02
新学期が始まって二週間が経とうとしていた。新しい時間割や教科書にもまだまだ馴染めないが、魔法薬学の教室に入った瞬間のジメジメとした空気に包まれる感覚は未だにコートニーを怯ませる。スリザリンの寮はそこまで気にならないが、この教室の湿度の高い空気に触れる瞬間だけは、いつまで経っても慣れる気がしなかった。
数占い学の教室から地下牢まではかなり遠いので、コートニーはこの二つが並ぶ月曜の午前は、いつもギリギリに地下牢に入る。今日もすぐ数占いの教室を出たのに、地下牢には一番最後に入ったようで、前の方にイザベルの金色の頭が見えた。今回も彼女とペアは組めないようだ。そのまま、同じ授業だった同寮のエリーナ・キャロルの隣に座った。
すぐにスネイプが入って来て、今日作る魔法薬の説明を始めた。それをノートに取りながら、チラリとグリフィンドールの方を見る。教室の後ろの方、ウィーズリーの双子を中心にクスクスと笑い声が聞こえる。何か冗談でも言っているのか、コートニーにハッキリとは聞こえて来なかったが、授業を静かに受けたい彼女にとっては邪魔以外の何物でもない。話にオチがついたのか少し大きめの笑い声が響き、スネイプが注意するついでにグリフィンドールを減点した。コートニーもスネイプのスリザリン贔屓はよく思わないが、この減点は当たり前だと思う。
なんであんな2人が人気なんだか。みんな頭が腐っているのか、目が良く見えないのね。
コートニーは髪を耳にかけながら、思わずため息が出る。また騒がしい方を忌々しく見ると、その中心にはやはりフレッドとジョージがいる。三年生で一番の、いや、ホグワーツで一番の問題児だ。作業が始まってからまだ数分しか経っていないのに、もう二回は小さな爆発音がしている。その度に笑い声や悲鳴が耳に入るのだ。一応声は抑えているつもりらしく、何が起こっているのかは分からないが、コートニーの集中を散らすには充分だった。しかし、これでも他の授業よりはだいぶマシだというのは呆れるところだった。
何度目かの不真面目な喧騒にとうとうスネイプが切れた。散々な嫌味を言われる双子にコートニーが内心で笑っていると、スネイプは双子のペアの解散を言い渡す。二人でいるよりは一人ずつの方がまだマシだと思ったらしい。
「ミスグロウズ、フレッドと組め」
「え?」
そして何故かフレッドのペアとして、あろうことかコートニーを指名して来たのだ。一緒にやっていたエリーナも驚いた顔をしている。勿論スネイプは、コートニーがスリザリンの優等生で、双子と仲が悪いと知っていての指名だった。
「グロウズは俺じゃ不満だってのか?」
渋々連れて来られたフレッドも、コートニーの意見に賛成だという表情だが、コートニーのあからさまな嫌そうな顔も大概だ。お互いが、この2人で一緒にやってまともな薬が出来上がる気が全くしない、という表情だ。
「あなたと一緒にしたいなんて、ひとかけらも思うわけないわ。先生、嫌です」
「何か馬鹿な事をしでかしたらすぐ我輩に言え。即座に減点する。」
スネイプは撤回をするつもりが無いらしい。エリーナを連れてジョージの所へ行ってしまった。スネイプなら自分が手を上げた時点で減点してくれそうだと思ったコートニーは、仕方ないとため息をついた。
「ちょっと、次はエニシダの粉末じゃなくてトクネの葉よ。ちゃんとやってちょうだい」
「お前こそちゃんと読んだのか?『トクネの葉とエニシダの粉末を入れる』って書いてある。一緒に書いてあるから、どっちでも良いんだよ」
「貴方、頭だけじゃなくて目もおかしいの?始めの注意事項に『順番に特に気をつけるように』ってあるの読めないのかしら?」
「ご親切に心配をどうもありがとう、余計なお世話だ。……お前は嫌味を付けないと人と話せない呪いにでもかかってんのか?」
「ご親切に大いなる心配をどうもありがとう。勿論貴方達に対してだけよ、安心してちょうだい。それより早くそれ入れなさいよ、もう3回かき回したわよ」
「……糞爆弾を放り込まれたくなかったらそのお上品な口を閉じてろよ」
「そうさせてもらうわ。貴方と話してると疲れ果てて仕方ないもの。」
ウィーズリーとはほんとうに気が合わない!隣に居るだけで不愉快だわ!
