※過去話注意


<<キミはいつも抱えなくていいモノまで抱え込んで…いつか自滅してしまわないか心配でならないよ。>>

ふと、昔の記憶がよぎる。あれは進路に悩む今と同じ中学3年生だった頃、ヘマをした私に彼が言った言葉だ。すでに倒れていることを抜きにし心底心配した様子の彼はとても珍しかった。


「たくさん抱えてるのはクロノくんもじゃないか。なのはだってフェイトだって…はやてだって。みんな抱えてるよ」

私、実は凄く抱え込んで精一杯頑張ってるんです。そんな台詞口が裂けても言えないし、そもそも思ってもいない。自分が大事だから。自分の中の都合や快楽だけで物事を選んできた。その為に取捨選択だってしてきた。私は自分にドロドロに甘くて弱いから。そもそも抱えているという概念がない。

「人と比べるのはよくない。なまえにはなまえのペースでこなせる量があるだろう。」

クロノの言葉になにを言っているんだろう。靄がかる頭の中で、はて?と首を傾げる。表に出すとさらに叱言を貰うため心の奥底で

比べてる?私の努力と他人の努力を?ただ無理のない範囲で自分にできることを一つ一つ熟しているだけだ。
それに比較対象はあることに越したことはない。比べるかは別として、力を伸ばすためには均衡した力と、私よりも強い人、弱い人全てが自分の学びとなることは私を作る一部として知っているから。

今の熟せる量がキャパオーバーと彼はいう。自覚がないことは非であると思う。意識改善には自覚がまず初めの一歩。

だけど、それでも。

「でもそれで諦めるのは、ただでさえ弱い自分に負けた気がするんだよ…」

自分の中で落とし所を見つけられず、腹部にかかっている白い掛け布団を見つめる。

「だが、その結果がコレだろう?」

彼の言う結果とは、今のこの入院だろう。私とて病気や怪我での入院すら初めてで、今回のことは少なからず動揺し、嘆いて痛くなる胃や情けなさからの動悸で意味もなく1人で叫びたくなるほどには参っていた。

「…………。誰だって骨折くらいあるよ…」
麻酔が効いていても痛くて叫ぶことはできない。頭を抱え嘆き、情けなさに呻き、不甲斐なさに涙した。

けれど不思議と後悔はしていない。

もちろん自分が大事だけれど、痛いのは嫌だし、それでも、そんな私でも譲れないものがある。

漫画やゲームによくいる主人公は一度仲間だと思えば騙されたと分かった後も信じ抜く。そんなことができればたしかにそれは理想だが、簡単にできるはずがない。

私だって信じたいと思う。疑いたくない。何より私は自分に自信がないのだ。なら、初めから心を閉ざせばいい。だから、お願い。これ以上踏み込んでこないで。

「それがこの入院だとしても?」
「うーん…あはは、怪我人に厳しいねえ…」
「……君のその緩いところ、治らないのか?」
「っと、いや!あの、」
「ボクが、ボクらがなにも思うところがないとでも思っているのか?」

私がなにも言えずに眉を下げる。
彼が心配してくれているのは伝わってくる。
好きな人に心配されるのは凄く嬉しい。怒られたら悲しい。心配されるのも怒っているのもそれだけ彼の中に自分という存在を主張できているとわかるから、どの道喜ばしいことなのだが。流石に無いが、仇のように敵意や怒り、また侮蔑は心を奥底からバッキバキに折れるので激しく遠慮したい。

結局、単純な私はのらりくらりと交わすように自分が傷つかないように癖のようにへらりと笑うことしかできなかった。

「君が重傷だったと効いて、血の気が引いた。」
「自分…自分でもあの時の心理は曖昧だけど…きっと慢心からの油断、です…。シャマル先生が治療してくれたし、臓器も傷ついてないから大丈夫。
…艦長になれたばかりなのに呼び戻す形になってごめんなさい…….。」
「しかも、怪我をしたまま容疑者を捕獲するなんて…」

シールドを破り、バリアジャケットの上からの強打し、無理を押して捕縛したなまえはその後、肋骨が折れ数日前まで会話も困難だった。調書は他の人に頼めて助かったが、そんなこと言えるはずもなく、自分でも肺に傷がつかなかったことが驚いてならない。シャマルはほんわかとした様子を一変し険しい顔でなまえを怒ったが悪いという素振りを見せないなまえに反省を促すため魔法での完治を途中から自己治癒に切り替えたのだ。その為未だベッド生活である、

そんな私の元に彼は見舞に来てくれた。

「君が無事で、生きていてくれて本当に良かった」

その言葉に目の奥が熱くなり鼻がツンっとする。ほろほろと流れでる涙に、周りの心配というのが心に響いた気がした。

「もう、無謀な事しないように、する。」
「………そうしろ。っといってもなまえはそつなく色々できてしまうから、無理を無理と気がついていないんだろうけど…」

申し訳ない。思わず唸れば、ほら、といって差し出された手を掴めばギュウと握られる。

「でも、そんなキミも嫌いじゃないから困る」
「……うぇ…?」
「後ろ向きのように見えて実は真っ直ぐ前を向いて誰よりも他人思いな君だから…」
「……え、…」
「なまえだから僕は後ろを任せられるんだ。」

これでも君のことを一番信頼しているんだからな。念を押すように握られた手に力を込められなまえははにかんだ。

「クロノくんの隣も後ろも誰にも譲らないよ」




だから私は彼の信頼に応えるんだ。木の下でしゃがみこみ顔を埋めたなまえは硬く閉じていた眼を開き息を吐いた。

「……信頼、信用どれも重たい言葉だなぁ…」

期待を裏切りたくない、だから期待をしてほしくない。色々諦めたくないものを諦めた私だけど、自分の秩序を守るためのプライドだけは今も変わらず根付いているから。自分からこのクラスに入ったクセして、期待を掛けられること、信頼されることが、彼らにかける言葉が出てこないことが辛い。
そのことを、彼らに知られることすら怖かったみたいだ。いまこの時、信頼できるものはルークとウルしかない私に大切にできるものが出来てしまうと、守れなくなる。失敗する気なんてさらさらないけど、自分に自信がないのも事実だから。

あーもう、家に帰りたい

何もかもを投げ捨てて家族の元へ帰りたい。
頑張ったとクロノに頭を撫でてもらいたい。

「……君は頑張っていると思う」

響いた声になまえは膝に押し当てていた顔を勢いよく上げ背筋を伸ばす。

「途中からE組に来たのだから周りからの差で焦る気持ちもあるだろう。けれど、君の努力は俺が知っている。」

撫でられる頭に耐えていた涙がこぼれる。
放たれる言葉は見当違いだが、その声その仕草は何よりもいま求めていたものそのものだった。

「キミに暗い顔は似合わない、のんきに笑っていろ」
「ふ、先生らしくないですよ…。けど、ありがとうございます…おかげでもうちょっとだけ頑張れそうです」

おとなしく撫でられていたなまえは溢れた涙を拭いいつも通りへらりと笑った。

目を瞬いた烏間におっと。と自分の失敗を悟る。

ここでの自分は根暗なコミュ障なゲーオタ好き。だったね。