21

 オレの姉であるなまえは、先日のリング争奪戦で人質として拐われた。何とか大空戦でヴァリアーに勝利し、無事救出する事に成功したが、途中姉は昔の記憶を思い出した様だった。

 オレとなまえは血が繋がっていない。それは姉が幼い頃沢田家に引き取られた養子だからだ。だが血が繋がっていなかろうとそんな事は関係ない。オレも両親もなまえの事は大切な家族だと心から思っているからだ。
 だがなまえはそう思っていないのかも知れない。そう思ったのはザンザスが戦闘中に放った言葉がずっと引っかかっていたからだ。

 何年も前の事、姉はオレや両親の事を避けていた時期があった。理由は分からなかったが、もしかしたらあの頃からザンザスの様に思っていたのかも知れない。そう思うととても複雑だった。だがザンザスが言う様にその気持ちは本人達にしかきっと分からない事なのだろう。だから彼女がイタリアに行きたいと言った時にオレは止められなかった。

 初め、父さんは頑なになまえの意見を受け入れなかった。それもそうだろう、つい先日まで拐った張本人達の元へ娘を送り出せる親が居るだろうか。
 だがなまえは諦めなかった。あんなに自分の気持ちを素直に言う姉を今まで見た事があっただろうか。それ程姉はヴァリアーの人達と、ザンザスと一緒に居たいと思っているのだろう。拐われた期間に何があったのか、思い出した過去がどんなものなのか、オレには分からないけど、なまえがどんどん離れて行ってしまう気がして、オレはやるせない気持ちと悲憤な思いが少しずつ湧いてきていた。



 オレとなまえはこの所、口を利いて居なかった。正確に言えばオレがなまえにどう接すれば良いのか分からなくなってしまったのだ。
 両親は姉の説得に折れた。父さんは最後まで否定していたが、母さんが姉の強い気持ちを尊重して父さんを説得したのだ。オレは益々憤りを感じた。なまえはオレ達よりザンザスを取ったのかと。

「お前まだなまえがヴァリアーの所に行くこと引き摺ってるのか?女々しい奴め」

「リボーンに言われたくないよ!なまえは家族なんだぞ?!ザンザスなんかの所に行かせられるか!」

「だが家光もママンも了承したんだろ?」

「それでもだ!!」

 リボーンもリボーンだ。あいつは今回の件に全く首を突っ込まなかった。それまでなまえをマフィア界に近付けさせない様にしていたのはあいつ自身だったのに。

 トントンと扉をノックする音がした。返事をするまで開けない事や声がしない事になまえだと察する。オレは今の会話が聞かれたのかと思い、慌てて扉を開けた。

「なまえ!今の……」

「うん、聞こえた。話、大丈夫?」

「う、うん……」

 なまえも少し戸惑っている様だった。暫くテーブルを見つめてからなまえは忘れていた過去の話や、イタリアでザンザスに会っていた事、ザンザスに残酷な約束をしてしまった事を教えてくれた。

「綱吉からしたら裏切られたと思われても仕方ないかも知れないけど、わたしあの時約束してしまった事をちゃんと謝りたいの」

「それならわざわざヴァリアーの所に行かなくたって……」

「彼等の優しい所も知ってしまったから……」

「でもまたマフィアに関わる事になるんだよ?」

「そうね、でも今度は自分で選んだ道だから。綱吉、心配してくれてありがとう。両親や綱吉がわたしの事を大切な家族だと思っている事ちゃんと分かっているよ。わたしも同じ様に綱吉達の事を思ってる」

「………。」

「でも思い出した過去の事を無かった事には出来ないみたい。ザンザスさんの様になりたいって昔思った事を思い出してしまったから……ごめんね、綱吉」

「正直なんでヴァリアーの所なんだよってまだ思ってるけど」

「うん」

「でもなまえが本気なの分かったから」

「うん」

「……本当に気をつけて」

「ありがとう、綱吉」

 なまえは静かに微笑んだ。とりあえず数日後にイタリアへと行くらしい。向こうがどう対応するか分からないがもし受け入れたらなまえとは暫く会わなくなる。ずっと一緒に過ごしてきた家族が離れてしまうのは寂しかった。

「っていうかなまえも骸と一緒なの?!」

「骸……?マーモンさんの相手の方だっけ?」

「なまえ、お前骸の事知らねーのか?」

「ザンザスさんにも同じ事を聞かれたのですが、記憶を取り戻しても聞き覚えが無いので多分知らないかと……」

 骸はなまえの事を知っている様だったので、もしかしたら顔見知りかと思いきやそうでも無いらしい。過去の話といい、なまえまでマフィア関係なのは心底驚いた。関係あるのは父親だけだと思っていたのに。
 なまえは考え込むオレの顔を覗き込んだ。

「綱吉、仲直りしてくれる?」

「べ、別に喧嘩してた訳でもないし……」

「でも怒っていたでしょう?」

「うっ……」

 痛い所を付かれてオレは何も言えなかった。だがなまえは気にしていない様子で「じゃあ明日美味しいものでも食べに行かない?それで仲直りってことで」と明日の約束を取り付けた。別にそんな事しなくたってなまえが本気な事を知ったら、オレには応援する以外の選択肢は無くなるのに。
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