白雪は柱にもたれながらどう敵を判断しようか考えていた。

確信か…、私もどうやってその人だって見極めよう。


ゼン王子とともに柱の陰に隠れ様子を伺う。カツ、カツと歩みを進める男性の気配を感じなまえは息を潜める。

「何をしている…宮仕えのものか?」

白雪は目を見開きすぐに愛想笑いに切り替える。

「あ、いいえ……」
見極め見極めと白雪が口角だけを上げて笑う。ゼンが肩をピクリと震わした。
「私は……」

白雪は一度答えようと口を開くがそこで止まりジッとハルカ侯爵の目を見つめて何か得ようととする白雪にあからさま過ぎるよ…と苦笑した。

「………なんだ…?……どうやって城内に入った…?」

鋭い眼光を隠さず白雪に視線を向ける男に白雪も確信したようだ。素直に詩人の門から入場したことを言い、これからその予定の人と会うのだ、同行するか?と尋ねれば、男の顔がピクリと痙攣した。

「なに…?」
「こっちです」
スタスタと男の横を通り過ぎようと白雪が歩めば
男は低い声で「まて」と制止をかける。抜けようとした白雪を追い越しさらりと抜き上げた剣に白雪は冷や汗をかく。

「侵入者を見つけた以上この場より奥に行かせられん。即刻立ち去って貰おうか。」

こっそりと様子を伺っていたゼン王子が目を開いてその場を飛び出そうと一歩踏み出した。なまえは黙って見てろ。と片腕で制止口元に人差し指を当てる。パクパクと動く口に目線だけ白雪に向ければ意を汲んだようにゼンも白雪へと目を向ける。

「外部の人間を城に招くなど権力なくして出来ぬこと。それほどの方に招かれるような身分が君にあるように見えんのでね」

確信があって言っているその台詞に出されていたおふれ"白雪の入場の許しは2度とないものにする"を出した人物を白雪とゼンはイコールで繋げる。

「…じゃあ…あなたの言うように、私がここにいてはいけないなら、その剣で切り払って止めればいい」
「…!!」

<<やはり彼女は素晴らしい>>
ルークからの言葉になまえは一瞬ビクリと肩を震わせ、兵に扮したままハラハラとした様子を隠さず状況を見守る。足に力を入れ、もし傷をつけようものなら彼女を連れ去ってしまおう。もっと、もっと命を大切にしてよ…。壁を握る手に力を込めかけていけないいけないと我に帰る。

一歩、一歩と進む彼女の目は男の目から逸らさずまっすぐであった。

「……っおい、退け娘!斬るぞ!」
「お好きに」

怯えのない白雪の強い目に男は観念しカチャリと鞘にその刃を収めた。白雪はすれ違いざまに声をかける。

「ゼン王子の名を騙った伝令に心当たりが?」

その突如パチパチと場違いな手をあわせる音が鳴り響いた。

「お見事」

城の窓辺に寄りかかり息を切らした不審者に白雪は目を瞬く。

「こりゃ矢を射たくらいじゃ引かないはずだ」
「だ、誰…」
「はははは大丈夫何にもしないよ。見つかって身動き取れないからね」

下に殿下の側近が睨みを利かせているのを確認してから、観念して朗らかに笑う不審者はそのまま言葉を紡いでいく。

「逃げられそうもないから教えてあげるよ赤髪のお嬢さん。あの伝令も矢文で脅したのもその人じゃなくて俺の仕業だ」
「え…」
「くだらんことを言うな。殿下のためを思い私一人がやったのだ。お前のような下賊の者に手を借りてなどいない。今更言い逃れなどせん」

その言葉に下賊と呼ばれた男が呆れたように頭を押さえる。

「頭の固いお方だ。」
「同感だな」

そこになまえの腕に抑えられていたゼンがスッとなまえの腕を引き下ろし柱の陰から姿を現した。

「あっ」
「殿下…!」
「俺のため、とそういったかハルカ侯?」
「申し上げたとおりです。」
「手段を間違えたな。成り行き次第で城中の騒ぎになるところだぞ」
「…はっ」

険しい顔をしたハルカ侯爵を嗜めるゼンに白雪は驚き駆け寄る、

「ゼン、ずっと聞いてた…?」
「侯爵を見つけたらお前と話し出したからな。出て行きそうになるのを全力で抑えたんだぞ。盗み聞きくらい許せ」
「み、見事な返答だね…」

なまえはその様子にクスクスと笑っていたが、ゼンは抑えていたのは俺じゃあないけどと過ぎったが、ハルカ侯爵の殿下を呼び捨てにするとは何事だ!と白雪を睨み上げたため意識外へと消えていった。

「あのなハルカ侯…俺は な、権威や地位を何よりも重んじるものが周りにいるのも悪くないと思ってる多様な考えがあるのを知るがいい。」

穏やかに語っていたゼンだったが、サワリとゼンの雰囲気に合わせて空気中のソレも緊張感に包まれる。

「ハルカ侯。貴侯に取って爵位は重要か…?」
「はい。」
「ならばせいぜい大事にされよ。2度目はない」
「はっ…!」

その様子を陰で見ていたなまえはハルカ侯が去るのをジッと待っていた。立ち去ったあとゼンはそしてお前!とハルカ侯に下賊と呼ばれていた男に鋭く目を向けた。しかしその男はにこやかに「一件落着ですね!主!」と笑顔を向けた。「誰が主だ!」怒鳴るゼンを横目に白雪があれ?と視線を彷徨わせる。

この衛兵さんがつけている腕輪……

「なまえ…?」
「……バレちゃった?」

変化を解きこっそりと顔を見せればにへら、と笑って誤魔化そうとするなまえに木々たちへ不審者を投げ落としたゼンがこちらに近づいてくる。なまえはしっかりとそれを捉えていたが白雪は驚いたように声を上げる。

「なんでクラリネスに…?!」
「だ、ダメだったかな…」
「ダメじゃないけど…一人で来たの?」
「白雪と白雪の常連さんしか知ってる人いないから…」

しおらしく眉を寄せるなまえに白雪は悲しそうに目を伏せる。

「ごめんね、いくら時間がなかったからって未成年のなまえを置いていっちゃって…」

彼女の言葉にとんでもない!と相談くらいはしてほしかったけど、時間がなかったからそんなこと言えないのもわかってるし。白雪の裾を掴み首をゆっくりとふる。

「それは…ううん、それは大丈夫だよ白雪。経緯は手紙に書いてあったし、私もあの馬鹿王子に白雪を愛妾になんて城を放火してもしたりないから!
ねえ、白雪、やっと会えたんだ、私白雪のそばにいていいかな、えっと、白雪が彼の元で頑張りたいのも充分理解してるし、あの、邪魔にならないから、側に居させてほしいの役に立ちたいんだ」

なまえは子供の特権をフルに活用する勢いで白雪に頼み込んだ。もちろんと頷く白雪にありがとう!と正面から抱きつき耳元で囁く。

「彼がヤキモチ焼いてるから、白雪の考えていることを伝えてあげて」
「えっ…!?」
「ほら。」

なまえが白雪を押し出しゼンの元へ歩み寄る。彼女は?と首をかしげるゼンに私の家族です。とだけ答えてゼンから空へと目を向けた。

「ゼン、」
「…ん?」
「いつか私自分で門を潜れるようになって、ゼンの味方になりにくる。」

白雪の言葉にゼンが破顔する。

「心強いな」

「俺も待つ、この街で」

力になりたいと願う
それは自分の背中を押して
前へと進む 道標となる