にゅふふ、笑いを堪えきれない担任が触手をうねらしながら生徒に合わせてゆっくりと歩みを進めていく。

「あの企んでそうな顔がハラタツ」
「みょうじさんも中々いうんだね」
「……えっと…あー、神崎さん…だってそもそも山にプールって蚊に刺されそう…その中で楽しむのは難しいよ…」
「虫除けスプレーも落ちちゃうしね」

素のなまえのほぼ偽りのない解答だった。そもそもアクティブなことはあまりしたくない。その後は神崎はこっそりとオススメのサバゲーをなまえに教えた。

「…!そうなんだ!やってみるよ!」
「キャラクター作成したらアカウント教えて、フレンド申請するよ」
「オ、オンラインゲームでオフの友達初めて嬉しい神崎さん!」
「ううん、私も友達とゲームやるの憧れてたから」


きゃーっと盛り上がる二人に杉野が遠目から見ていた。

「うあー神崎さん可愛い、スッゲー楽しそう!」
「杉野は…相変わらずだよね…」


木をガンガンと殴りつけ頭をぶつけエルボーを決める杉野に渚はドン引きを隠さず突っ込む。見ていて痛々しい。これからプールなのだが。と渚は心配するがまあ杉野だし…と視線を逸らした。

「あ、中村さん」
「おー、渚。センセーの作ったプール凄いなー。ウルサイけど。」
「う、うん。小姑の様にウルサイけど」
「………おとこなんだな」
「男だよ!?!」
「いや、悪かったわー。」
「そんなガッカリしながら言われても!」

リオの台詞に渚は突っ込む。
そんなところになまえは通りかかるが、自分から話しかけることはせず、水面に足だけつけプールの淵に座った。

「にゅふふ、みょうじは結局水着は着ないんですね」
「体型がくっきりとでるのは好きじゃないんです」
「そうなんですかみょうじさんはもっと筋力をつけたほうがいいのかもしれませんねぇ」
「筋力ですか…」
「ハイ。このクラスの子達とは多少なり差が出てしまう形となってますが、みょうじさんほど真面目に烏間先生に教えを請う生徒ならばきっとすぐに追いつけますよ」

彼の言葉になまえは開いていた目を閉じる。
眼球を瞼の下でぐるりと回し披露した目をほぐす。

「努力すること…無駄じゃないって分かってるんですけど、した結果が伴わなかったら意味がないじゃないですか。」
「努力をした、その分の経験は積まれますよ」
「そっか、なんかつまんないね」
「そうですか?自分だけの狭い視野に阻まれているのかもしれませんねぇ他人の気持ちになって、寄り添って、視野を広げるのも悪くないですよ。人生これからです」


なまえはつまらなさそうに彼の話を聞いた。
他人の気持ち、寄り添い、視野を広げるどれも嫌いな言葉だった。もともとなまえは悪い意味でも、いい意味でも優秀だった。一人であらかたなんでもこなしてしまう。しかし自己嫌悪に陥ると復帰するまでに時間がかかる。時間的余裕がないと更に負の連鎖がおこる。見知らぬ他人なんかでは、上官の地位を利用してその欠点を補っていた。その反面心を開いた者たちとは意思疎通無しで連携も取れる。それは彼らがなまえの気持ちを汲んでいたからだと理解はしているが、それをなまえは自分の方が物理的に強いから当然のことだと考えていた。

今回のこともただ、そう…ただの気まぐれだった。初めはもっと計画的に進める予定だった。他のクラスに転入し、悪い点をとり転級する。それが誰にも疑われない最善だっただろう。
「そういえばまだみょうじさんがここに来た理由を聞いていませんでしたね」
「……あー…転入試験合否をもらった翌日、保護者に言われて学校見学にいったんです。」
「ほう?」
「…何やらその日は球技大会でした。」
「ああ、あの日は楽しかったですねぇ」
「野球部とE組の試合もみました。めちゃくちゃでしたね」

そうでしょうそうでしょうと頷く担任になまえはゆっくりと顔を上げた。気まぐれが現れたその理由、それは…

「もともと受験前からENDと呼ばれるクラスのことは聞いてました。だけど、球技大会を見て、ただ凄いと思ったんです。策略と策略のぶつかり合い、それを制したE組を見て転校するならこのクラスの生徒になりたいと純粋に思ったんです。このクラスならきっと楽しいだろうって、この学園の中で一番綺麗な笑顔だったから」

殺せんせーを見ながらヘラリと笑えば彼も優しく微笑んでくれた。そこでふと場が静かなのに気がつく。せっかくの涼める時間なのに。どうしたんだ?
っと体を前に向け様子を伺うとクラス全員がこちらを凝視していた。

「みょうじー!お前ってヤツァ!」
「えっ、えっ」
「そういうのはもっと早くいってよおおお!」
「や、矢田さん…っ」
「あのときは確かに爽快だった!」
「リオ、ちゃん…」
「しっかしあのハチャメチャな試合見てたとはね」
「あ、磯貝くん…赤羽くんもだけど…あの、最後すごかったよね、バット避けちゃうんだもん…」

びっくりしちゃったけど、このクラスなら納得だよ。と控えめに笑うなまえに磯貝は頬をかく。純粋に褒められることなんて殺せんせーや兄弟からくらいだと、目を細めた。

「木村くんも足早いし、渚くんも杉野くんの変化球綺麗にキャッチしてたし、あとから杉野くん以外未経験って聞いてビックリしたんだよー」

「スッゲーちゃんと見ててくれたんだな。」
「女子バスケは見てくれなかったの?」
「ご、ごめん、っていうより体育館でやってること知らなくて…帰り際に目に付いたのが野球場だったのー」

焦々と早口で話すなまえにクラスメイトは笑う。もうそこになまえを疑う生徒は居なかった。いや、カルマの目は未だ鋭さを持ったままで、寺坂はその場を離れてしまったのでまた布石をうたねばと舌打った。リオと杉野に絡まれたなまえは手で宙をかきバッシャーんと音を立て水へとダイブした。


「にゅおおおおお!?」
「わー?!大丈夫!?みょうじさん!」
「……………あの、」
「ごめん!」

「いや、あの…」
体育着で、水の滴るなまえに杉野とリオに手を合わせて謝った。速水に手を引かれ立ち上がったなまえは、その彼らを無視しなまえは殺せんせーを指差す。

「えっといま、にゅおおおおって」
「…………もしかして!殺せんせー水が苦手?!」
「ににににがてな訳ないですよ、ちょっと触手が水分を吸っちゃって重たくなっちゃうだけです。絞れば元通りですよ!ほら!」

いいこと聞いたと盛り上がるE組になまえはハハッと声を上げて笑った。