材料を全て入れた鍋を自分でかき混ぜて、コートニーはつくづくそう思った。後は煮詰めるだけだが、思ったよりは出来の良い水色の液体を見て少し残念になる。 結局フレッドはペアになってからは悪態はともかく、変な邪魔はしなかったので、減点してもらおうと手を挙げる事は無かったのだ。
これ以上一緒に居てもイライラが増すだけだと、コートニーは出来上がった魔法薬をさっさと提出して地下牢を出た。
自分自身は誰がどこの寮でも関係ないと思っているが、ウィーズリーの双子やその周りの人達を見ているとグリフィンドールとは気が合わないと確信するばかりだ。大体、あの双子たは一年生の時から迷惑を掛けられてばかりだった。コートニーは一年生のハロウィンの日を思い出した。
・・・
コートニーはその日、初めてのホグワーツでのハロウィンに浮かれていた。空を飛び交うコウモリ達、幻想的な飾りの大広間。カボチャだらけの豪華なディナーにも大満足で、最高の一日になるはずだったのだ。
夕食をたっぷり満喫した後、イザベルと共に寮へ帰っていると、曲がり角からいきなり人が出てきた。赤毛の背の高い男の子達はそっくりな顔をしていた。びっくりしている内に、どちらかがコートニーに向かって何かを投げた。後から聞いた話によると、後ろに居たらしいフィルチに当てようとしたらしい。しかしそれはコートニーの顔にぶつかった。そして、小さな爆発を起こした。
「キャアアア!」
顔に、特に目に鋭い痛みが走りあまりの痛さに叫んだ。目の前が真っ暗になり何も見えなくなり、痛みと暗闇で一瞬にしてパニックに陥った。イザベルが何か言っているのが聞こえるが、痛みや混乱やらでそれどころでは無かった。
騒ぎに気付いた教師によって医務室に連れたいかれて、そのまま二週間の入院となった。
始めは頭に包帯を巻かれて何も見えない暗闇で過ごす事になり、更に面会禁止。何も見えない、自分がどこにいるかさえ分からない闇はコートニーを恐怖の渦に突き落とした。このまま目が見えなくなってしまったら、顔に酷い痕が残ったらどうしようと、ずっと泣いていた。涙が触れると悪化するからと薬で涙は止められていたが、それでもコートニーが泣き止めなかった。昼も夜も分からない、今自分がどこにいるかさえ分からない闇は5日も続いた。
不安で頭がどうにかなりそうになった頃、マダムポンフリーがやっと包帯を取ってくれた。目蓋を開けずとも感じる光が、こんなに感動をもたらすとは知らなかった。なかなか開かない目を、促されてやっと開くと視界はぼやけたまま。完全に視力が無くなる事は無かったが、これでは何も見えないのと同じじゃないかと泣きそうになるコートニーに、マダムが完治すると断言してくれたのだ。多少時間はかかりますが必ず治りますよ。その言葉にどれほど救われただろうか。結局退院前日まで面会禁止で、その間は他に入院していたらしい生徒とマダムポンフリーや教師としか会話はしなかったし、会った人はぼやけて誰が誰だかよく分からないままだった。
何とか退院して、イザベルや他の友人と久しぶりに顔を見て話したり、目が見えること喜び感謝していると、あの双子が気まずそうにやってきたのだ。わざとでは無いことを、マクゴナガルから聞いていたコートニーだったが、すぐに謝罪を受け入れるつもりは無かった。あれだけ痛い思いをして、不安な日々を過ごしたのだから当然である。しかし二人が真摯に謝れば許す気は充分にあったのだ。この時までは。
「退院したんだって?ごめんな」
「俺たち間違えてさ」
「ほんと元通りで良かった」
「……ほら、これでいいんだろ」
不貞腐れた顔で雑に渡されたのは、ノートのページを破いたらしき物。減点と罰則の他にコートニーの分も授業のノートを取れと言われたらしく、コートニーが手元の紙切れを見る。
「なによこれ」
それはお世辞にも綺麗とは言えないどころか、全く持って読めない字でぐちゃぐちゃに書かれた、まさしく紙屑だった。字が読めない所か、落書きだらけでおおよそ他人に見せるに直しない代物だ。
「ま、元に戻ったんだから良かったな」
二人の内のどちらが言ったのかは分からない。でもコートニーは即座に言った方に顔がニキビだらけになり痛くなる呪いをかけて、もう片方にも同じ呪いをかけ、そのまま放置して授業に向かった。驚くイザベルを無理やり連れて、後ろから聞こえる二人の叫び声は無視した。そのまま一生ニキビ面でいれば良いと思ったし、そう言った覚えがある。
この日を境に、コートニーは双子を見ると顔を顰めるようになり、それを見た双子が悪口を言って、コートニーも嫌味で返して、双子が糞爆弾を投げ、お返しに呪いを放つという間柄になる。おかげでコートニーは呪いやそれを防ぐ方法にとても詳しくなった。全く持って嬉しくない話である。
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