丸い目をさらに丸く見開く主人公(カレ)になまえはエンカウント率の高さにげんなりした。
「なまえ、さん。その、もしかして…」
「そういうブッコミ求めてないから。」
「あ、うん」
苗木の動揺が感じられる言葉に霧切は良くやるわね、と小さく息を吐いた。ごめんごめんと笑う苗木に感じた違和感を追求することはせずになまえの脇腹を片腕で引き込む。重心移動の滑らかさ、体幹がしっかりとして、触れれば引き締まった体に彼女の"忍"という言葉に実感が湧いた。
そして、彼女はいま、ここにいる。
前世という言葉。
苗木の攻略なんかよりも霧切はずっと引っかかっていた。彼女がここにいる理由を霧切はずっと考えていた。そして、先ほど聞いた彼女の好意の対象が「この世界にはいない」というワード。ならば、"前の世界(前世)"では?
霧切はあのまま追求することをせず、想いを馳せるなまえを見ていただけである。もちろん霧切は追求したかったが、踏み込むなとなまえのオーラが一瞬だけ膨張した。
なまえにもなんの力をもたない彼女にひどいことをしている自覚はある。自覚はあるが、どうにかしようにもこれだけは自分の心を守る境界線の一つであるためほぼ無意識であった。
そんななまえを、霧切は誤解していた。
彼女の前世は忍者。彼女が恋い焦がれている人物は彼女の主君ではないのか。なまえが命を預けた相手、彼女の主人。
いつでも万全に手を回すなまえ。
しかし、彼女にある傲りに霧切は気づいていた。彼女のコミュニケーションが低いからじゃなく、その慢心からの油断なのだと。
この学園に関しても苗木に関してもおそらくは、彼女の予測は正しいのだろう。
正しいが、油断があるからその隙をついて苗木にも好かれ告白までされてしまっている。
「あなたなら言わせないなんてこと簡単だっただろうに。」
「えっ…?」
霧切が呟いた言葉になまえは首をかしげて反応する。
「あなたは大馬鹿ってことよ」
「酷い…」
がっくりと肩を落とすなまえに苗木が苦笑いを浮かべ目を細めた。
ああ、ほら。苗木も彼女の本性を、あなたも彼の本性を見抜けていないんでしょう?
精一杯フォローはするけれど。
その油断が黒幕に気がつかれないことを祈るわ。
霧切は未だ腕の中にいる、しどろもどろ何かを話しているなまえと、ニコニコと笑っている苗木に隠さず大袈裟に溜息を零した。
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零