episode 05
「それにしても、やられすぎなんじゃないか?」確かに世良の言う通りだ。予告状が届いていたにも関わらず、こんな大きな仕掛けに気付くことなく当日を迎えてしまったのだから。
世良の言葉に心当たりがあったのか、鈴木次郎吉相談役は唸り声を上げながら、数日前の出来事を話した。
「もしかしたらじゃねえ!そいつらがキッドとその手下なんだよ!展示場がここだってバレバレじゃねーか!!」
「済んだことをグチグチと……。まあ今回は儂らの負け!撤収じゃ。どうせ気奴らはここから立ち去ってしまっ……たたた」
最後まで言うのを待たず、世良が鈴木次郎吉相談役の頬を抓る。
「と見せかけて、まだこの展示場内にいるんじゃないのか?」
キッドの変装を確認する為に数人で組になりボディーチェックを行うことになった。世良がやけに饒舌に話しているような気がするが、その真意は読み取れそうもない。蘭達は四人でボディーチェックを行うことになったようだ。
「え?いいのか?ボディーチェック、ボクも君達の組に入っても……」
「いいわよん。隅から隅まで調べてあげるから」
「じゃあ誰から始めようか」
「それなら歳の順で僕から調べてくれ」
世良のその言葉に蘭と園子は顔を顰めた。
「歳の順って世良さん何月生まれなの?」
「それを言ったらなまえとか一番大人びてそうだけど……」
「まあ世良さん探偵だからね」
渋々と園子は世良のボディーチェックをしていく。次は沢田なまえの番のようだ。
「わ!なまえ、あんた細いくせに意外と筋肉あるのね」
「スポーツとかやってないよね?」
「ダイエットの為に筋トレしてるだけよ」
「ええ〜!全然太ってないのに……」
先程のあの動きは普通の人が出来る動きでは無い。それに着地する際も音が全くしなかったのも気になる。一体彼女は何者なんだ。
天井には糸を埋め込んでいた形跡、照明からはウィンチのような物が発見された。警備隊のボディーチェックも全ての済ませたようだが、未だ宝石もキッドも見つかっていない。
「くそ……!おい!そっちはどうなんだ?!」
「こっちもチェック終了!宝石も亀も無かったわよ!」
園子の返事に世良は戸惑いを見せた。
「え……でもまだ蘭ちゃんのチェックが……」
「大丈夫!蘭は見れば本物かどうかわかるから!」
そう言った園子は世良から少し距離を取ってニヤリと笑って見せた。
「とか言って……、本当はキッド様なんでしょ?」
「違っ!私は……!」
園子がそう思うのも無理はない。宝石が見えなくなった直前、一番不審な行動をしていたのは蘭だ。
「あれはあの時、園子に時間を聞かれて携帯電話でチェックしようと思ったら、開けた途端に画面が真っ暗になっちゃって……」
「それ本当?本当なの?蘭姉ちゃん」
「え、ええ。だから電波の入りが悪いんじゃないかと思って、窓の方に二、三歩あるいたら突然カーペットが……」
「わたしのは大丈夫でしたよ」
沢田なまえが取り出したのは、スマートフォンであった。……成程、そうか。だから蘭のだけ画面が暗くなったのか。
俺はおっちゃんにいつものように時計型麻酔銃を打ち込むつもりが、蘭に背後から抱きつかれてしまい、隣にいた園子に打ち込んでしまう。だが推理役は園子でも問題無いだろう。今回のトリックを全て暴いてみせた。
「だから何度も撤収しろと言ったのか……!」
「懐の亀が可哀想でな……」
「んで?肝心のキッドは何処なんだよ」
「さぁ……。仕掛けは全部リモコンで遠隔操作出来るものばかりだし、操作は入口に寄せた客に紛れてやったでしょうから……今頃はドヤ顔でスキップしながら帰路についているんじゃないかしら」
