おや?と、疑問を持ってから少しして、相手に囚われそうになった時なまえは、恐らくこの人物は主犯では無いと、何となく気が付いた。

「大人しくしていなさいよ」

 化粧室に行きたいとXANXUSに伝え、彼の元を離れて一番近くにある場所へと入った。目の前まで来ることは無かったが、ホールの一番近くの出口まで彼はエスコートをしてくれて、今もきっとそこでなまえの帰りを待っている。
 そのあと化粧室で先程の赤いドレスを着た女性を見つけたところまでは良かった。しかしすれ違う少し前に、女性から違和感を感じたのだ。殺気のようなものだったが、それにしては随分とぼんやりとしていて、まるで一般人のようなその雰囲気に。
 すれ違いざまに声をかけられ、女性がなまえの背後に回る。両手を抑えられ、太い縄で縛られると、背中を押され座り込んでしまったところに、ドレスの空いた背中を踏みつけるようにしてヒールを立てた。

「っ……」

「叫ばれちゃ困るわね」

 そう言って口にテープを貼られる。正直なところ囚われそうになった瞬間、逃げることだって、倒すことだってなまえには可能であった。しかし、何となく赤いドレスを着た女性が主犯では無いことに気付くと、主犯を引き寄せるためにも捕まった方が効率がいいのでは無いかと思ったのだ。
 女性とは先程初めて会ったばかりだというのに、まるで心底憎いと思っているような、憎悪に満ち溢れた表情をしている。美しい顔のせいでより恐ろしく感じてしまったなまえは、心に鋭い氷が刺さったような気持ちになった。
 思い返してみても、あの女性とは面識はない筈だ。あの十数分足らずの挨拶でここまで憎まれることもないだろう。では何故?と考え込んでいると、両手に繋がれた縄を持ち上げられて、無理矢理立たされる。

「静かに歩きなさいよ」

 しかし出口のすぐ近く、ホールの入口にはあのXANXUSがいる。このままだと簡単に見つかってしまうのではと思ったが、一瞬不思議な感覚に包まれたかと思うと、隣の女性は臆することなく化粧室から出た。
 その様子を見て、一瞬感じた違和感は幻覚かと理解しながら隣をゆっくりと歩いた。この幻術を隣にいる女性が創り出したとは到底思えないので、彼女の他に仲間がすぐ近くにいるのかもしれないが、もしそうであったとしても、XANXUSがこれに気付かぬわけがないだろう。







 ここの会場に来て初めて入った部屋とは真逆の、裏手口に近い小さな部屋へとなまえは押し込まれた。

「案外すんなりだったな、抜かってないだろうな?」

「ここに来るまで誰にも気付かれていないわ」

 部屋に居たのは一人の男性であった。先程XANXUSの元に挨拶にきた中年の男性とは別の、それよりもう少し若そうに見える人だ。部屋に足を踏み入れた瞬間、なまえでも分かった。この人物が主犯なのだと。
 今日この会場で出会った人物の中で一番野心を感じるような、明らかな敵対心を持つ人だと感じる。事情は分からぬがボンゴレファミリーを潰したいと考えているのだろう。しかし、やはりどうしても隣にいる女性はそうは見えない。マフィアとして強そうでも無ければ、目の前にいる男性とはまた違った瞳をしているからだ。

「ザンザスの隣にいるせいか肝が座っているな」

 口角を上げながら男性が告げる。こつりと革靴を鳴らして一歩ずつなまえに近付くと、顎を掬い、そのまま口に貼ってあるテープを勢いよく引き剥がした。

「っ……」

「声は上げねぇか。本当は恐ろしいか?」

 そう言った男の瞳はぎらぎらとしている。他の皆がこの状況に気付くまで、あまり自ら動かない方がいいだろうと考えたなまえは、あからさまな態度は取らなくともそれとなく怯えた表情を浮かべた。

「くくっ……、あの男の隣にいても戦えなければ赤子同然。思ったより簡単に事が進みそうだ……」

 やはり、なまえの予想通り、この男は自分が戦えるということを知らなそうだ。
 なまえがヴァリアー隊員として所属していたことは殆ど公にはされていない。任務に赴くことも殆ど無かったので、ボンゴレファミリーの者ですらその事を知る人は多くはないだろう。XANXUSの婚約者として正式に決まった時に、その名は外部へと知らされたのだ。
 これは好都合だと内心なまえは思った。ここ最近は戦うことなど殆ど無かったが、空いた時間の鍛錬は未だ続けたままでいる。いつ何が起こるか分からない状況なのは婚姻したとしても変わらないからだ。
 もしかすれば、XANXUSさんには怒られてしまうかな。
 そんな考えが頭を過ぎるが、既に意識は目の前の男と、見えぬ所に隠している匣兵器に向いている。心の中で自らの匣兵器に声をかければ、ほんの少しだが暖かくなったような気がした。



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瑞花 - zuika -