episode 06
それは突然だった。「え?明日?構わないけど……学校あるから夕方になるけどいい?」
継承式の日に会ったばかりであるが、明日ベルが日本に遊びに来るらしい。前回来た時に寿司が食べられなかったことを根に持っているのだろうか。何にしても向こうからわざわざ来てくれることは嬉しいことである。明日の放課後が楽しみになった。
「ごめんなさい。今日は予定があって」
「残念。じゃあ途中まで一緒に帰らない?」
蘭さん達からの放課後のお誘いを断り、わたし達は校門へと向かった。ベルから少し前に「着いた」と連絡があってから、待ち合わせ場所も未だ決まっていない。一先ず学校が終わったことを連絡するべきかと、スマートフォンを取り出すと、隣から声をかけられる。
「ねえ見て!なんか凄い人がいる!」
「本当だ……!金髪だし……なんか頭に乗ってない?何だろうあれ……しかも髪で目が見えないけど」
蘭さん達の声にわたしは顔を上げた。思い当たる人が一人だけいるが、まさか。
「ベル!!」
「おっせー」
どうやら間違っていなかったらしい。私服ではあるものの、彼の出で立ちは目立つ。仮にも暗殺者である彼がわざわざこんな人目に付く場所に訪れるとは思わなかった。
「え!ちょっとなまえ!知り合い?!」
わたしの後ろから園子さん達が駆け寄る。だがベルの放つ雰囲気にどうも近寄り難いらしく、少しだけ距離を保ちながらわたしに声を掛けた。
「うん。ごめんね、迎えに来てくれたみたいだから、今日はここで。また来週ね」
既にベルは歩き始めている為、呆気に取られたままの二人に何の説明も出来ぬまま、わたし達は校門の前で別れた。二人が色々誤解していなければいいのだが。
行く先も決めていないが、ベルは迷わず進んでいく。行きたいところでもあるのだろうか。
「何処か行きたいところでもあるの?」
「前にお前が言ってただろ、何とかって店」
「え……?ああ、ポアロのこと?」
驚いた。勝手に竹寿司に行くものだと思っていたが、目的地はどうやらポアロらしい。先程別れたばかりの二人にまた出くわすのでは無いかと内心冷や冷やとし、恐る恐る硝子越しに覗くが二人の姿は見えない。代わりにその二人よりも厄介な人物がいた。あの小さな探偵君である。そもそもここには安室さんがいるのだ。彼等が只者でないことくらい分かっている。それもベルに伝えた筈なのだが……。いやだからこそ興味を持ってしまったのかも知れない。わたしは内心溜息をつきながら扉を開けた。
「いらっしゃいま……あれ、なまえさんじゃないですか」
普段、蘭さん達の後ろに着いている為、わたしが来店したことに多少驚いているようだ。そしてわたしの後ろにいる存在を確認すると僅かに目を見開いた。
「二名様でよろしいですか?」
「はい。お願いします」
普段であれば安室さん目当ての女性客が何組かいるが、今日は空いているようだ。
「なまえさん!」
コナンくんもわたしに気付いたように声を上げる。
「こんにちは」
「後ろの人は?お友達?」
「ええ」
「へえー……なんだか王子様みたいだね!」
ベルはコナン君を気にもせず、案内された窓際の席へと着く。
「ごめんなさい、ちょっと難しい人で」
「ううん、平気だよ」
わたしも案内された窓際の席へと着く。一頻りメニューを見てから、安室さんを呼んだ。
「わたしはホットコーヒーを、彼にはカフェマキアートを。あとハムサンドを一つお願いします」
「畏まりました」
ポアロに入店してからベルは一言も話していない。彼等のことを測っているのだろうか。
「ここのね、ハムサンドが美味しいのよ」
「ふーん」
暫くしてから安室さんはハムサンドとドリンクをテーブルに置いた。ベルは暫く見つめてからハムサンドを手に取り一口食べると、何も言わずに食べ進めた。どうやらお気に召したようだ。
寿司が食べたいと言い始めたので、わたし達はポアロを出ることにした。最後まで安室さんとコナン君はベルのことを気にしていたが、彼は一度も彼等を見ることなく店から出た。扉が閉まった瞬間、安室さんはわたしに尋ねた。
「彼とは何処でお知り合いになったのですか?」
「日本でですよ。ちょっとした偶然が重なって仲良くさせてもらってます。ではまた来ますね、ご馳走様でした」
納得いかなそうな顔をしていたが、これ以上彼等に話すことは何も無い。店を出るとベルは面白く無さそうな顔をしていた。
「どうだった?」
「微妙」
まあベルからしてみたらそうだろう。それよりも先程の彼等の会話には気になる点が幾つかあった。
「なあ、コーアンって何?」
わたし達は一般の人より耳が良い。と言うよりも周りの音に敏感なのだ。彼等には申し訳ないが、離れていたとしても彼等の会話は全て聞こえてしまっている。やはりベルも先程の会話が気になっていたようだ。
「公安っていうのはテロリスト等の反社会的な活動を取り締まる役割を持つ警察の部門のことよ」
公安警察と一括りにされているが、実際は警察庁警備局という名前の部門と警視庁公安部という所属に分かれている。安室さんがまさか警察の人間だとは思ってもいなかったが、彼はその中で黒の組織というものに潜入しているようだ。
「ベル、黒の組織って聞いたことある?」
「あー、そういや前に作戦隊長が前に言ってた気が」
思わぬ収穫を得てしまったようだ。これは後でリボーンにでも聞くとしよう。一先ず日本まで来てくれたベルに寿司を奢ることが先だ。