今回の宝石は合成ダイヤまみれの胡散臭い代物であった。怪盗キッドはその事を鈴木次郎吉相談役にカードで知らせ、それを知った相談役自身が懐に亀を忍ばせたのだ。合成ダイヤを作る際に使う溶剤の中に含まれる鉄が、インクルージョンとして結晶中に取り込まれる場合があるため、水槽に貼られたプレートにくっつき、尚且つ裏には強力な粘着物が貼られていた為、皆の視界から消えたという訳だ。
「でも凄いよ園子!久々の推理クイーンだったわね!」
「ま、まあね!」
「園子さん、お体は特に何もありませんか?」
「え?うん、特に何も無いけど……」
園子は歯切れが悪そうに答えた。大方推理の記憶が無いことを気にしているのだろう。何せ彼女は眠っていただけなのだから。
「私達、御手洗行ってくるね」
「行ってらっしゃーい」
三人が御手洗へと向かい、その場には俺と世良だけが残った。
「でもさー、さっきの推理だと不十分だと思わないか?」
「え?」
「あの仕掛けで亀の体はプレートの裏に隠せたとしても、宝石に付いていた長いネックレスが垂れ下がって、プレートからはみ出しちゃうと思うけど……」
白々しく告げてきた世良に俺は怪盗キッド自身も強力な磁石を持っていたのでは、と告げる。だからあの時、蘭の携帯電話のみ画面が真っ暗になった。二つ折りの携帯電話は磁石で開閉を検知しているものもある。あの時蘭の近くにいた者が強力な磁石を持っていた為、閉じたと勘違いして液晶画面が暗くなったのだろう。
「でもあの時、蘭ちゃんの傍にいたのは……」
「僕と、園子姉ちゃんと、なまえさんと、おめーだよ怪盗キッド!」
奴は口角を少しだけ上げた。
「どこで俺の正体に気付いたんだ?」
「きっかけはさっき言った磁石。まあ最もお前が提案したボディーチェックのお陰でキッドだと確信したんだが……」
「ん?体形は大して変わってねーんじゃ……」
「ボディーチェックを一緒にやろうと蘭達に誘われて驚いたのも、自分が蘭達より年上だと思ったのも、世良が一学年上の男だと思ったからだろ?同級生の男なら普通、世良さんとは呼ばねぇからな」
俺がそう告げると、怪盗キッドは顔を青くした。
「ま、まさかこいつ……女の子だったのかよ?!」
「ああ……。まあ、この前のベルツリー急行の時に世話になったし、今回は何も盗んでねーから見逃してやるよ。俺はな」
俺は……?と首を傾けたキッドの後ろから走ってくる音が聞こえると、それは怪盗キッドに向かって飛びかかり、顔を蹴り飛ばした。
「てんめぇ……良くも僕にスタンガンを!」
よく見てみると世良は下着姿のままであり、俺達は少しだけ目を見開いたが、その後ろからタオルを持った蘭達が走ってきた。
「世良さん!下着、下着!」
「丸見えよん!」
沢田なまえは何も言わずに、怪盗キッドの方を見つめていた。
俺達が怪盗キッドから目を逸らした瞬間、ポンっと音が鳴り、怪盗キッドは変装を解いて窓から飛び逃げた。
何故世良が男子トイレで捕まっていたかと言うと、女子トイレが混んでいたから男子トイレに入ったらしい。それは怪盗キッドも男だと勘違いする訳だ。
蘭達から少し離れて歩いていると、隣にふと沢田なまえがやって来て、俺にしか聞こえない程の小さな声で呟いた。
「随分危ないものを持っているんですね」
「え……」
「その時計。園子さんを眠らせたの、それでしょう?」
思わず沢田なまえの方を勢いよく向いたが、彼女は前を向いたままこちらに目線を寄越さない。
「その身につけている時計も、蝶ネクタイもあの人達に見せたら喜びそうね」
あの人達とは一体誰のことだ?
「随分腕のいいメカニックさんがいらっしゃるみたいですね。推理もお見事でした」
そう言って沢田なまえは、俺を一瞥すると少しだけ口角を上げて俺から離れていった。今回の推理を俺がしたことも、そのやり方も、彼女は気付いていた。もしかしたら俺の本当の姿が誰なのかも気付いているのだろうか。