3日間空元気にサッカーをする水鏡を心配するのは純粋な一年生しかいない。
南沢さんなんてこれ幸いと何度水鏡にボールをぶつけている姿を見たことか。
まあなんの反応も返らないせいか一日目で飽きていたが。
音無先生まで諦めた時にはついにこの時が来たのかと全員に二年生全員に動揺が走った。
「まあそら先輩が帰ってきたら治るでしょう」
朗らかに言った音無先生を俺は忘れないと思う。
まあ一年も一緒にサッカー部としてすごしてきたというのがあるのだろう。そしてそらさんとも知り合いらしい。ならおかしくないか。実は音無先生が一番早く見限っていたとかは今更な話か。
そんな水鏡が3日目にしてとても元気である。あからさま過ぎてて笑えない。人一倍声を出し指示を出していた。
いつもそれくらいやる気出せっちゅーの。浜野が苦笑いしながら言った。
「なー、やっぱりおねーさんに試合見に来てもらえよ」
「…却下」
休憩中、倉間が水鏡にそう話しかけた。チラリと倉間をみた水鏡は苦々しい顔でそういった。
「なんでだよ。」
「…っち、ねーちゃんの旦那や知り合いがプロ選手なんだよ」
「はー、その人たちに劣ってるのを見られたくないわけだ。」
舌打ちしたことについてはもはやスルーするチームメイト。南沢が鼻で笑いながら水鏡の核心をつく。
「るせーよ。フィールドの魔術師に中坊の俺が勝てるかよ」
ぜってー追い越すと目をギラギラさせそう言った。
「はっ!?フィールドの魔術師!?もしかしてアメリカチームの!?」
「え!知り合いのほう!?」
「そういえばあの人一時期雷門中だったんだよな!まじかよ!」
もりあがるメンバーに水鏡はさらに苦虫を噛み潰した顔をした。これはだれか地雷踏んだな。と霧野は一歩下がる。霧野とともに遠巻きとしていた南沢がにたりと笑う。
「ははーん、その顔は旦那が一之瀬和哉か」
「「え!?」」
二年生と三年生が顔を見合わせ水鏡を見る。不貞腐れたようにヘソを曲げた水鏡のそれは明らかな肯定だった。
「え、じゃあ知り合いのプロって!?」
「円堂さんに風丸さん、壁山さん、豪炎寺さん、虎丸さん、あとは染岡さんやフィディオさんやロココさんたちも知り合いだったわね」
「うわ!なにその豪華メンツ!」
「おねーさんなにもの!?」
「いや、でもさ、中坊には中坊なりの青春だってあるんだぜ?見せてやれよねえさんも寂しがるだろ?サッカー好きなんだろ?」
車田の言葉にヘソを曲げていた水鏡は顔を上げた。
「俺にサッカー勧めてくれたのはねーちゃんのだったんだ。だから棄てきれないっていうか棄てる要因がないっていうか、あるとしたら、サッカーと俺とねーちゃんは繋がってるはずなんだ、なのにねーちゃんの旦那もサッカーで繋がってるなんて」
愕然と頭を抱えた水鏡にどこからか笑い声が聞こえた。ピクリと水鏡の肩が動いたかと思えば勢い良く立ち上が辺りを見回した。
「ねーちゃん!!」
ぱぁあああ!花が綻んだ。なるほど、いや、アイツ花じゃないし。たとえ比喩でも決して花じゃないし。勢いよく駆け寄る水鏡はそのまま飛びつくかと思いやギリギリで急ブレーキをかけ失速しその人物の手を取り少女のようにはしゃいだ。
「ねーちゃんおかえり!どうしたの早かったね!教えてくれれば迎えに行ったのにっねーちゃんなんにもなかった?怪我とか頭痛いとかしてない?」
乙女か!おそらくその場にいる全員の思考が一致したはずだ。
神童は「あ、そらさん、夏未さん。今日はどうしたんですか?」と朗らかに迎え入れた。なんだなんだ、知り合いだったのか。
「ただいま、奏。奏驚くかなって早く帰ってきちゃった。元気だから安心して」
「こんにちは神童くん、音無さんに案内してもらったの。ふふ、相変わらず奏くんは元気ねー。」
女性2人はほのぼのと笑っていた。ああ、これもいつも通りなんですね。速水は眼鏡越しに遠い目をした。
「え?!いや、そんなのいいよねーちゃん!」
「いいのいいの、ほらおいで」
そうそらさんが言えばなにやら奏くんに変貌していた水鏡がこちらを睨んでいた。サッカー部と数歩歩いた距離のところで彼女はゆるゆると頬を弛緩させた。
「初めまして、奏がいつもお世話になってます、従姉妹の一之瀬そらです。」
「ねーちゃん水鏡で名乗ればいいのに」
そらさんが会釈を軽くした瞬間水鏡からの激しい睨みが襲ってきた。先ほどのアレを見たせたせいか特に何も感じなかった。猫が威嚇しているようなものだ。お世話になってる云々は彼女以外が言った瞬間に殴られるのであろう。
南沢が一歩前に出てにこりと笑う
「はい、そうですね、水鏡くんにはいつもお世話になってます」
副声音に色々と。と聞こえたのは間違いないだろう。そんな彼を他所にそらさんは照れたように笑う。
「この子意地っ張りだから気に障るようなことしてたら本当にごめんね、なんとなくそんな気はしてたんだけど」
その瞬間水鏡は青ざめ「え!?」と
そらさんを見上げていた。それはバレていたからなのか、親愛の姉に信用されていなかったからか。
「ね、ねーちゃん…?」
「ごめんね、奏、驚かすつもりが私も驚いちゃったよ。そんなに和哉嫌い?」
「!!?」
聞かれていたという事実にショックを受け完璧に青くなり目には涙をためていた。南沢や三年生のメンバーは見物体制だ。ちなみに二年生は哀れみを含んだ目で水鏡を見ていた。
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いつだって通常運転
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零