「今日からあなたは私の生徒です」

では行きましょうヌフフ、と職員室の目の前で歩きながら笑う彼になまえは口元に笑みだけ浮かべ会釈を返した。

「わ、私、人見知りで…転校も初めてで新しいクラスで仲良くなれるでしょうか…」

そのまま立ち止まり手をゆるく握って胸元に手をあてる。いかにもこれからの学校生活がとても不安です。という空気をなまえは作った。もちろんこれは演技である。あるはずだが、なまえの場合嘘ではなかった。

(特別仲良くなろうとも思ってないけど、このクラス楽しそうなんだよね……中学なんて義務教育だけどこの世界でも元いた世界でも5割通ってなかったから勉強面でついてけるか不安だわー)

なまえがつらつらそんなことを考えていればヌルフフと頭上から笑い声が聞こえた。

「安心してください。生徒たちはみーんないいこたちです」

「そっか…、そうなんですね…早く溶け込めるように、が…頑張ります…」

「ハイ、頑張ってください」

先導していた彼がカタリと戸を開き教卓へ着く。

「にゅふふ、本日から転校生がきます」

入って来なさい。の呼び声になまえはこれから来るであろう視線の束を想像しゴクリと唾を飲んだ。一歩踏み込んだ教室内は騒然としていた。

「ええええ?!」
「今回はなんの知らせもなかったよ殺せんせー!?」
「イトナきたばっかじゃん!この時期に転校って…また殺し屋かよー」
「授業大丈夫かよ…」

ざわりと喧騒の中俯かせながら教卓の横に立つ。なまえの今の格好は椚ヶ丘中学の制服だ。綺麗な筋肉のついた体系を隠すために長めの…所謂萌え袖と呼ばれる薄手のカーディガンとタイツを着用している。
顔を朱色に染め汗ばむ手をスカートを握りしめて拭き緊張で口をつぐむ転校生にE組の生徒は目を丸くした。

普通の子だ。
え?殺し屋じゃなくて?
ガチで普通にE組の転校生?
ええ?ほんとうに?

「転校生のみょうじなまえさんです。彼女はどうやら人見知りさんの様ですので、柔らかく接してあげてください。ではみょうじさん、一言お願いします」

殺センセーに促され、なまえは乾いた唇を震わせ渇いたのどを震わせた。下を向いたまま唇を舐め湿らせ、ゴクリともう一度喉を潤した。クラスメイトの視線はなまえに集中していた。

「あっ……あの、…みょうじ、なまえです。よかったら、仲良く、してください…」

((普通だ。普通に人見知りだ。))

「はい、じゃあ出席をとって授業に入りましょう。」

殺センセーはにっこり笑い触手で彼女の席を示し着席を促した。
なまえは頷き後ろに位置する律の隣に着席する。

E組の生徒が恐々様子を見るべく授業中息を潜めていた。
一時間目 国語
二時間目 数学
三時間目 社会

(な、なあ…いつも通り、だよな)
(なんにも…起きないね…)
(ほんとに、一般人…なの、かな)

バタバタバタ!と音を立て誰かが近づいてきた。聞こえてきた声になまえはピクリと反応を示す。

「オイ人外貴様!転校生の話なんて聞いてないぞ!」
「烏間先生!?」
「おや、そうでしたか?私は理事長から直々に転校生のお話を聞いておりましたが」

(え?殺し屋なの?一般人なの?)
(てか理事長って!)
(余計わからなくなったんですけど!?!?)

殺しの舞台を貸してもらっている手前防衛省には学園長に強く言えない。烏間はギリッと奥歯を噛み締め苛立ちを隠さずなまえの前に立つ。

「授業中にすまないが、この教室で授業を受けるには防衛省との契約を記す必要がある。ついてきてくれるか。」

なまえは心拍数が上がるのを気にしながら、あらら。と眉をひそめる。そしてそんな素振りを見せず理解が追いついていないかのように首を小さく傾け消え入りそうな声でかすれ気味の声を発した。


「…うええ、と、防衛省……?…よくわからないけど…なにか書類が足りないってことで、いいんです、かね…」
「ああ、少し話がしたい」
「えっと、わ、わかりました。」

筆記用具だけで、いいのかな。そう呟き不安そうに立ち上がるなまえを見て烏間は眉をひそめた。

「みょうじさん、早めに戻って来てくださいね。」
「は、はい…」

殺センセーの言葉にびくり、と頷く彼女にE組の生徒は腑に落ちない何かを感じていた。

なまえは烏間の動向をちらりと伺う。
うわー。イケメンだー。もっと喋ってほしい、な。内心思うが口には出さない。しかし45分授業、初めての教室で3時間分も真面目に受けたからすごく肩が凝った。首バキバキ。
一、二時間目に何もしないでいたら大半の生徒は様子見かとこちらを向き、三時間目も大人しくしていたらほぼ全員の視線が集中した。え?殺し屋じゃないの?と視線が訴えた。しかも左右からの目は激しく突き刺さっていた。

そんなときに烏間の登場だ。

なまえは上層部の報連相の出来ていなささに歯噛みした。二度手間じゃないか。でも、そのおかげでこんな発見もできたわけだ。

職員室につくと烏間のデスクのとなり、空いた席に座るよう促された。

「授業中すまないな。手早く済ませたいとは思うが…みょうじさん、だったか?理事長から連絡を受けていないのは理由があるのか?」
えっ、や、あの…お構いなく…。なまえがそう言って手をパタパタと振る。

「えっと、普通にテスト受けて、ただ、合否もらった後にちょっとゴタゴタしてしまいまして、ならばENDのE組行きだー!て言われまして」

たぶん、そのせいだと。たはは。と笑いながら後ろめたいのか言葉を濁すなまえに烏間は何も言わない。その経緯を少しだけ省いているが、原因は本当だ。

「そうか。ならE組の今の状況から説明しよう。ただ説明してしまったら書類にサインは絶対に必要となる。それが出来なければ記憶を抹消する手術を受けて貰う必要がある。」

「…きおっ…!?な、なにやら、とても物騒な話ですね…」

なまえが驚きの表情を見せ始めたところで烏間は巻き込んですまないが…と前置きし話始めた。