烏間の話を聞き差し出された用紙にサインを施せば、彼はホッと息を吐きこれで以上だ。と退室を促した。というよりもその声で頼まれたらなまえは2つ返事で了承するだろう。

なんというかアッサリしている。

すると烏間はなまえの目をまっすぐに見る。

「キミは、殺し屋か?」
「こ…ろし?ーーいやまさか」

自分でもわからない。私は何なんだろうね。
魔導師?うんそうだね私の原点だ。
ハンター?やっていた時期もあるね。
忍? そうだね、一番伝えやすい。

ただ、その声の主にそんな風に思われたくなくて、首を横に振り、そのまま発展させる気もないので頭だけをさげゆったりと職員室を出る。



(これでいい。まずはなにも行動は起こさず無害な生徒を演じる。演じるっーというよりも8割素なのが楽よねー。気張らなくて済むんだもん。)

まあ最終的に死ななければ良いはずだし、いざとなれば地球外に来年の卒業の時期彼だけ宇宙へ転移させれば良い話なんだよなぁ。

ゲームスタート。

ただ私はか弱い子羊を演じればいい。
それを彼は、彼らは気づくか否か。


まあこの時期に転校するなんて確実に殺し屋だと予想はつくしなー…。ガラリと扉を開ければ朝と同様に集まる視線。気配も消さずに堂々と歩くことが久々で一般人の感覚を忘れている。
良い先生ではある。けれど彼は笑って人を殺すことのできる人だ。

なまえは依頼屋として殺しの仕事はほとんど受けなかった。殺したいほど憎んだことがなかったからかもしれない。たとえ木の葉の里で生の概念が変わったとしても、それでも今いるここは地球だ。軽くとらえていい命なんて存在しない。

(それがころせんせー、あなたでもだ。)

いざとなれば、1の命よりも1つの星を取る。それはもちろんだ。わたしがこの依頼を受けたのは、暗殺なんかじゃない。大袈裟に言えば地球を守るため。月のように地球を破壊されないため。でも、死神と呼ばれた彼、殺先生には生きて欲しい。これからも先生を続けて欲しい。

もし、彼の愛する人が死ななければ。そんなもしを考えなかったことはない。けれど月が破壊されたことでこの世界を知ったのだから。未練が残るが、起きてしまったのだから。そこからどう転がるかが、ミッションである。

集まる視線。席に着いてからもだれも話しかけには来なかった。

しかし一際集中してこちらを見てくる一人の生徒がいた。

「ねえ。」
「………」

軽い声かけになまえは一瞬で自分に話しかけられていることに気がついていたが、慣れない視線の山に口を噤んだ。

「ねえみょうじさん。暗殺のこと聞いたんでしょ?今の時期に転校なんてどう考えてもおかしいよねー?みょうじさんの目的ってなんなのかな?って思ってさー。センセーも知らないみたいだしー?」

赤羽業。天賦の才能。いや、煽りの天才か。なまえはふとそんな言葉がよぎる。カルマの言葉になまえは目が隠れる長さの前髪を流し一瞬だけへらりと笑った。

「ん?」
「えっと…いえ…」

なまえの笑みに目ざとく反応するカルマにおっと。と目を見張った。さすが暗殺クラスで優秀な子だ。ふむ、なんと応えよう。なまえは見えない目をいいことに目を閉じた。

「ちょっ…カルマ…」
「なに?みんなだって気になってるんだろ?この時期に…しかもE組に転校してきたなんて…関係者に決まってんじゃん」
「う、まあ…そうだけど…なんか、みょうじさんがその、殺し屋だなんてどうにもみえなくて…」

見かねて割って入った磯貝の言葉にカルマは、そして逆隣の寺坂、前方の狭間はジッとなまえを凝視する。
見られることに居心地の悪い気持ちになったなまえは僅かに赤くなった顔で口を開いたが、それは音にはならなかった。

「…………、」

「……いや、見えねぇな。見えねぇけど見えねぇから怪しい。」
「なんじゃそりゃ…」

寺坂の言葉にリオは笑い、なまえも手を膝に乗せたまま苦笑いを浮かべた。そっと目を開きなまえは開いた口からやっと声を発した。

「…ああああの、…か、烏間先生から詳しくお伺い、したんです…けど…」
「あー、ごめんね、そんなに緊張しないで!」

どもりにどもりまくるなまえを見かねて、のめり気味にいう茅野の台詞になまえは視線を落とす。

「てーか千葉くんみたいな前髪だねー?そんなんで前見えてる?
ああ、ごっめんねー?癪だけど俺も寺坂と同意見なんだよね。怪しくないから怪しい。これに尽きるんだ。その前髪もなんか見るからに怪しい暗い雰囲気をわざわざ作り出してるーって感じ。」

カルマのしたり顔になまえは中々言いたいことの言えないもどかしさを感じた。
やだなあ。単純な言葉を漠然と頭の片隅で考える。

本当のこと言っちゃう?少しだけなら、いい?この日のために伸ばしてきた前髪をさらりと横に流し手櫛で整える。

ゆらりと怯えを孕む目にカルマたちは目を瞬いた。

「……ん、とこれで、いいです、かね…」

「案外普通だね」

登校前に変化の術で作った特徴の残らない、二日寝れば忘れそうな顔、つまりみょうじなまえではないなまえの顔をさらりと見せぎこちなく笑う。なんとなく、そうしたほうがいいと。ごまかし通すべきだとなまえは考えた。

(変更すべきじゃない。頼る頼らないは別としてもまだ、彼らにはやってもらわなきゃいけないこともたくさんある。)

「ほーら、みなさん!早く授業始めますよ!」

困ったように笑うなまえを見かね殺センセーが声をかける。
「みょうじさん、暗殺の注意点ですが、授業の妨げさえしなければなんでも結構ですよ。」
「落ち着いてしっかり暗殺してください」

緑と黄色の縞模様に顔色が変化した彼の言葉になまえは舐められてるなぁ。と思いながらも気をつけます、と消え入るように返事を返した。



それからなまえは特に暗殺をするわけでもなくただただ平穏に授業を受け続けた。

数日後にはなまえにも友達というものが出来た。
みんなから渚・茅野と呼ばれる2人だった。そしてなまえは片岡恵、メグに懐いていた。

「みょうじさんは全然暗殺に参加しないね。100億円欲しくないの?」
「えええっと、いらないとかほしくないわけじゃないけど…なんていうか、げ、現実味っていうか実感がわかなくって…あー…そもそも拳銃も水鉄砲みたいなオモチャすら持ったことなくって…授業で教わったこと以外は怖くって試せてない、です…」

へえ、とつぶやく渚になまえは心の中でメモったなと彼の習慣になっているであろう記録にヘラりと口角を上げるだけにとどめた。

ドジで間抜けで口下手にキャラを作った人見知り。素顔で会うことはない彼らに少し残念におもう。

輝いてる、なぁ…。

そんな彼らを眩しく思える。
はじめはこの人見知りキャラでクラスのみんなから虐められると考えてた。が、彼らには目標があるのだ。先生を殺すという、大きな大きな目標が。

本当にいい先生だなぁ。過去の自分を振り返りそんな彼が少しだけ羨ましかった。