている彼が視界に入るがここで押し負けたら二度とないチャンスを棒に振るとなりふり構ってられなかった。

「わたし!なまえ・ハラオウンです!私に念を教えてください!」

人生初かもしれない。人の目を(ただしサングラスしている)見て願いを乞うのは。その相手は私と私のセリフを振り返っているのかサングラスでわからないが、多分驚いているのだろう。

道中でこんなことやらかしていたからかなにやら怪しい関係だと周囲に訝しがられる。
や、さすがにそれはないですよ。と内心否定をし頭を下げたら腕を引っ張られファミレスに突っ込まれた。

席に着き大人しくじっと待っていたら何事もなかったかのようにメニューを見始める彼に、もう一度頼み込む。

「先ほどは、すみませんでした。
でも、あの、私本気です。
私の念の師匠になってもらえませんか」

「断る、いまは誰も弟子をとりたくねぇんだ」

始めから是と言われるなんて思ってもいないが流石にここまで言われると心が折れそうになる。


「あの、でも、あの、わたし、」

「断る。悪いな嬢ちゃん」

「お願いしますっ」

テーブルにつきそうになるほど頭を下げる。
もし私なら土下座して頼まれようが一瞥して去る自信があるが、なるほどここまで心に来るのか。今までの子達に悪いことをした。真摯に向き合えば向き合うほど心が折れる。なるほど、たしかに。と諦めるつもりはないが挫けそうになる。

「しつこい。見たところ普通の嬢ちゃんじゃねーか。なんでそこまでするんだ」

「あの、わたし、それなりに」

顔を上げ、戦えるんです。と続けようとしたが思わぬところから声がかかった。

「あの!なまえさんですよね!」

「え?あ、え?」

ファミレス店員のお姉さんが水を盆に持ちながら話しかけてくる。

「今日は試合じゃないんですか?私たちなまえさんのこと応援してるんですよ、がんばってくださいね」

私たちとは、店員のことだろうか。たしかに天空闘技場のお膝元であるこの街には試合が中継されているが、まさか、そこまで目立っているとは思っていなかった。やはりこの外見が目立つのだろうか。困惑して視線があっちに行ったりこっちに来たり忙しなく動く。しかし、応援してくれているなら答えないわけにはいかない。

「えっと、今日は用事があってそれで出かけてて、あの、ありがとうございます。明日からはちゃんと出ます。」

「はい、では注文決まり次第お呼びください」

にっこりと営業スマイルで微笑まれ、安堵する。客に話しかけていないで業務に戻りなさい。そんな思いが伝わったのかそれとも私の戸惑っている姿をあとでみんなで笑うためか、もうどっちでもいいや。そう思いモウロに再び向き合う。

モラウは煙草を噴かしながら視線を私に固定していた。思わぬところで援護が入ったのは吉と出るのか凶と出るのか。

「嬢ちゃん、オマエ…」

モラウが重たい口を開くように低くゆっくりと声を出した。先ほどのウエイトレスとの会話で私が闘技場の選手だということを理解したのだろう。

「………戦歴は?」

「先日、120階クラスに上がりましたが今日サボってしまったので明日は110階からです」

事実を述べることに戸惑いはない。

「ただ、あの、今朝カストロ選手から言われたことをきっかけに、えっと、念を習得しなければ、と思いまして」
「嬢ちゃん、嘘が苦手か?」
「え?」
「ククッ、正直に話してみな、内容次第では考えてやる」

なんだか、よくわからないが低く笑った彼は煙を吐き私を促した。どこまで話そうか。ふと考えを巡らす。

「たしかに、カストロ選手の話を聞いて念を習得しなきゃと思ったのは本心ではありません。どの道、必要となるのはわかってました。私は、ある方法を見つけなければならない。そのために念の習得は、必要不可欠なんです。」

そこまで言ってチラリとモラウを見る。
黙って聞いていてくれるのはわかっていたが、反応が気になってしまう。

案の定彼は私が様子を伺った一拍後鋭く言った。

「嘘をついていないのはわかった。が、嫌にボカすな?」
「…そう、ですね。」
「なるほど、ボカしている気はねえんだな。」
「!」

なんだ、彼は私の考えが読めているのか。いや、彼にそんな能力はなかったはずだ。思わず目を見開く。彼はニヤリと笑った。

「じゃあ、その内容はまた後で聞くとして、そうだな、夜7時から12時までだ。」

「!ありがとうございます、今日から開始ですか?」

「アァ?イヤ、今日は俺も仕事なんでな、明日からだ。明日仕事後闘技場のホールまで迎えに行ってやるぜ」

「はい、お願いします。」

再びしっかりと頭を下げた。それと、伝えなければならないことがあったことを忘れていた。

「あ、師匠、私次のハンター試験受けようと思ってるんですけど」

「は!?や、まあ、それも明日だ。お前の実力もわかんねぇしな。とりあえず先に飯食って俺はもう時間だ。」

「あ!お時間とらせてすみませんでした、明日から、お願いします。」

席を立つモラウと一緒に立とうとしたらお前はここで飯でも食ってけ。と3000J置いて行った。ポスン、と席に座りメニューを見始める。ああ、なんか緊張したせいかお腹空いたな。