19
ヴァリアーが細工をして赤外線を切れないようにしたということは、きっとわたしの方にはしていない筈。最早賭けだった。一歩でも出たら爆発する。だけどどうしても行かなければいけなかった。例えそれが人質として自ら戦場に飛び込むことなり、捕まれば綱吉達に迷惑がかかるのことを分かっていても。枠から一歩外に出る。どうやら賭けには勝った様だ。何事も無く外に出るとわたしは全力で走った。
校庭に着いた時にはヴァリアーは綱吉達に囲まれていた。
「ダメだこりゃ」
「ボス……ここまでの様だ……」
「約立たずのカス共が……。くそ!畜生!てめーら全員呪い殺してやる!!!」
ジャリ と校庭内に足を踏み入れると気配に気付いた様に全員が此方に振り返った。
「なまえ?!何で此処に!」
「来ては行けませんなまえさん!!」
一歩ずつザンザスさんの方へ向かうわたしを止めようと綱吉達が声をかけるが、わたしは目の前のザンザスさんの姿しか見えていなかった。
すぐ近くにチェルベッロが来ているのは分かっていた。勝負はついている。いくら人質のわたしが来たとはいえ彼等の元にわたしは居ない。ザンザスさん達の敗北を示しているのは変わりなかった。このままではザンザスさんはチェルベッロに連れていかれてしまう。敗北すれば、彼が行ったことはボンゴレに対する反逆とみなされ最悪命を失う事にもなるかも知れない。それだけは避けたかった。彼の努力を見た過去があるからこそ、彼と同じ境遇だと知ってしまったからこそ、わたしは彼がチェルベッロに連れていかれるのをみすみす逃すことは出来なかった。
チェルベッロがザンザスに駆け寄る瞬間、追いつかなければと必死でザンザスさんの元へと走った。背後で止める声が掛かったとしてとしてももう止まれない。
「待って!!」
彼女達に追いつき、ザンザスさんに立ち塞がる様に対峙した。無力なのは分かっている。
「!………沢田なまえさん、そこを退いて下さい。勝負はつきました」
「分かっています。だけど……待って、彼は……」
無力なわたしに畳み掛ける様にチェルベッロ達はわたしに近付いた。やっと思い出せたのだ、彼を失う事なんてさせない。頭の中を焦りと不安が駆け巡る。尚も近付くチェルベッロ達にどうしようも無く手を振り払う。瞬間、見えたのはあのオレンジ色。
「え……?」
「なんで……」
嗚呼やっと思い出した、思い出してしまった。わたしが何故沢田家に引き取られたのか。わたしの手にはあの死ぬ気の炎が灯されていた。綱吉やザンザスさん達より小さいけれど、確かにあのオレンジ色。そうだ、わたしは過去にもこうして死ぬ気の炎を灯していた。
「なんでなまえが死ぬ気の炎を……」
綱吉も訳が分からない様子だった。他の守護者達もだ。静寂に包まれる中、背後から声が聞こえた。
「なまえ」
「?!」
名前を呼ばれると思わず、勢いよく振り返る。
「お前には無理だ」
「わかってます……!でも……」
「うるせえ。……弱い癖に出しゃばるな」
「……ごめんなさい。……ザンザスさん、わたし……やっと思い出しました」
「カスが」
ザンザスさんに言われてしまったらわたしはもう何も出来ない。未だ灯ったままの掌を見つめ力を抜くと炎も消えていった。
『……ザンザスさんは名前に二つもXが入っているのね。ボンゴレ十代目にお似合いの素敵な名前』
『名前は名付けた方からの大切な贈り物なんですよ』
『十代目になる時はわたしにも教えてくださいね。わたしも……お祝いしたいです』
過去にわたしがザンザスさんに言った言葉達。やっと思い出した。彼は約束を守ろうとしてくれたのだろうか、それとも真実を知りわたしに見せつけたかったのだろうか……。苦しみを、怒りを。
「約束を守ろうとして下さったのですか……?」
「ハッ……。自惚れんな、……お前にも……絶望を味合わせてやろうと、思っただけだ……」
きっと半分本当で半分嘘である。わたしの願望かも知れないけれど、断言出来る様な気がした。
気付いたら涙が溢れていた。ザンザスさんが養子として引き取られた事を知った時どう思っただろうか。過去の自分の無責任な発言を責めたくなった。
「ザンザス様。貴方を失格とし、ボンゴレリングを没収します」
「チェル……ベッロ……。お前達の……望み通りだ。予言が当たり……満足か……」
「お言葉ですが、これは我々の望みでも予言でもありません。全ては決まっていた事。貴方は役割を終えたのです」
「タヌキが………」
「……お疲れ様でした」
リング争奪戦は綱吉達が勝利を収め幕を閉じた。綱吉は気力の限界を超え気を失ってしまった。
「なまえ」
「リボーン……」
「お前、全てを思い出したんだな」
「リボーンはやっぱり知っていたのね、わたしのこと」
「九代目と家光からお前の事も頼まれていたからな」
やっぱり父はわたしに何も知らないでいて欲しかった様だ。
「さあ、お前も帰るぞ」
「うん……。でも、ちょっと待って」
向こうはわたしのことなんて何とも思っていないだろうが、このままヴァリアー人達と別れてしまうのは寂しく感じられた。
「マーモンさん、さっきは言えなかったけどご無事で何よりでした。ルッスーリアさんも……、お洋服ありがとうございました。皆さんお世話になりました」
「人質に礼を言われる筋合いはない」
レヴィさんにはそう冷たく返されたが、あの数日間わたしがお世話になったのは事実であったし、終わってしまえば皆さんと過ごした日々は大切なものになっていた。
「でも今回のお陰でわたし過去の事思い出せたんです、ザンザスさんのことも。だからありがとうございました。……ベル、いつかお寿司食べに行こうね」
「もうお前と二度と会うこともないだろうよ」
「ううん、会いに行くわ。必ず」
踵を返し、綱吉達の元へと戻っていく。車椅子に座りディーノさんの横にいたスクアーロさんにもお礼を言ったら舌打ちをされてしまった。
「ヴァリアー達の処分は軽いものではないぞ」
「……分かってるわ」
それでもわたしは彼等の事をもっと知りたいと思ってしまった。
Fin.