「ボス、準備は整ったよ」

 少しだけ高く、けれど落ち着いた声が静かに響いた。声の主は、見た目だけで言えば少年と言った方が正しいのだろうか。バイパー、いやマーモンは、虹の呪いを解かれてからゆっくりと元の姿へと戻っている。しかしあの戦いから未だ数年しか経っていないためか、その姿は幼い少年にしか見えなかった。
 彼にボスと呼ばれた男、XANXUSはゆっくりとマーモンを一瞥してからそのまま前に向き直った。鋭い視線と、びりびりと伝わる空気が肌に突き刺さる。どんな経緯があったのか当の本人以外には分からないことだが、なまえ自らが犯人に接近したのだ。大方、あの赤いドレスの女性に連れられそうになったところを大人しく着いて行ったのであろうが、それにしても時折見せる彼女の大胆さにXANXUSは苛立っていた。

「まじでアイツ、戻ったら超怒られんじゃね?」

「……さあ、どうかしら」

 ひそひそと、マーモンより少し離れたところでベルとルッスーリアが囁いている。少し前の話であれば確実になまえは怒られているだろう。しかし婚姻してからというものの、XANXUSがなまえに甘いということもまた事実だった。

「それよりも彼奴は武器を持っているのか」

「着替えた時に匣兵器も持つって言ってたけど……」

「はあ?見てたのかよ」

「まさか。流石にそんなことしたら私だってボスに怒られちゃうわ」

 首筋に残る赤い印は見てしまったけれど。
 心の中でルッスーリアはそう思った。なまえは見られたくないと思っていただろうから何も言いはしなかったが、あのメイクアップアーティストの視線を追えば簡単にわかることであった。
 レヴィはちらちらとXANXUSに視線を向けながら、少々心配気味に質問を繰り返している。その落ち着きの無い様子に「ちょっとまじで黙ってくんね?」と、ベルが冷たく視線を向ければ、今にも飛び掛かろうと武器に手を掛けた。

「こーら、レヴィ。作戦が台無しになるわよ」

「ぐぬ……」

「本当変わらねーやつ」

 レヴィが拳を握ったところで、XANXUSがちらりとそちらを見遣る。この世で一番尊敬するボスと視線が合い、ハッとした様子でその拳を解いたように見えた瞬間、ホール内に大きい爆発音が響いた。

「っ来たか!」

「ゔぉぉい!各自さっき言った通りに動けよ」

 スクアーロの言葉とXANXUSが向けた視線を受け取った各自はそれぞれ持ち場へと着く。しかし当初の予定では動かぬ筈であったXANXUSが動いたことに気付いたスクアーロは、持ち場へ向かう脚を止めてからお決まりの声を上げ、XANXUSに食いかかった。

「ゔぉぉい!当初言ってたのと違ぇだろう!」

「るせぇ」

「ったく、どこに」

 そう彼が言い終わる前にXANXUSはホールを抜けてしまった。「ボスさんがここにいなきゃ意味ねぇだろう!!」と一人激しく叫んだが、遠くから何とも言えない表情で見つめるディーノと沢田綱吉の視線と絡むだけである。理由は何となく分かるが、それならそうと初めから言ってくれと、スクアーロは髪を乱雑に払った。

「スクアーロはお留守番か?」

「うるせぇぞお!跳ね馬」

「ははっ、ザンザスはなまえのところか?」

「知らねぇ」

「優しいなあ」

「んなこと言ったらカッ消されるぞ」

 それは怖ぇな。と、ディーノは笑いながら呟いたが、その意識はまだ姿を表さない敵にへと向けられている。XANXUS本人が動いたならばそれほど心配することは無いだろうが念には念をだ。

「敵に同情したくなるな」

「一番やっちゃいけねぇことをしたからなあ」

「なまえもまだ現役と変わらないだろ?」

「昨日も通常通り鍛錬していたからな……まあでも、ボスさんが行ったならそこまで出番もねぇんじゃねえか?」

「それもそうだな」

 相手は恐らく幻術を使ってくるだろう。マーモンが先程言っていたが、同じ霧属性の者がかなりの人数でいるらしい。とは言ってもヴァリアーにも元アルコバレーノであった最強の術者と、なんと言ってもXANXUSがいる。
 今回は暴れられそうも無いな、と、スクアーロは少しだけ肩を落とした。



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瑞花 - zuika -