しばらくして虎丸が帰ってきたので声をかけた。

「お疲れ、虎丸」

「あれ、そら姉来てたんだ」

「ん、店開けっ放しで出ちゃダメじゃんか。」

てい!とでこぴんを食らわし悶絶する虎丸を尻目に料理を作り続けるそら。そんなに痛くしたつまりはない。

店の中では明るくハキハキがモットーである。夏未にはこの事伝えてあるし、授業中の居眠りは多目に見てもらっている。言い訳にしか聞こえない、って最初はグチグチ言われたが現在切り盛りしているのが小学生なんだと知ると驚いて一度この店を見に来て許可をくれた。やっぱり夏未は優しい。


夜に弱い小学生の虎丸に代りに夜中に仕込みをしているのは最早日常である。この虎ノ屋が好きだから、一生懸命になれる。私が始めて使った"一生懸命"は楽しかった。嬉しい感情も多々ある、だっておばさまが"ありがとう"って言ってくれた。自己満足であるこの行為に…感謝してくれた。お世話になった人が、過労で倒れたなんて知った時はがむしゃらだった。虎丸の料理を見学してちゃんと覚える前は雑用や力仕事まで受けたほどだ。今も大して代わりはないが、

「そら姉!注文!」

「はいはい!直ぐにうかがいます!」

愛想良く笑いお客さんのもとへ向かう。

********

その夜、虎丸に一緒にサッカーをして欲しいと頼まれた。

いつものコトなのでOKを出し店を閉め、パス練(は最近要領が掴めたと言ったら嬉しそうにやろう!と言われた…まあ別に構わないが)をしてから私からボールを取りに四苦八苦してる虎丸に声をかける。

「最近楽しい?」

「……なんで…?」

「だって帰ってくるの昔より早いじゃないか」

友達と遊んでないでしょ。ジッと虎丸を見れば眼をそらし苦笑いしていた。オイオイコラコラー。

「だって…家が大変なのに…」

「ばーか、なんの為に私が全部覚えたと思ってるの。」


「でも出前あるじゃん!」

「私が行くよ。のの姉だって頼めば下ごしらえしたやつ出してお客さんに接待出来るよ。」

だんだんムキになっている虎丸に宥めるように言えば、顔をしかめたまま俯いた。小学生は小学生らしく何も気にせず全力で遊べば良いんだ。

「私ものの姉もおばさまも虎丸が大切だから、我慢して欲しくないんだ」

「…我慢なんて、してない…」

「私なんかとサッカーしても楽しくないでしょ」

楽しくないでしょ、そういえば虎丸は首を横に振った。

「そら姉のキープかなり上手いから取り甲斐があるよ」

「……そりゃどーも…」

そうじゃなくてだな、私は友達とかもっと仲がいい子と遊ぶべきだ、って言ってるんだよ虎丸。口頭で伝えれば横を向いた。再び名前を呼ぶと「いいんだ…」と眉を下げて笑った。いいわけがない。

「………あ、なら私の友達紹介するよ」

「え!豪炎寺さん!?」

「いや…たしかに知り合いだけど……」

無口だしお勧め出来ないかなー、人差し指で頬をかきながら言えば虎丸はなら誰?と首を傾げていた。

「うーん円堂とか。円堂優しいし、虎丸任せても平気だし」

「円堂さん!?」

やった!と嬉しそうにはしゃぐ虎丸を見て良かった良かった、と一安心。さすが有名人。サッカー少年の憧れの的だ。


「絶対だからねそら姉!」

「はーい」

思い出した時にでも話しとくよ、と言えば早めに!と急かされる。学校は私の睡眠時間なの!そういえば申し訳なさそうに謝られたので、ごめんホント気にしないで!と謝っておいた。小学生に気を使わせるなんてなんたる失態。2つしか年齢かわらないのにね。今日はこれでお仕舞いなのか虎丸がサッカーボールを抱えて裏口から戻って行ったので私もそれに続く。これから仕込みだー。

(天才小学生。)
(天才にも色々苦労があるようだ。頑張れ少年)