「なまえ行ってくるね」
「白雪!もーついてくよ!」

玄関口で叫ぶ白雪になまえはパタパタと音を立て慌ただしく自分の準備を整える。

「試験は一緒にできないよ?今回は城に入れるかもわからないし…」
「いいよいいよ、ちゃんとお話したでしょ?トラブル体質の白雪の護衛だって。これからはちゃんと白雪を守るから、えっと、ほら影の護衛ってやつ。並大抵の人には負けないしちゃんと殿下の許可も今日くらいにとるから、お願いします!」

白雪にはこの間私のことを少しだけ話した。少しだけ腕が立つこと、素手で殴りつけ砕け散った岩や、ジャンプ力を見せたらポカン、と惚けていた白雪はなかなか面白かった。いやまあ人外な感じは理解していたが、白雪は「すっごいね」と惚けたまま言葉にした。なぜ黙っていたかとかどうしてそんな力があるのか問うことをしない白雪にまた救われた。


「最近のなまえはほんと甘えただねぇ…」
「白雪に置いて行かれてほんと寂しかったんだよ、助けようとしてもなんだか白雪の幸せ邪魔しそうで全然タイミングつかめなかったし…」

年齢詐称にこの態度本当に自分が自分じゃないようで我に帰るとすごく恥ずかしいが、置いて行かれるのがとても恐怖だからここは見逃してほしい。白雪白雪と雛鳥のように後を追うなまえに白雪も久々に会えた親友の好きなようにさせようとのんびりと構えていた。帰ったら一人という酷いこともしてしまったわけだし。

詩人の門にたどり着くと木々が白雪の名を呼び止めた。

「あ、木々さん!」
「久しぶり、調子はどう…?」
「あ、はは、それなりに緊張してます…」

あっ!!と声を上げた白雪に木々は首をかしげる。白雪が申し訳なさそうになまえを差し出した。

「あの、木々さん。私の家族のなまえなんですが、試験の間面倒を見てもらうことはできませんでしょうか…?おとなしい子なのでご迷惑はかけないと思うんですが…」
「………」
「ダメでしょうか」
「ゼンに聞いてみよう」
「ありがとうございます!」

家族、その言葉に思わず感動する。精神まですっかり子供である。木々に連れられゼンの元へ案内される白雪となまえ。白雪は試験の緊張からなまえの手を握りしめた。

「白雪なら大丈夫だよ。」
「なまえ…」
「ダメならダメで私と旅に出ようね」
「なまえー……」

なまえがへらりと笑い木々が苦笑いを浮かべた。すると白雪の表情が明るくなり、ゼン!と声を上げる。宮廷薬剤師受験召集を掲示板で確認していたゼンは驚き、白雪!?と声を上げた。

「どうした、これから試験だろ?」

屋外にいる白雪たちに向かってひらりと降りてきたゼンとミツヒデに白雪は笑いかけた。

「うん、ちょっと顔出しに」
「木々、よかった上手く会えたんだな」
「門で待ち伏せした。」

ミツヒデの問いかけに木々はクコリと頷く。その様子を後ろ目にゼンが人攫いが出たようだな。と顔を引きつらせた。そのまま白雪に向き直りニッと口角を上げる。

「落ち着いてるか?」
「うん?…………割と……?」
「わりとっておまえ…」

呆れた目を向けるゼンの手を白雪が握りしめる。わお、とわざとらしく声を上げ木々の後ろに隠れ彼女の服をつかむ。

「うん!」

覚悟を決めた白雪が手を握りしめ緊張を緊張感に変えた。照れたゼンにニヤニヤとしたヒデミツが腕を回し、白雪へと話しかける。

「志願者はみんな審査中城にいるんだよね?」
「はい泊りがけで」
「試験何するんだろうなーゼン?」
「知らん。」

ヒデミツの言葉にゼンは冷たくあしらう。

「あっ!そうだゼン!」
「ん?」

白雪がおいでおいでと小招きしなまえを呼ぶ。木々の後ろに隠れていたなまえはパチリと目を瞬きパタパタと白雪の元へと駆け寄る。

「ゼン、あの日以来で紹介がまだだったよね、タンバルンから一緒に住んでたなまえです。」
「え、ああよろしく。」
「よ、よろしくお願いします。」

子供らしくぺこりと頭をさげるなまえにゼンは微笑ましそうに見る。白雪の家族、というだけでそう見えるのかもしれない。決して外見がどうのと口に出すことはない。

「それで、3日間家を空けちゃうから、預かったてもらえたら、って思って……」
「ああ、いいぞ」
「やっぱダメだよね…えっいいの?」
「おう?白雪の家族なんだろ?」
「……うん」

ありがとう、と白雪が笑いかける。なまえは木々とミツヒデにお世話になります。と頭を下げていた。

「あ、なまえかなり腕が立つから一緒に訓練とかしてあげると喜ぶと思うよ」

爆弾を放置してじゃあよろしく!すちゃっと手を挙げ試験に向かう。

「え……?」
「し、しらゆきぃ…」
「なまえちゃん、だっけ?」
「は、は、はい…」
わたわたと手を忙しなく動かしヒデミツを見上げる。そこにはにっこり笑ったヒデミツと興味深そうになまえをみるゼンと木々がいた。

