03




掲示板に群がる小さい生徒達は、1年生だろうか。コートニーは色々な寮生のその人だかりを横目に、イザベルと朝食を食べに行った。

「何かしら、あれ」
「1年生ばっか」
「二人ともおはよう。飛行訓練が始まるみたいだよ」

そんな事を言いながら席に着くと、目の前に座っていたエリーナが教えてくれた。「ほら、」と彼女の目線の先には大袈裟に自慢をする一年生のドラコ・マルフォイの姿があった。

「ああ、そんな時期か」
「懐かしいわね。またみんなで箒に乗りたいわ。授業でクィディッチもしたいし」
「私はもういい。……クィディッチの選抜はいつだっけ」
「スリザリンは次の土曜日ね」

イザベルは箒があまり得意ではないので、飛行訓練の授業もクィディッチの試合も、周りと比べるとあまり関心は無い。しかしイザベルに日付を聞かれたコートニーは即答した。この日だけは新学期が始まった時から忘れないようにしていたから。

「コートニーは今年も受けるの?」
「ええ、そのつもりよ」
 
エリーナに聞かれてはっきりと答える。去年は控えの選手として選ばれて、シーズンの途中に何試合か交代で出たが、今年はレギュラーとして参加したいと思っている。その為にはまずはテストに合格しなければならない。

「去年のリベンジに燃えてるんだよ、この子」
「当たり前よ!あんなに腹の立つことってないわ」
「去年?何かあったっけ?」

エリーナの言葉にコートニーは押し黙る。目の前のトーストを口に入れて、イライラとする思い出を飲み込みたかった。答えたくない。無視はよくないけど、自分の口からあの屈辱を語るのはとても嫌だった。不機嫌を丸出しにしたコートニーを見て、答えたくない本人に代わってイザベルが口を開いた。

「グリフィンドールとの試合で、この子箒から落とされた」
「……そんなことあったねー」
「あれから事あるごとにウィーズリーにからかわれたのよ……!」

あれはシーズン最後の試合だった。チェイサーのポジションのコートニーを、ビーターのウィーズリーが狙うのは当たり前だし、それで落下するのもクディッチではよくある事だ。地面に落ちたが幸いにも足を挫いたくらいで軽傷だったし、その試合は結局スリザリンの勝利だった。何も問題の無い、普通のことである。しかし自分達が負けた腹いせなのか、フレッドとジョージは顔を合わせる度に、「ちゃんと箒に掴まってるか?」「ベンチにいた方がキレイなお顔に傷がつかないぜ!」と言ってきたり、クラブでブラッジャーを殴る真似をしてきたり。とにかく幼稚な方法でからかってきたのだ。それに合わせて双子の周りのグリフィンドール生達が笑いを立てて、不愉快極まりなかったのだ。

「今度の試合であの双子を箒から引き摺りおろしてやるわ!」

今思い出しても腹が立つし、ムカムカがちっとも治らない。これを鎮めるには、グリフィンドールと戦って、あの双子を負かす事しか方法が無い。コートニーはそう宣言した。

「あんたはチェイサーじゃん」
「もう、イザベル!そういう意気込みってことよ!」
「……ふふ、頑張ってね!」
「ええ!ありがとう、頑張るわ!」

コートニーはムスッとした表情のまま朝食を再開する。イザベルの正論もエリーナの励ましも、目の前の美味しい朝食でさえ、双子にイライラとするコートニーの気分を上げるには充分では無かった。



・・・




数日前とは違い、今日のコートニーは気分がとても良かった。昨日のクィディッチの選抜テストでとても良い結果を残せたからだ。去年より早く飛べるようになったし、体も大きくなった。上級生にはまだまだ敵わないだろうが、チェイサーとして試合に出る為の条件は全て満たしている。キャプテンのマーカスからもその場で良い返事が貰えたし、コートニーは上機嫌だった。これから重要になってくるのは、試合の初めから出場できるか、ずっとメンバーに居続けられるかどうかだ。この2つは他の選手との兼ね合いや、キャプテンの意向が反映されるが、条件次第ではどちらも十分に実現可能だと考えている。後は自分の努力だけだ。

「……なに、あれ。どうかしたのかしら」

上機嫌のまま帰ったスリザリンの寮では、談話室で数人が集まっていた。それだけなら別に大した事のない日常だが、学年もバラバラなその人だかりは、皆んなそろって怒りに顔を歪めている。その中心にはドラコが居た。ドラコとクラッブとゴイルと、あの女の子は確かパンジー・パーキーソンだ。彼らを中心にマーカスや見知った同寮生が話していて、何やら怒っているらしい。ドラコは確かこの前まで「これであいつは退学だ!」なんて大喜びしていたと思ったが、どうしたのだろうか。

「イザベル。ねぇ、あれ、どうしたのかしら。何か知ってる?」
「……ああ。なんか、ハリー・ポッターがクィディッチのシーカーに選ばれたらしい」
「ええ!本当?彼まだ一年生でしょ?凄い事じゃない!」

隅の方に置かれたソファに座るイザベルを見つけたので隣に座り話しかけると、あのハリー・ポッターがクィディッチの選手に選ばれたらしいと教えてくれた。素直に感心するコートニーを見て、イザベルはいつものつまらなそうな瞳を瞬かせた。

「……コートニーってほんと素直でいい子」

驚きと呆れが見られるその目に、スリザリンの殆どがコートニーと逆の意見だと気づいた。

「……まあ、一年生だものね。反感は買いそう」
「そう。見て、あのマルフォイ家の子が特に……」

イザベルは最後の言葉をコートニーにだけ見える様に、音に出さずに口だけを動かした。それが「うるさい」と言っているように見えたが、コートニーは肩を竦めるだけに留める。純血で有名なハルフォード家のイザベルが直接に非難できない相手に対して、名家でも何でも無いただのコートニーが言える事はあまり無いのだ。

「聞きましたか?あのハリー・ポッターがクディッチに出るそうですよ」

数人を引き連れて、ドラコが二人の元までやってきた。コートニーは何となく佇まいを直してしまう。ドラコは年下だが、近寄り難い雰囲気があるのだ。

「ええ、さっき聞いたわ」
「これは完全な依怙贔屓だと思いませんか?こんな事が認められるなんて、ホグワーツは僕が思っていたより大分腐っていたようです」
「ええ、どうかしらね……」

しばらくドラコ率いる集団とハリー・ポッターについて話したが、丁寧な発音と丁寧な話し方で、これぞ旧家の御子息というような嫌味のオンパレードだった。普通の生まれのコートニーは、そこまで言うなら直接抗議に行けば良いのにと思った。相槌だけで疲れるような内容だ。隣のイザベルはというと、自分は最初から会話に参加していなかったというスタイルを貫き、読書に勤しむフリをしていた。




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