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ユニは自分のおしゃぶりに宿した命の炎を、復活したアルコバレーノ全員の最大奥義により永久発火させ、過去のマーレリングを永遠に封印させたらしい。つまり最悪な未来は二度と起こらないという事だ。未来のわたしが恐れていた事は起こらない。この時代に再び生きる事を許された自分自身に向けて、わたしは思いを馳せた。今度は貴女が幸せになる番よ。「ということは過去に戻ればなまえの傷も元に戻るのかな?」
隣に居た綱吉が彼等に聞く。どうやら現在は六道骸さんがわたしの肺を補っているそうだった。
「ええ。皆さんの傷も癒えることでしょう」
その言葉に綱吉も安堵した様子で此方を見た。必ず全員で過去に帰るんだと弟と約束したから。
ふと六道骸さんが此方にやってくると、彼はわたしの頬に手を添えた。
「過去の僕達はまだ再会出来てない様ですが……。なまえお久しぶりですね」
「名前が六道骸だなんて、わたし知りませんでした……。まさか貴方だったなんて」
わたし達はお互いがマフィアと因縁を持っている関係だ。まさかこんな所で再会するなど思ってもみなかった。
「クフフ。過去の僕も驚く事でしょうね」
「?」
「いえ、何でもありませんよ。あまり貴女に触れていると彼が怒り出してしまいますからね」
そう言い六道さんはわたしから手を離し此処から去って行った。わたしはずっと近くに居たザンザスさんに目を向ける。彼は六道さんの事を睨みつける様に目で追っていた。
わたし達は最後に別れの挨拶を告げてから過去に帰る事になった。
「なまえ、過去に帰っても元気でね。無茶は駄目よ」
「帰っても修行は怠るな」
「ルッスーリアさん、レヴィさん……。本当にありがとうございました」
そう言うとルッスーリアさんはわたしを強く抱き締めた。マーモンさんも昔と変わらない姿でわたしは安心した。
スクアーロさんの方にわたしは短剣と銃、匣兵器とリングを手渡した。
「これはお返しします」
「いいのかぁ?」
「元々はこの時代のわたしのものですし、わたしの短剣は過去にちゃんとありますから。帰ったら過去のスクアーロさんにナイフホルスターを一緒に探して貰います」
「そうかぁ。まあその必要はねえと思うがな……」
「?」
「こっちの話だ」
ベルともずっと話したいと思っているのに、彼はわたしとずっと距離を取り続けていた。彼の方に向かうと、彼は無愛想に「何?」とだけ返した。
「ありがとう、ベル」
「さっさと帰れよ」
「……早くこの時代のわたしに会いたいから?」
「は?!違ぇよ!」
「最初に見つけてくれてありがとう」
「……。別に、お前に頼まれただけだよ」
「それでもよ」
未来のわたしはきっと分かっていたのだ、自分が死ぬ事でベルが悲しむ事を。そしてそれを一番受け止めきれないだろうという事を。過去から来るわたしが最初にベルに会う事で彼もわたしもお互いに現実を受け止めやすくなるという事を。
わたしは彼に別れの挨拶をして、最後にあの人の元へと駆けた。
ザンザスさんはわたしを見つめると頭の上にぽん、と掌を置いた。
「……死ぬんじゃねえぞ」
わたしはその言葉を深く胸に刻んだ。これはきっと彼がずっと言えなかった言葉だ。そう思うとじわりと瞳に膜が張ったが、泣くまいと何とか堪えた。
「この時代のわたしにも言ってくれますか?」
「ふ……、そうだな」
彼にこんな表情をさせるなんて、未来のわたしは酷い人だと思う。やはりこんな未来にしてはならないとわたしは強く誓った。その為にもわたしは強くならなくてはならない。
「過去に帰ったら沢山修行します。……ずっと一緒に居たいから」
その言葉にザンザスさんは少しだけ笑った。
そうしてわたし達は過去へと戻った。
わたしは日本から未来に飛んだはずなのに、帰ってきたのは何故かヴァリアー邸の裏庭だった。此処は石畳の道が続いていて、噴水と木々が生えているだけで辺りに花は咲いていない。此処にわたしの墓を立てて花を植えてくれたのかと、わたしは周りを見渡した。
後ろに建つのはわたしの見知ったヴァリアー邸。微かに香るのは未来より少し冷たい空気。此処は本当に十年前の世界なんだ。直ぐに綱吉に連絡しないと、日本に一緒に戻らなかったからきっと心配しているはずだ。
背後から足音がしてわたしは振り返った。そこに居たのはあの深紅の瞳。嗚呼、わたし本当に戻ってこれたのかと安心すると涙を堪える事が出来ず、無意識に彼へと駆け出した。
「ザンザスさん!」
彼は何も言わずにわたしを抱き止めた。彼は全てを知っている様だった。後から聞いた話だが、ユニとアルコバレーノの皆さんはあの戦いに関わった者全ての人に未来での記憶を伝えてくれたらしい。
わたしはずっと変わらないあのパイロープガーネットの暖かさに身を委ね、きつく彼を抱き締めた。