「訓練場、行ってみる?」
「は、はい!」
「なまえちゃんはどんな武器使うの?」

長剣?短刀?弓矢?と首をかしげるミツヒデに子供の世話が好きなのかな、となまえも一緒に首を傾げた。

「あの、コレです。」

そのまま手を握りしめグーを見せるなまえに木々は拳?と声をかける。
「あとはコレ」

そう言ってクナイをポーチから取り出し一回転して見せるとマイナーな武器にゼンは目を瞬きへえ、と笑った。

「隠密行動?」
「あ、はい、得意です。」
「へぇ、じゃあ訓練場に行こうか。」

この世界では魔法はメインに使わないほうがいいことは明らかだ。念をメインに使ったほうが良いだろう。魔力はとても派手だから。ごめんよルーク、とそっとなでればバリアジャケットと起動だけは必ずしなさいと注意を受ける。はーいとなまえが答える。木々に連れられパタパタと後ろについて回るなまえにヒデミツは微笑ましそうに見る。ゼンはニヤニヤとヒデミツに声をかける。

「ロリコン趣味か?」
「小さな子が一生懸命走る姿って可愛いよな」

不思議そうにゼンに首を傾げて見せれば、まあそうだな。と頷く。

木々に連れられた訓練場に集まる視線に肩を強張らせる。多くの視線に晒されたなまえは縋るように木々へと視線を向ける。

「ゼン、ミツヒデ、手頃な兵士に相手させても大丈夫?」
「あ、ああ。無理はさせるなよ」
「わかってる」

助けを求めた先でそんな会話をしていてなまえは動揺しながらルークに声をかける。
<<ねぇ、ルーク。魔法は無し。使うのは身体能力とクナイ、他は…どうしようかな。>>
<<そうですね、ならば久々に長剣を扱ってみるのは如何ですか。"偽りの刃"を隠すにはうってつけでしょう>>
<<……最近使った記憶ないよー>>
<<マスターは白雪の騎士でしょう?なら長剣くらい使えなければ>>

そかー。そうかなぁ。だいぶ鈍ってるんだけどなぁと悩みながらなまえは唸る。騎士、というか護衛というか。まあ確かに、でもまあしっくりとくる長剣が手に入る状況までは我慢かな。

「なまえ!」
「は、はい!」

木々の呼びかけになまえはパッと彼女を見る。一人の兵が立っているのを見てペコリと頭をさげる。

「とりあえず彼と一戦してもらってもいい?」

そういって木刀をなまえに渡す木々に頷く。
今回は木刀は使わないが、とりあえず腰にさしておこう。

「は、はい。よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。」

お互いに頭を下げて兵の後に続く。軽く手首や足を回し準備運動をする。とりあえず魔力はもちろん、今回は念やチャクラ使わずに、身体能力とクナイだけでの試合と自分に枷をかけ、互いが構えを取る。

「ほう…」

ゼンは思わず感嘆の声を上げる。
先ほどのオドオドした様子から一変、隙の無さが一級品だった。相手も感じ取ったのか構えを正した。なまえは自分から攻めることはせず少しの隙を見せることで相手に攻撃をさせる。

「誘い方が上手いな。」
「ああ、戦い慣れてる。」

クナイを用い木刀の軸を上手く逸らし、さらに打ち込みやすいように隙を作る。

「あれじゃあ兵が対接近の訓練を受けてるようなものだ」

焦る兵士を尻目になまえはお手本のように捌いていく。そして時折クナイで相手の隙を突きワザと相手に捌かせる。これは話にならないなとゼンが思った時、相手側の兵士が頭を下げた。

「は…え?」
「弟子に!してください!!」
「え、ええー…と…え?」

いきなり両手を地面につき頭を下げ始めた目の前の兵士になまえは構えをゆっくりと解いた。
「そこまで!」

空気を呼んだミツヒデがなまえを抱え木々の元へ押しやる。木々はなまえの頭を撫で凄いねと褒める。木々の柔らかい笑みになまえが照れるのと、目の前の観衆の騒めきにやらかしてしまった?と首を傾げた。

「教え慣れてるな」

ゼンが感心したように頷く。
「昔の記憶はちょっとないんですけど、護身術として身につけてたから…」
「そう、偉いね」
「あ、あ、ありがとう、ござい、ます」

記憶がない、というのはもちろん灰色の真実だ。廃人の頃の記憶はたしかにないので本当だ。ただそれよりも前の記憶があるだけで。もちろんそれは言わないし伝える予定もなかった。

「まだやれるか?」
「え、はい、一応、多分?」
「よし、じゃあやろうか」

こくこく、と頷きながらえ?王子とやるの?え?王子訓練参加するのか、見学じゃないのか。まじか。