「そら…………水鏡!」

大きな声が後ろから聞こえ条件反射で振り向く。丁度今日は卒業であり、それを祝う式を終えたところだった。雷門の生徒がごった返しているなか懐かしい少年が笑みを溢してこちらに駆け寄ってきた。

「………」
「久しぶり」

元気だった?と問い何も答えないそらに、首を傾げ不思議そうに覗きこんだ。そらは脳内の処理が追い付かず、驚くほど動揺していた。

「あ、れ?水鏡オレのこと忘れちゃった?」
「え、え…?」
「え、本気で忘れちゃった!?」

苦笑いし、もしかして?と内心思ったことを口にすれば返ってきたのは困惑。え、本当に!?自分を忘れられ焦る彼にそらは小さな声を落とした。

「一之瀬?」
「あ、うん。……良かった、覚えてないって言われたらどうしようかと思ったよ」
「え…、なんでここに?なにか用事?」

円堂に会いに来たの?ゆっくり話す水鏡はどこか落ち着いた様子だった。相変わらず水鏡は円堂にぞっこんなんだろうか。二人の中の良さは知っているが離れていた期間が長すぎたため内心複雑だった。

「円堂に、ってわけじゃないんだ。みんなとサッカーやるためにこっちへ来たんだ。」
「…へえ…」
「土門もね、こっちに来てるんだ」
「え、そうなんだ」

ぱちくり、と目を瞬かせたそらは一之瀬に向かってそれで、あ、そうだ私になにか用事?と呼び止められた理由を尋ねた。

「あ、ああ」

動揺する一之瀬を訝しげ、沈黙し言葉を待つ。

「?」

引っ張られた手と差し出された手が重なり一之瀬は恥ずかしそうにポツリポツリと話す。

「土門から聞いたんだけどさ、日本にはこういうときは男がちゃんとしなきゃいけないって」

「はあ…」

「でも、何て言えば君が喜んでくれるかわからなくて、」

オレそんなに自信ないし…伏せ目がちに小さく肩を落とす一之瀬になんの事だ?と首をかしげる。

「…まだ水鏡の一番になれてないけど」
「……」
「ずっと気持ちは変わってないから」

「迎えにきたよ」

そらはふと、何の話だ、と頭をフル回転させたところで彼の別れ際のセリフが蘇った。


[全部終わったら苗字を迎えに行ってもいい?]

[こっちに帰ってきたらプロポーズしてもいいですか?]



………ああ、そうだった。そんな会話もしていたような気がする。
お友達から、と言った内容も覚えてくれていたらいいのに、なんて頭の片隅で思い返す。あれから4年も経っていれば、ましてや一度も連絡がなかった。そんな私をなぜこうも気持ちが変わらなかったなんて豪語できるのだろう。


「えっ、と…一応…プロポーズ、なんだけどな…」

「あ…うん」


恥ずかしそうに口元を押さえているのを見てそらはつられて照れてしまう。悟られないよう下を向きポツリポツリと話始める



「…友達って言ったのに一度も連絡なかった、よね」
「あ、う、あの」
「たしかに私も連絡しなかったけど…一之瀬言ったじゃん待っててって」
「あの…そら、さん…?」

もしかして怒ってる?顔を掻きながら一之瀬が問う。

「それなのにいきなり現れるし、プロポーズとか言うしなんなの、わかんないよ」

「はは、びっくりしたでしょ?」


そりゃ、付き合ってもいない、4年振りに会う友人からいろんな段階通り越してプロポーズされたら誰だって驚くし普通だったら断ってる。

「何年経っても水鏡のことならわかるよ
でも水鏡はそうじゃないだろ?」

「…?」

「はは、オレの中の水鏡はそんな子だったから……、でも、ほんとに綺麗になっててびっくりしたよ」

思い出しているのかクスリ、と笑う一之瀬から視線を外し照れ隠しに悪態をつく。

「…プレイボーイ」

「オレはいつだって水鏡一筋だったよ、土門に聞いてみてもいいよ」
「………」

「そんな、不貞腐れないでよ、オレこの機械逃したら水鏡に会いにこれないと思って」

ジト目で見やれば、わたわた、と慌て始めた彼の言葉に目を瞬く。

「…だからプロポーズ?」

「ああ、ねえ水鏡、君が別れ際に言った言葉覚えてる?」

「…?」

首を傾げれば照れながら言葉を結ぶ一之瀬に思わず赤面した。え、私そんなこと…いや、そうかそんなこといったのか…。追い討ちをかけるように笑う一之瀬を恨めしくおもう。なんでそんなこといちいち覚えてるかな。
近づいてきた顔に額同士がくっついた。近い近い。

「で、どうかな、水鏡のお眼鏡にかなったかな」

「……そーなんじゃないですか、ばか」


背けられない体制と火照った顔が恨めしい。嬉しそうな一之瀬を思わず殴りたくなった、なんて秘密だ。


(っていうかサッカーやりに来たついでにプロポーズってバカにしてるでしょ)
(え、そんなことないよ)