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わたしは山本くんの見舞いに行こうと病室を訪れ、彼の様子を見に来たが昨日と変わらず彼は昏睡状態が続いていた。暫く様子を見ていたが今日も起きる様子は無さそうである。わたしは部屋を出ようと扉を開いたが、その瞬間背後から突然気配を感じた為、慌てて振り返った。「嘘……」
そこに現れたのはもう二度と見ることが無いと思っていた人物。白い服を身にまとい、背中からはあの大きな翼が生えていた。
「白……蘭……」
「やぁ」
わたしは無意識に手が震えていた。一度目の記憶はわたしには無いが、彼はわたしを二度刺した男である。恐怖によって一歩後退りしそうになるが、此処には山本くんが居る。逃げる訳にはいかなかった。
だが彼の瞳を見たら震えは止まった。以前の様な底抜けな虚無感を感じない。澄んだ淡藤色の瞳は真っ直ぐわたしを射抜いた。
「白蘭、なの?」
「そうだよ。久しぶり、なまえチャン」
彼は山本くんに近付いた。何をするつもりなのかとわたしは彼の前に立ちはだかる。
「僕は助けに来たんだよ」
「助けに……?」
「そうそう」
「信じてもらえると?」
「でも、このままじゃ彼、危ないんじゃない?」
「っ……」
わたしは白蘭を睨み付けた。「いっつもなまえチャンは怒ってるなあ」なんて飄々としながら、彼はわたしに腕を伸ばした。
「大丈夫だよ」
彼の手がわたしの頬に触れた。
「?!」
「大丈夫。見てて」
わたしを押し退け、白蘭は山本くんの前に立つと翼を大きく広げる。眩い光がわたし達を包み、暫くすると山本くんの瞼がぴくりと震えた。
「山本くん?!」
「あ、あれ………オレ……」
本当に彼が目覚めるとは思わず、白蘭を見ようと後ろを振り返ったがそこには誰も居なかった。
「今……」
「白蘭よ」
「やっぱり……」
「体は大丈夫そう?」
「はい。ツナ達は……」
山本くんには全てを伝えた。綱吉達はシモンファミリーとの戦いに向かったと告げると、彼は夜が明けたらそこへ行くと告げた。今晩はゆっくり休んだ方がいいと彼をベッドに寝かせ、わたしは白蘭を探す為に病院を出た。
「白蘭!」
「バレちゃった」
病院を出てすぐに白蘭を見つけた。彼の翼はもう無くなっており、ゆっくりと此方を振り返った。じっと淡藤色の瞳を見つめる。
「……ありがとう」
「うん。どういたしまして。元気だった?」
白蘭と普通に会話をしている事に違和感を感じたが、素直に彼の問いに答えると、彼はじろじろとわたしを見つめた。
「まだザンザスくんの後ろをくっついて歩いてるの?」
「……どういう……」
「君のその感情は依存と変わらないよ」
「な……にを」
わたしがザンザスさんに対するこの気持ちは一言で表せるものじゃない。ましてや、他人に何かを言われる事でも無い筈だ。
「何で貴方にそんな事を言われないといけないの」
きつく睨んだが白蘭は気にしていない様に此方に向かって歩き出す。
「僕ね、結構なまえチャンのこと好きだったんだよ」
「は……」
「なのになまえチャンってばずっとザンザスくんしか見ていないし、しかも君はそれを恋だなんて勘違いをしている」
「勘違いなんて……」
「本当に?」
白蘭はずい、と顔を近付けた。わたしは彼に向かって強く睨み付けた。わたしがあの日自覚したと思っていた恋心は偽りだとでもいうのか?
「なまえチャン、僕とお友達になろうよ」
「友達……?」
「そう。ちょうど今日本に居るんでしょう?ザンザスくんの事は一旦置いておいて、僕と一緒に来ない?」
もしこの感情が偽りだとしても、彼の元を離れ白蘭と共にいる理由はない。わたしは無言で首を横に振った。
「そっか、ザンネン。まあでも僕、今ボンゴレの監視下にいるから一緒には居られないんだけどね。でも覚えておいて、僕は君と仲良くなりたいんだ」
答えが分かりきっていたような表情をした白蘭はそのまま闇夜に消えたが、わたしの中に残った疑問は消えることは無かった。