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 目を開いたらわたしの前には皆が居た。

 ああ、終わったんだ。あの子達が終わらせてくれたのだ。ユニはわたし達にも全てを教えてくれた。
 わたしは自分の掌を見つめた。わたしは一度死んだ。流石にこうなる未来は予測していなかった為、死んだ筈の自分が今此処に立っている事が不思議だった。
 目の前の皆はわたしが此処にいる事を喜んだ。綱吉は先に上に向かったと言う。わたしも早くあの人達の元に帰らなければと、皆と別れを告げて急いだ。



 外に出て、大きく息を吸ってからわたしは駆け出した。走るのはこんなに苦しいものだっただろうか。自分が思っているより前に進めない。もっと早く行きたいのに。もう二度と会えないと思っていた、あの人達の元へ。
 じんわりと暖かい空気を吸う度にわたしは息をしている事に感動した。さっきから感情が可笑しい。涙腺が暴発しそうだった。どんどん前も見えづらくなっていく。また会いたいのに、会うのが怖い。前に進みたいのに体は思う様に動かない。何もかもがちぐはぐだった。そうして段々と足が動かなくなり、ぴたりと止まると、わたしはその場にしゃがみ込んだ。もう泣くことを堪え切れそうに無い。

「おい」

「!」

 視界に靴が入り込んだかと思うと頭上から懐かしい声が聞こえた。それでもわたしは頭を上げることが出来ない。もう何もかも自分じゃ上手く動かせなかった。
 懐かしい声の主はわたしの目の前にしゃがみこむと、わたしを勢いよく抱き寄せた。驚き、衝動的に顔が上がる。瞬間、あの瞳と目が合った。

「ひでぇ顔だな」

「ザン……ザス、さん……」

「何泣いてんだ」

「ふっ……う……わたし、わたし……」

 自分でもよく分からなかったが、そのまま声を上げて泣いた。こんなに泣く事、今まで無かったかも知れない。
 彼はわたしをきつく抱き締めた。その苦しさにわたしは此処に居て良いのだと肯定してもらえたような気がした。

「もう大丈夫なんじゃ無かったのか」

 それはわたしがあの最後の日に言った言葉。やっぱり駄目らしい、わたしは無言で首を横に振った。
 それに対し彼はふっ、と少し笑うとわたしの頬に手を添えて言った。

「もう死ぬんじゃねえ」

 わたしはその言葉に何度も首を縦に振った。こんな事、もう二度と言わせてはならない。もう二度と彼の傍から離れないと強く誓った。
 そして過去のわたしにありがとうと心の中で呟いた。
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