何故か呼び鈴の音がピンポーン、ではなくリンリーンなのかはさておいて、緊張した面持ちな神童を引き連れてねーちゃん家まで来たのにはまあ、それなりな経緯があったわけだ。とりあえずそれも落ち込んだ様子の神童を放置して話す内容でもないので一旦流すとして、
「おまえさー、ねーちゃんにそんな腑抜けた顔見せるんなら追い返すぞ?」
「…ああ、そうだな」
「ねーちゃんに会ってなにかをつかもうと思っても無理だと思うけど、」
「なんでだ?」
「なんでって俺がねーちゃん独占するからにきまってんじゃん」
なにをいまさら?と本気で驚いた表情を浮かべた水鏡の額を手刀をいれ顔面をわし掴みたくなる事は、別に今に始まったことじゃない。そう気を落ち着かせながらゆっくりと開く扉を見据えた。
急なことで折菓子すら持たない訪問となったがなんとかなる気がするのは、やはり水鏡の親戚だからだろうか。
「いらっしゃい、奏…と、ん?お友達かな?」
「あ、は「ねーちゃん会いたかった!!俺今日も学校頑張ったよ!」…は…い?」
水鏡のイトコのお姉さんである彼女に挨拶をしようとするといつもより2トーンほど声を高くした水鏡が満面の笑みで褒めて褒めて!と大きな尻尾を振っていた。これが、姉の前での姿か。思わず彼女に南沢さんの前でのあの悪行を見せてやりたいほどだった。
「奏頑張ったんだ、偉い偉いー。じゃあ次にお友達紹介してくれるかな?」
イイコイイコと言わんばかりに笑顔で頭を撫でる彼女はなるほど、たしかにいい人そうだった。
「はーい、オレのチームのキャプテンで神童。」
「神童拓人です。突然の訪問すみません」
「ご丁寧にありがとう、しんどーくん。私は奏のイトコのそらです。ゆっくりしてってね」
「そらさん、ありがとうございます」
一礼してジッとそらさんと奏凝視する。
「ねーちゃん、今日晩御飯食べてっていい?久々にねーちゃんのご飯食べたいんだ!」
「いいけど、ちゃんとお母さんに言うんだよ?」
「わかってるよーもう言ってあるって!」
え、そうなのか?思わず奏の準備の良さには驚かされっぱなしだ。
「夏未さんは?」
「なっちゃんは今ご家族のとこだよ、夕飯には戻るよ」
「そうなんだ、じゃあ他の人は?」
「一哉はいま向こうにいるし、あ、でも円堂は帰ってくるはずだよ、なんにも聞いてないし」
腕を組んで思い出しながら喋っているのか奏に合わせていた視線を外した。そのまま視線を俺の方へ向けられる。
「あ…えっと、神童くんは?ご飯食べていく?」
「あ、いえ、ご迷惑になりますし…」
「んー全然迷惑じゃないけど…奏もいるし食べていくといいよ」
その奏に睨まれているんです、そらさん。会話も弾まないであろう食卓を思い浮かべ首筋にたらりと汗がたれた。
ガチャリ、そんな音が聞こえたと思えばここにいた全員が視線を玄関に向けた。そう、今までの会話は全て家に入ってすぐ、玄関口で行われていたのだ。
「………!
円堂おかえり!」
「おーそら、ただいま!奏も来てたのかー隣の子は友達か?」
「あー…円堂さん…お邪魔してます…」
「玄関口じゃあなんだしほら、はやく部屋に行くぞ」
ニッと笑った円堂さんにそらさんはあ、そうよね、と俺と奏の手を引いてリビングへと通した。
(え?っていうか円堂さんってあの円堂守…?え??)
(へっ…あの円堂守だよ…)
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零